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米政府、残業手当要件の変更を発表。数百万人が残業代支払対象に。

2016年05月19日 | ニュース

昨日(5月18日)米国政府は残業手当支払ルールの変更を発表した。

現在の米国では原則として週40時間を超えて働くと「残業手当」を支払うことになっている。ただし年収2万3660ドル=週給455ドル(1ドル=110円として260万円)以上の管理職はこの対象外になっている。

昨日米国政府はこの年収制限を倍の47,476ドル=週給913ドル(520万円)に引き上げた。

残業手当が支払われる年収制限(以下閾値)は10年ぶりのことで、過去40年の中で3回目の引き上げだ。

バイデン副大統領のエコノミストを務めたJared Bernstein氏は「この法改正は、ヘルスケア法の改正とともにオバマ政権が中産階級支援のために達成した最も重要な施策だ」と評価した。

新しい残業手当支払いルールは今年12月1日から実施される予定だ。米国労働省によると「新しい閾値の導入により、現在の年収制限の元では7%だった残業代支払対象者は35%に増加する」と予想している。また労働省はこれにより420万人の勤労者の所得が増加すると予測している。

残業手当の増加は、懐具合の苦しい雇用者を直撃する。「上に政策あれば下に対策あり」というのは有名な中国の諺だが、米国の雇用者も色々対策を考えるので、果たして労働省の計算通りに行くかどうかは疑問が残る。

CNN Moneyは閾値の改正により雇用者が4つの対応をとる可能性があると示唆している。

1)雇用者がそのまま新ルールを受け入れるケース

現在年収ベースで2万3660ドルから47,476ドルの間にいる勤労者は、週40時間を超える勤務を行うと残業分につき1.5倍at time and a halfの残業手当を支給される。また「管理者」として残業手当支給対象外になっていた人も年収がこのレンジにある場合は「残業手当支給対象者」に再分類される。

2)雇用者が年収を引き上げて閾値以上の年収にするケース

勤労者の年収が新しい閾値の47,476ドルに近い場合、雇用者は基本給を閾値以上に引き上げ、残業手当支給対象から外すという対応をとることが予想される。この場合勤労者の年収アップは現在の年収と閾値+アルファの差に留まる。

3)残業廃止

新しいルールで今まで残業手当対象外になっていた「管理者」が残業手当支払対象者になる場合、雇用者は残業を止めさせ、時間内勤務に収めるよう指示するケース

この場合は年収の増加はなしだ。ただ労働力不足を補うため雇用者はパートタイマー等を採用する必要に迫られる。

4)残業代を払う代わりに基本給を下げるケース

雇用者が残業代支払対象者になった場合、雇用者は基本給を引き下げ、残業代込で前の年収と変わらないレベルにするという対応をとる可能性もあるそうだ。随分乱暴な話に聞こえるが、最低賃金法に抵触しない限り違法ではないということだ。

ただし勤務者側は当然不満なので、労働市場が好調であれば、転職という手に出るだろう。

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以上のように見ると残業手当支払に関する年収制限が倍に引き上げられたからといって、今まで残業していた分にまるまる残業手当が支払わるとは限らない。しかし「みなし管理職」として残業手当なしに残業を強いられてきた勤務者にとっては朗報であることは間違いない。

日本でも労基法を改正して年収1000万円以上のプロフェッショナルについては残業代を支払わなくても良いという制度の導入が検討されたようだが、ホワイトカラーエグゼンプションという言葉が示すとおり、これはアメリカ発の制度である。今そのアメリカで大きな改正が行われている。

約520万円という残業手当対象外という閾値の設定も参考になると思うが、数字をこねるだけでなく、考え方の背景や雇用者の対応まで注意深く研究する必要があるだろう。

 

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