私が住んでいる西東京市には余り作家は住んでいないと思っていた。西東京市というよりも西武線沿線に住んでいる作家が少ないのである。数少ない作家の一人が藤沢周平氏で、かって東久留米市に住んでいたことがった。
ところが最近私の好きな中村彰彦氏が西東京市に住んでいることを同氏の「戦国時代の『裏』を読む」(PHP文庫)を読んでいて発見した。
拙宅は西東京市保谷町のうちにあり、市内には玉川上水の分水のひとつ、千川上水が流れている(「歴史作家の見るところ」より)・・・・とあるではないか。もっともこの一文のオリジナルは「週間ダイヤモンド2003年9月20日号」に掲載されているので、それ以降引越しをされていないとしての話であるが。
中村彰彦氏の小説に魅力を感じる第一の理由は「徹底した史実主義」である。司馬遼太郎は「司馬史観」の展開を急ぐ余り時として史実を逸脱することがあった。より好意的にいうと自分が書きたいことを書くために他の重要な史実を無視したところがあった。中村氏の歴史小説は私が読む限りその辺りは抑制が効いていて、出来る限り史実に即して書くという姿勢が貫かれている。
第二の理由は文章の堅牢さだ。これは氏の持って生まれた資質かあるいは東北大学文学部で研鑽を積まれた成果であるのかは私には分からない。ともあれ中村氏の堅牢な文章は「史実小説」を書くに相応しい文体である。
第三の理由は私と年齢がほぼ同じということだ。同年代にこのような作家がいることは励みになる。そして第4の理由を加えるとすれば、近いところに住んでいるということだろう。
中村彰彦氏の小説は皆読み応えがあるが、中でも私は保科正之の生涯を描いた「名君の碑」は良い本だと思っている。特に政治家には読んで貰いたい本であるし、組織で人の上に立つことがある人にも勧めたいと思っている。