金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

金融機関は所詮は人事マンの世界なのか?

2008年05月20日 | 社会・経済

5月は3月決算の会社にとって大きな人事の季節である。6月の株主総会の役員交替を前にして、新旧役員交替の発表があるからだ。

ある金融機関の新任役員人事を見ていて、私は人事部出身者が多いと感じた。元々その金融機関は人事関係者(つまり人事部と組合)が、組織の階段を登る傾向の強い会社だが特にその傾向が強くなっていると感じた。

この問題に関して私はある直感的な仮説を持っている。それは「伸びる会社や業界ではプロダクツ出身者が偉くなり、縮む会社や業界では人事出身者が偉くなる」というものだ。縮む業界では「人減らし」が大きな経営課題になるため、腕を振るう(あるいは鉈を振るうというべきか)人事部の評価が上がる・・・というのが仮説の根拠なのだが、この仮説が帰納的に正しいかどうかはもっとデータを集めないと分からない。

ところでFTを読んでいたら、米国の金融界でも私の仮説を傍証するような出来事があることが分かった。

それは3月にベア・スターンズを救済買収したJPモルガンのダイモン会長が、競争相手や取引先にベア・スターンズの職員の採用を働きかける手紙を個人的に書いているという話だ。いや原文のpesonallyを「個人的に」と訳したがこれは間違いだろう。始めはJPモルガンは会社としてベア・スターンズの職員の解雇を進めながら、会長は人道的観点から再就職を斡旋しているのか?と思ったが、これは間違いだった。つまりpersonallyは「自署して」と解釈するとすっきりする。He signed the contract personallyという例文あるが、これは「彼は契約書に自らサインした」という意味。

話を戻すとダイモン会長は、(恐らく部下や秘書が作成した)個人名の手紙を競争相手や顧客にまで送って再雇用策を進めているということだ。

FTはこの動きを「思いやりではなく抜け目のないやり方」だと書く。この文章は英語の方が面白い。The move is not soft-hearted but hard-headed.ソフト・ハートは「思いやり」でハード・ヘッドは「抜け目のなさ」だ。ソフトとハード、ハートとヘッドの対は覚えておいて損はなさそうだ。

どうして抜け目のないやり方かというと再就職斡旋が上手く行くと離職者は自分を首にしたJPモルガンに対する不快感を和らげるし、退職金の額を減らすことができるからだ。

この前例を見ない就職斡旋プログラムがどれ程効果をあげているかは報じられていない。ただ私の仮説を当てはめると「米国(および英国)の銀行・証券業界では、販売するプロダクツに手詰まりなので、人減らしが喫緊の課題であり、企業トップまで首にする従業員のアウトプレースメントに汗をかいている」。そしてこれは「今後銀行・証券業界が伸びなくなること」を示唆している・・・ということになる。

欧米の金融機関というと、先進的なプロダクツの世界のように見えた時代があり、ディールの世界で利益を上げた人間が企業の階段を駆け上るのか・・・と思ったことがあった。しかしこれは幻想かもしれない。今しばらくは「人減らし」に腕を振るう人事マンが羽振りを利かす世界なのだろうか?

それにしてもライバル企業にまで、人材を斡旋するところは何でもありの米国でもさすがに先例がないらしい。それだけ証券業界が苦しいということだろうか?

日本では勧奨退職時に「競争先への再就職を何年か禁じる」という念書を取っている会社があった。ライバル企業に人材を斡旋するのもやり過ぎだろうが、競合先への転職を禁じるのもやり過ぎのような気がする。

いずれにしろこれらの施策を講じる人事マンは企業に残り組織の階段を登る・・・これが「縮む業界」としての金融業界の人事現象なのだろう。

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