金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

金利正常化の時代に日本は対応できるのか?(2)

2010年12月15日 | 金融

先進国の国債金利が正常化に向けて上昇し始めたということは、前回のエントリーで書いた。今回の話題はジャンク・ボンドの金利が落ち着きだしているという話。

FTによると今年の米国ジャンクボンドへの投資パフォーマンスは非常に良好で金投資に次ぐ15%というリターンを上げた。記事についているグラフを見ると2008年から09年にかけてハイイールド債の利回りは21%、ハイイールドローンのスプレッドは20%近くに上昇し、今年は6%程度に低下している。(バンカメ・メリルインデックスによると、米国のハイイールド債券のリスクフリー金利に対するウプレッドは568bpで07年の241bpに較べるとまだかなり高い水準にある。)昨年ハイイールド債を仕込んでおけば、相当なキャピタルゲインを得ることができるから15%という眼がくらむようなリターンもレバタラ話ではない。

昨年のアイイールド債の利回り急上昇はデフォルト率の高さを反映している。08年のデフォルト率はFTのグラフによると、ハイイールド債で2%強、ハイイールドローンで4%弱。それが09年には各々10%、13%弱に急増した。今年は再び低下して、債券のデフォルト率は1%弱、ローンのそれは2%に低下している。因みに来年、再来年も横ばいから少し高い程度のデフォルト率で推移する予想だ。

社債市場が非常に効率的であるとすれば、投資適格債券への投資リターンとハイイールド債券への投資リターンは本来収束するはずだ(流動性とか担保適格性の問題があるから、投資適格債券のリターンの方が低いはずだが)。つまりクーポン利回りからデフォルト時の損失予定額を引いた期待利回りは、信用リスクのスペクトルを通じて余り差がないはずである。

ハイイールド債券の今年の高い利回りは昨年の不況時にリスクを取った投資家への褒美である。無論リーマンショック前に低い金利でハイイールド債券を買った人は手痛い損失を蒙ったが。

☆  ☆  ☆

日本で金融周辺業務を行なっている立場からいうと、二桁の信用スプレッドは言うに及ばず、4,5%のスプレッドでも羨ましい限りである。もっとも日本では米国ほどデフォルト率は高くない(少なくとも表面上は)ので高い信用スプレッドは正当化されないとしても、現在のスプレッドの低さは貸し手の過当競争の産物である。

力のある日本の金融機関が投融資の水平線を海外に広げることで、国内の過当競争が緩和されると信用コスト面の正常化が図られると思うのだが・・・・

この当りで信用コストの正常化を図る努力をしないと、金融円滑化法に蓋されたリスクが暴発する日が懸念される。

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金利正常化の時代に日本は対応できるのか?(1)

2010年12月15日 | 金融

米連銀が11月にQE2を発表して以来、先進国で長期金利が上昇し始めている。オバマ大統領と共和党によるブッシュ減税の延期を中心とした減税・失業給付パッケージも米国の経済成長率を引き上げるので金利上昇要因だ。日本の国債金利も上昇し始めた。

足元の国内資金需要だけを見ていると、逼迫感は全く起きないが視線をもう少し先まで伸ばすと世界的な「金利の正常化」が見えてくる。

日本の金利問題についてもう一つ気になる点は、信用リスクプレミアムが相変わらず極めて低い水準で推移していることだ。昨日(14日)金融庁は中小企業金融円滑化法を1年延長する方針を発表した。中小企業の資金繰りが厳しいことを理由に金融機関に返済条件の変更要請に応じる努力義務を求めるものだ。

だがこれは本当に正しい選択なのだろうか?

返済条件の緩和が意味を持つのは、返済条件緩和期間が終了した後、債務者の経営状況が好転し、キャッシュフローが増えて返済再開が可能になる場合である。もし返済再開が可能にならないのであれば、それは単に問題の先送りに過ぎずそのツケは大きなものになる。

この2つの点について何回か考えてみたいと思う。世界的な金利の正常化の問題については今月マッキンゼーがFarewell to cheap capital?という100ページほどのレポートを発表している。これから年末にかけて読む予定だが、ポイントは「先進国によるベビーブーマーの退職による貯蓄の取り崩しと発展途上国の巨額な資金需要で資本コストが上昇していく」ということだと理解している。

日本の中で低金利・デフレに首まで浸かっていると、日常的に世界的な金利上昇を実感する機会は少ない。だがそろそろこの問題を真剣に考えるべきだろう。個人も国も企業も。

☆  ☆  ☆

さて今日のFTを見るとコラムニストのMartin Wolf氏がWhy rising rates are good news?というエッセーを書いていた。

11月30日から12月13日の2週間の間に、米国10年債利回りは0.49%上昇、ドイツ国債、英国国債はそれぞれ0.3%、0.34%上昇している。短期間の急上昇だが、Wolf氏はこの金利の上昇は「正常への復帰」だと述べる。12月13日時点の米国国債利回りは3.28%だが、これはリーマン・ショック前の03年1月-07年6月の平均利回り4.4%よりかなり低い。

「名目金利=実質金利+インフレ率」の基本公式を踏まえて最近の金利上昇要因を考える場合、Wolf氏は名目金利の上昇はほとんど実質金利の上昇で説明できると述べる。より正確にいうと11月末(および11月4日)から12月13日までの金利上昇の76%(83%)が実質金利の上昇である。連銀がターゲットとするインフレ率は2%だから実質金利は1%強であり、これはまだ正常なレベルより低い。

Wolf氏は長期金利は確実に上昇すると述べる。物価連動債の長期的な利回りから推定すれば、国債の実質金利は2%程度(3%という記述もある)。つまり期待インフレ率2%と合わせて少なくとも4%程度が正常金利の落ち着きどころという主張だ。

先進国の実質金利は低下を続けてきた。実質金利が低下した大きな要因は先進国における設備投資需要の減少だ。1970年代の世界のGDPに占める設備投資比率は26.1%だったが、2002年には20.8%に低下している。

だがこの傾向は発展途上国の投資需要拡大と先進国の高齢化による貯蓄減で反転するだろうというのがWolf氏の見方だ。この前提に立ってWolf氏は実質金利が4%、名目金利が6%ということもありうると述べる。

景気回復と金融市場の正常化による金利の正常化は長期的に見て、資本の適正配分という点から好ましいことだ。

日本にとっても問題は、金利による資本の適正配分機能を正常化させることができるかどうかだ。それは追々論じていきたい。

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