金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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フィッチ、中国の銀行の疑似証券化リスクを指摘

2010年07月15日 | 金融

格付機関フィッチは中国の銀行が行っている証券化スキームのリスクを指摘するレポートInformal Securitisation increasingly distorting credit dataを昨日発表した。

公式データでは今年前半に中国の銀行は貸出ペースを急速に落しているが、フィッチはローンのオフバランス化が行われているので実態は積極的な貸出が行われ、不良債権リスクが高まっていると警告する。

ニューヨーク・タイムズは証券化スキームについてアナリストの説明を紹介していた。それによると「銀行は例えば5千万ドル(45億円)の大型ローンを、現金5千万ドルと引き換えに信託会社に引き渡す。信託会社はこのローンを富裕層向けの投資商品に仕立てて銀行に渡す。銀行はその商品を投資家や預金者に販売しその代金を信託会社に渡す。投資家(銀行の暗黙的な元本保証を信じているので預金者というべきだろう)は通常金利の2倍の利息を受け取る」というものだ。

5千万ドルはあたかも投資の如く信託会社に渡されるが、実質は不動産プロジェクト向けの短期の金利の高い融資である(信託会社が元本保証を行う)。

フィッチのレポートによると、証券化されたローンの期限が投資商品の期間より長いことが一般的になりつつある。つまり投資家にお金を返す期日の方が先に到来するケースが多い。この場合もし次の投資家を募ることができない場合は、銀行がローンを買い戻して、ローンは再び銀行のバランスシートに乗っかることになる。

ここが「疑似」証券化といわれるゆえんだ。つまり本当の証券化では銀行から信託会社にローンが真正売買される(ローンの所有権が完全に移転する)が、疑似証券化では真正な売買が行われず、銀行の買戻し特約が付いている。

スタンダード・チャーター銀行のアナリストGreen氏は「信託会社はこのスキームで2009年に数千億ドル相当の資金調達をしただろう」と推定している。

業界のアナリストによると中国銀行監督管理委員会は先週非公式に銀行に対して、信託会社と組んでローンの証券化をやめるように命じた。今までにも当局は疑似証券化を止めさせることを試みてきたが、銀行と信託会社は抜け道を見つけてローンのリパッケージを進めてきたということだ。

もしフィッチの分析が正しいとすると、中国の銀行は時限爆弾を抱えている可能性がある。疑似証券化したローンが期限に返済されない場合、突然バランスシートに戻ってくるリスクが高いからだ。

フィッチは中国の大手銀行は流動性が高いので、疑似証券化商品がバランスシートに戻ってきてもこなしうるだろうが、小さい銀行の場合は負担が圧し掛かる可能性があると指摘している。

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電子メールの削除は罪になるのか?

2010年07月15日 | 社会・経済

日本振興銀行の前会長木村剛が「業務に関する電子メールの削除を指示した」として、銀行法(検査忌避)違反で逮捕された。

このニュースを見た人の中には「電子メールの削除を指示することは悪いことなのか?」「そんなことはどこに書いてある?」という疑問を持たれる方がいるかもしれない。そこでこの問題をちょっと考えてみることにした。

実は日本では電子メールの保存義務について包括的に規定した法律はないのだが、そのことを述べる前に5月に米国でおきた電子メール保存に関する事件を紹介しよう。

今年5月に米国の金融取引業規制機構はPiper Jaffray C.というミドルマーケットの投資銀行を2002年から2008年の間の電子メールの保存が出来ていないということで70万ドル(約63百万円)の罰金を課した。米国の証券業界の電子メール保存義務について詳しいことは勉強していないが一般的には3年の保存義務がある。

米国では電子メールが訴訟時の重要な開示証拠として求められるため、紙の文書と同様な保存義務が課せられている。

ところが日本の金融業については包括的に電子メールの保存(ないし破棄)に関するルールを定めたものはない。

ただし上場企業については内部統制報告制度(日本版SOX法の一環)で、電子メールの保存が求められている。金融庁はQ&Aでガイドラインを示しているからポイントを紹介しよう。

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ITを用いて統制活動を整備する際には、ITを利用することにより生じる新たなリスクが考慮されているか」という項目が挙げられているが、これは電子メール等のデータを一律に記録・保存することを求めているものではない。

経営者は、財務報告に係る内部統制の有効性の評価手続及びその評価結果並びに発見した不備及び是正措置に関して作成した記録を保存することが求められており(実施基準Ⅱ3(7))、電子メール等のデータについても財務報告に係る内部統制の有効性の評価手続等に関して作成した記録のみを保存することで足りる。また、保存期間については、特に重要なもの(例えば、企業内のすべての者、特に財務報告の作成に関連する者に対する信頼性のある財務報告の作成に関する経営者の方針や指示、重要な電子取引に関するデータ)に
ついては、例えば、有価証券報告書及びその添付書類の縦覧期間(5年)を勘案して、それと同程度の期間保存することも考えられるが、いずれにせよ、その重要性に応じ適切に判断することになる。
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振興銀行が業務に関する電子メールを削除したことが金融庁のガイドラインに直ちに抵触するかどうかは疑問だ(そもそも非上場会社である振興銀行は内部統制報告義務はないだろうが)。

ついでに金融庁マニュアルに電子メールに関する取扱があるかどうか調べてみた(マニュアルは300ページもあるので、検索機能で舐めただけだが)が記述は一切なかった。

つまり非上場の金融機関について、電子メールの取扱が不適切だということで処罰する法律・ルールは日本にはないというのが私の見立てである。

もっとも金融庁は検査に入った時点で振興銀行に「電子メールを削除するな」という指示をだしているから、振興銀行がこの指示に違反したので、検査忌避で告発されることを免れることはできない。

今回の事件は「企業や公的組織における電子メール保存に関する規制の欠如」という問題を炙り出したと私は考えているがどのようなものだろうか?

今後重要な交渉や説明が電子メールを通じて行われることが益々増えるだろう。やがて日本でもアメリカ並に「電子メールの保存と廃棄に関するルール」作りが求められると私は感じている。

余談になるが振興銀行の木村前会長を紹介する時、マスコミは「日銀OBで金融のプロ」という説明を加える。日銀OBは事実だから良いとして、金融のプロとはいかがなものだろうか?私は金融のプロとはポジションと会社の利益を背負って困難な市場に立ち向かう現場の金融マンを指す言葉で、金融庁のカーテンの奥であれこれいう人を指す言葉ではないと思うのだがどうだろうか?

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