金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

外資系企業への超優遇税制、政府はおかしくないか?

2010年12月17日 | 社会・経済

政府は外資系企業の地域本部を誘致するため、外資系企業に国内企業を大きく上回る税制優遇措置を与えることを決めた。ファイナンシャル・タイムズはこのニュースを大きく取り上げていた(邦字新聞では気がつかなかった。見落としかもしれないが)

それによると、経済産業省の寺澤達也経済政策課長は「日本史上初めて外資誘致のため、税制面の優遇措置を与えた」ということで、日本に地域本部や研究センターを設置する外資は5年間課税所得の2割を控除することができる。税金面の優遇を受けるには、新しい地域本部は最低他の2カ国のオペレーションを傘下に置き、1億円の資本金が求められる。

この優遇税制と来年度の法人税の5%減額を合わせると、税制適格の外資系企業の税率は20.4%から28.5%となる。

政府の狙いは、アジアの地域本部として台頭するシンガポールや中国に対抗するため、税金を優遇して外資誘致を図ろうというものだ。当局はこれにより来年度15の地域本部と研究センターの誘致を予想している。

☆  ☆  ☆

財政赤字と税収不足の中、政府はずいぶん思い切った外資優遇措置を打ち出したものである。狙いは雇用の拡大など経済の活性化なのだろうが、本当に狙い通りに行くのだろうか?

仮に外資系地域本部が日本に設置されたとして、そこで使われる言葉は当然英語を中心とした外国語。高い言語能力、専門スキル、交渉能力等が求められる。外資系企業が日本人を採用するという保証はどこにもない。少なくとも今就職戦線で苦労している新卒者に雇用機会が回ってくるとは思い難い。日本で勉強した優秀な外国人留学生を採用する方が手っ取り早いという判断もあるからだ。

そんな不安定な外資を頼むより、日本企業に雇用を高めるインセンティブを与える方法はないのだろうか?

国内で税金を取りやすい個人から取り、一部の外資系企業を優遇するという政策は本当に国のためになる政策なのだろうか?そんなに外資頼みが好きなら、政府の高官を世銀からの派遣に替えた方が効率的な政治と行政が行なえるかもしれない。

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寄付控除の改革だけでは寄付は増えない

2010年12月17日 | 社会・経済

政府が16日に決めた2011年度税制改正大綱の中に寄付控除の改革がある。改正案によると、寄付金額から2000円を引いた額の40%を所得税額から、10%を住民税額から控除するというものだ。現在の制度は「寄付金額(所得の40%が限度)から2000円を引いた寄付金額」を所得控除できるというもの(一定の要件のもとで個人住民税控除あり)で、前記の税額控除と選択できるようにする。

この寄付税制改革は今年1月に発足した市民公益税制PTの提案に沿うものだ。4月の中間報告を見ると「所得控除は高所得者に有利な制度となっており、所得の低い人に対する寄付促進効果が弱いことから、草の根の寄付を促進するため、あらたに税額控除を導入し、所得控除との選択性にする」とある。

だがこの改革によって個人寄付は増えるだろうか?そもそも民主党政権は個人寄付の総額を増やそうとして、税制改革を行なおうとしているのか、寄付する人の数が増えれば良いと考えているのか狙いが曖昧だ。

総務省が発表している家計統計によると1世帯平均の年間寄付金額は2,382円だ。寄付大国といわれる米国の世帯当り寄付金額は16万円だから如何に日本の個人寄付が小さいかが分かる(ただしこの数字は後述するように修正して考える必要がある)。

だが次のような理由から私は今回の寄付税制改革では寄付金額は余り増えないし、11年度の税制改革全体の影響からは寄付金額は減るかもしれないと考えている。

第一の理由は、税金優遇が寄付の大きなモチベーションになっていないということだ。平成20年の内閣府調査によると「寄付を増やすための条件」の第1位は「経済的に余裕があること」第2位は「団体の活動に関する報告が行なわれること」第3位が「手続きが簡便であること」だ。「税の優遇措置が受けられること」は6位に過ぎない。

第二の理由は、寄付者は比較的小さな寄付金の控除のために確定申告を行なうか?という問題だ。確定申告をする必要がある人は寄付金の税額控除を申請するだろうが、寄付金控除のために確定申告をする人は少ないのではないあろうか?

第三の理由は日本の寄付金税制は現行制度の下で、欧米等の制度とほぼ遜色ないものとなっている。つまり税制改正が寄付金を増やす効果は極めて小さいと予想される。

最後に寄付金額が減るかもしれないという予想は、今回の税制改正で高所得者の税負担が増え、寄付インセンティブを低下させるのではないかと考えるからだ。

ところで日米の寄付に関する統計で余り指摘されていないのが、米国の個人寄付は教会等への宗教寄付が含まれている点だ。寄付全体に占める宗教寄付の割合は3分の1、金額は8兆円を超える。

一方日本の家計統計によると09年度の世帯当り「信仰・祭祀費」は16,569円だ。この数字は例えば創価学会が年間の寄付目標としている世帯1万円などと整合的である。また私は家計統計上の「葬儀関係費」15,608円の半分程度は、諸外国との統計比較上、宗教寄付に加えるべきだと考えている。寺院に支払われる戒名料などは宗教団体への寄付と経済的には同じだと考えるからだ。

以上を考慮すると日本の世帯当り寄付金額は年間2.7万円弱となる。これは米国に較べるとかなり少ないが、英国の4万円にはかなり近い数字になる。

「日本人の寄付が極端に少ない」という主張は、データの正しい比較を行っていない人の主張か、あるいは寄付を煽ろうとする意図を持った主張のように私には見える。

米国の個人寄付総額が大きいのは、バフェットやビル・ゲーツのような人が巨額の寄付を行なうことによる部分が大きい。もし日本が本当に寄付を増やそうとするのであれば、稼げる人がもっと稼ぎ、その人たちが寄付することで大きな賞賛を得るようなシステムを作ることである。ただしそれが日本の風土と整合するかどうかは別の話である。

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