金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

年金基金の分散投資が国債金利を押し上げる?

2008年05月23日 | 金融

日本の国債の利回りの上昇が目立っている。経済成長率の悪化が明らかになる中で、金利が上昇する理由は「米国国債金利の上昇」や「石油・穀物価格上昇によるインフレ懸念」だ。それに加えて年金資金運用基金(GPIF)の国債売却懸念が入っているのではないか?と私は考えている。

日本の厚生年金など公的年金の資産運用を行うGPIFは世界最大の年金基金で資産残高は150兆円。「もの言う」株主として有名なカルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)の6倍の残高を持つ。

GPIFは67%を国内債券で、11%を国内株式で、8%を外国債券で、残りを外国株式と短期資産で運用している。過去5年間の平均リターン(名目ベース)は年3.5%だ。これは不動産、コモディティ先物、ヘッジファンド等に分散投資をしているスウェーデンやカナダの公的年金に比べて利回りが低い。(前者は7.5%、後者は10.4%)

FTが事情通から入手したところによると今日(23日)にも、経済財政諮問会議が福田首相に「GPIFのリターンを改善するべく、運用の多様化と運用スタッフの入れ替え」「幾つかのベビーファンドに分けて、運用者にパフォーマンスを競わせること」を提案する。この提案が立法化されると来年4月にも実行される見込みだ。

FTによるとGIPFの寺田前投資専門委員は「条件付で諮問委員会の提案に同意する」ということだ。条件付というのは、巨大資産をベビーファンド化することには反対ということだ。何故なら規模の利益を失うからである。

寺田氏はGPIFの控え目なリターンの原因は、日本の市場のパフォーマンスが悪いことと、下手な投資判断によるとしている。「天下り組」を含めてGPIFを運営している職員は、金融面のバックグラウンドがほとんどないと寺田氏は言っている。

☆     ☆      ☆

もしGPIFが日本国債を売却して、外国株式やヘッジファンドの投資を増やすことになると、国債の価格は下落して金利は上昇する。目端の利いた運用者は、先回りして国債の保有比率やDuration(残存期間)を下げることでリスクを減らそうとするだろう。これは経済のファンダメンタルとは関係のないところで、金利の押し上げ材料となる。

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原油高で日本の炭鉱見直されるか?

2008年05月22日 | 社会・経済

原油高に連動して、石炭価格も高騰した結果、日本の石炭が採算ラインに乗ってきたという話をニューヨークタイムズ(NT)で読んだ。毎月ある業界誌に寄稿しているが、今月のテーマは「原油問題」と決めたので、エネルギー関連の記事を跋渉していたところNTで北海道・美唄の話を見たという次第だ。埋蔵量が多いとは思われない北海道の炭鉱まで頼り出すところは、どこか少子高齢化が進む日本の労働市場を彷彿とさせる。つまり仕事によっては一度第一線を退いた(時には退かせた)人まで、戦力として呼び戻すところが炭鉱の復活と似ているのだ。さて記事のポイントを拾っておくと次の通りだ。

  • 日本の石炭産出量は1961年がピークで、662の鉱山が55百万トンの石炭を産出していた。昨年はわずかに8つの鉱山が1.4百万トンを産出しているに過ぎない。
  • 日本の石炭は数十年間トン当たり100ドル以上したため、高過ぎて競争力がなかったが、世界の石炭価格がこのレベルまで高騰してきた。オーストラリアのニューキャッスルから輸入される火力発電用石炭は03年にはトン当たり23.25ドルだったが、今月16日決済分は134ドルに上昇している。
  • 北海道電力は今年は国内炭の購入を倍の11万トンに引き上げるだろうと発表している。また三菱マテリアルは18年振りに国内炭を使用するだろうと発表している。
  • 北海道電力は地域経済を支えるため、過去毎年3万トンの石炭を美唄の炭鉱から購入してきた。国内炭の需要が強いので、石炭鉱脈探しを始めているのが北菱産業埠頭株式会社だ。この会社は三菱マテリアルの子会社。ところが長年鉱脈探しなどやっていないので、専門家がいなくて苦戦している。
  • 暗くて危険な深い地中で採掘する労働者がいないこともネックだ。また環境保護の観点から「ストリップ マイニング法(サイドキャスティング法)で採掘することも難しくなっている。
  • そこで注目を浴びているのが、地中で石炭を液化させ、石油のように汲み出す方法だ。もっともこの方法が実現しても、日本のエネルギー自給率が大きく改善することはない。国内炭は石炭需要の.8%を満たすに過ぎないからだ。とはいうものの、美唄を含む空知地方には60万トンの石炭が眠っていると推定されるので、現在の産出ペースなら30年間は使うことができる。

もっとも石炭採掘が採算ラインに乗ってきても、破産で有名になった夕張市などで雇用状況が改善するかというと楽観的ではない。既に述べたようにこれからの炭鉱は極めて資本集約的だからだ。とはいうもののこの地方には明るい話題だろう。

原油高騰は世界のあらゆるところで、新しいビジネス機会を生み出す。禍福はあざなえる縄の如し・・・という柔軟な姿勢でものを見ることが出来ると、新しい投資機会が見つかるかもしれない。

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原油不足懸念でオイル先物高騰

2008年05月21日 | 社会・経済

将来の原油不足に対する懸念から、オイル先物が急上昇している。昨日1日で先物は9ドル上昇して、1バレル139.30ドルに達した。価格の上昇が激しいのは決済期限が遠い先物で、2012年12月ものは今年1月以来60%上昇している。一方期近ものは35%の上昇だ。

エネルギー市場に極めて大きな影響力を持っている投資銀行ゴールドマン・ザックスは、先週投資家に2012年の先物を買う様に推奨した。

FTによると、影響力を持つ原油投資家ピケンス氏は世界の原油算出はほぼピークに達してると信じていて、今年年末までに1バレル150ドルに達すると警告を発した。ピケンス氏は「世界の原油算出可能量は1日85百万バレルだが、需要は87百万バレルあるので、価格が上がるのは明白だ」という。

ピケンス氏の見方はまだ少数意見だが、将来の原油供給に対する不安は、急速に主流を占めつつある。また何人かのオイル業界の幹部は、政治地政学的な不安定さから2012年から2015年位まで供給不足が続くと予想している。

中国で石炭不足から32の火力発電所が操業停止したこと・・・これは今年2回目だが、これも原油不足懸念をかき立てている。

☆    ☆     ☆

サブプライム問題が終わらない内に原油不足問題が急速にメインストリームに躍り出てきた。そして食糧と水不足問題も控えている。これらは総てインフレ懸念につながる。そろそろ日本の投資家もまじめに資源問題を考えるべきだろう。

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アメリカ、海外石油依存症を改め始める

2008年05月20日 | 社会・経済

米国が海外の石油依存を減らそうと動き出した。これは1977年以来のことである。FTによると昨年の米国の海外石油依存率は58.2%だったが、今年の最初の3ヶ月の依存度は57.9%に低下している。米国のエネルギー統計局によると、米国の海外石油依存度は現在の約60%から2015年には50%に減少し、2030年には54%に増加するという見込みだ。

米国のエネルギー情報管理局によると、国民が高い石油価格に対応しだしたことと昨年制定されたエネルギー独立・保障法(Energy Independence and Security Act)の影響で海外石油への依存度が低下し始めた。

私は米国の海外石油依存が低下し始めた最大の要因は、昨年来の原油価格の高騰であると考えている。しかし原油価格の高騰に歩調を合わせて、欧米では将来の原油の供給に対する懸念が高まっている。

1950年代後半にマーティン・キング・ハバートが「ピーク・オイル学説」を唱え、世界の石油産出量は1965年から70年にピークを迎えると予想した。一方多くの石油業界の幹部、政治家、アナリスト達はこの学説は、原油埋蔵量を低く見積り過ぎているなどの理由で否定してきた。しかし最近の原油産出量の減少を示す幾つかの出来事はこの学説を後押ししているように見える。このことはもう少し調べてからブログに書こう。

ピーク・オイル学説によると、ある油田の原油の産出量は釣鐘型になる。つまり少ない産出量からスタートし、産出量がピークに達すると今度は登ってきた坂を下るようなペースで産出量が低下していく。

今世界の幾つかの大油田で産出量の減少が始まっていること、そしてそれに替わる大油田の発見がないことは、石油資源の将来が見え始めたということかもしれない。

世界の大油田の中にはメキシコのカンタレル油田のように減退状況が日本語のホームページでも簡単に見られるもの(石油天然ガス・金属鉱物資源機構が「カンタレル油田の急激な減退とカルデロン新政権の政策動向」というレポートをHPに掲載している)ものがある。一方世界最大のサウジアラビアのガワー油田のように、政府が埋蔵量に関する情報を極秘にしているところもある。このため石油資源の埋蔵量を把握することは、極めて困難だ。だが米国か英国が最も確かな情報を持っていることは確かだろう。その米国が海外石油依存度合いを減らそうということは、石油埋蔵量に関する悲観的な情報を押さえているのではないかと私は推測している。

話は飛ぶが私は日産・ルノー連合が「電気自動車」の開発に力を入れ出したのは、カルロス・ゴーン会長が外国人であることと無関係ではないと考えている。これは私の全くの推測なのだが、五ヶ国語に堪能なゴーン氏(ブラジルとフランスの二重国籍を持っている)は、日本人経営者より石油問題に知見が深く、石油価格の高止まりが続きそして遠くない将来枯渇することを予想している・・・・・といえば考え過ぎだろうか?それともハイブリッド車でトヨタ・ホンダに遅れを取ったので、完全電気自動車で巻き返しを図っているだけなのだろうか?

石油枯渇は大問題だが、これを逆手に取って色々な商売が出てくるだろう。「人間というものはしたたかな生き物である」と言える日が来れば良いのだが・・・・

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金融機関は所詮は人事マンの世界なのか?

2008年05月20日 | 社会・経済

5月は3月決算の会社にとって大きな人事の季節である。6月の株主総会の役員交替を前にして、新旧役員交替の発表があるからだ。

ある金融機関の新任役員人事を見ていて、私は人事部出身者が多いと感じた。元々その金融機関は人事関係者(つまり人事部と組合)が、組織の階段を登る傾向の強い会社だが特にその傾向が強くなっていると感じた。

この問題に関して私はある直感的な仮説を持っている。それは「伸びる会社や業界ではプロダクツ出身者が偉くなり、縮む会社や業界では人事出身者が偉くなる」というものだ。縮む業界では「人減らし」が大きな経営課題になるため、腕を振るう(あるいは鉈を振るうというべきか)人事部の評価が上がる・・・というのが仮説の根拠なのだが、この仮説が帰納的に正しいかどうかはもっとデータを集めないと分からない。

ところでFTを読んでいたら、米国の金融界でも私の仮説を傍証するような出来事があることが分かった。

それは3月にベア・スターンズを救済買収したJPモルガンのダイモン会長が、競争相手や取引先にベア・スターンズの職員の採用を働きかける手紙を個人的に書いているという話だ。いや原文のpesonallyを「個人的に」と訳したがこれは間違いだろう。始めはJPモルガンは会社としてベア・スターンズの職員の解雇を進めながら、会長は人道的観点から再就職を斡旋しているのか?と思ったが、これは間違いだった。つまりpersonallyは「自署して」と解釈するとすっきりする。He signed the contract personallyという例文あるが、これは「彼は契約書に自らサインした」という意味。

話を戻すとダイモン会長は、(恐らく部下や秘書が作成した)個人名の手紙を競争相手や顧客にまで送って再雇用策を進めているということだ。

FTはこの動きを「思いやりではなく抜け目のないやり方」だと書く。この文章は英語の方が面白い。The move is not soft-hearted but hard-headed.ソフト・ハートは「思いやり」でハード・ヘッドは「抜け目のなさ」だ。ソフトとハード、ハートとヘッドの対は覚えておいて損はなさそうだ。

どうして抜け目のないやり方かというと再就職斡旋が上手く行くと離職者は自分を首にしたJPモルガンに対する不快感を和らげるし、退職金の額を減らすことができるからだ。

この前例を見ない就職斡旋プログラムがどれ程効果をあげているかは報じられていない。ただ私の仮説を当てはめると「米国(および英国)の銀行・証券業界では、販売するプロダクツに手詰まりなので、人減らしが喫緊の課題であり、企業トップまで首にする従業員のアウトプレースメントに汗をかいている」。そしてこれは「今後銀行・証券業界が伸びなくなること」を示唆している・・・ということになる。

欧米の金融機関というと、先進的なプロダクツの世界のように見えた時代があり、ディールの世界で利益を上げた人間が企業の階段を駆け上るのか・・・と思ったことがあった。しかしこれは幻想かもしれない。今しばらくは「人減らし」に腕を振るう人事マンが羽振りを利かす世界なのだろうか?

それにしてもライバル企業にまで、人材を斡旋するところは何でもありの米国でもさすがに先例がないらしい。それだけ証券業界が苦しいということだろうか?

日本では勧奨退職時に「競争先への再就職を何年か禁じる」という念書を取っている会社があった。ライバル企業に人材を斡旋するのもやり過ぎだろうが、競合先への転職を禁じるのもやり過ぎのような気がする。

いずれにしろこれらの施策を講じる人事マンは企業に残り組織の階段を登る・・・これが「縮む業界」としての金融業界の人事現象なのだろう。

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