金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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「派遣」は英語にならず

2009年02月08日 | 社会・経済

サラリーマンSalarymemという単語は完全な和製英語だが、日本の事務系男性社員を示す言葉として、米国でも定着しているのだろう。日本の失業問題を取り上げているニューヨーク・タイムズに次のような記事があった。Short-term employees have none of the rights of so-called salarymen or even the factory workers for Japan's legions of small manufactures.

意味は「短期従業員は「サラリーマン」の権利はいうまでもなく、日本の小さなメーカー企業の従業員が持っている権利さえ何一つ持っていない。」ということだ。

終身雇用の対価として「賃金奴隷」になっていると欧米のマスコミが揶揄していた日本の事務系社員は、その特殊性により「サラリーマン」で通じるようになってきた。しかし今回の不況でレイオフの主な対象になっている「ハケン」や「短期労働者」は英語にならない。英語の記事ではnonregular workersという普通名詞が使われている。理由は「サラリーマン」は日本固有の従業員だが、非正規雇用者は普遍的な存在だからだ。

普遍的な存在という意味では、日本でも「非正規雇用」といういう勤務形態は現在では一般的なものになっている。総務省の統計によると、55.3百万人の労働者の内、34.5%は非正規雇用者だ。

厚生労働省によると、日本では昨年10月以来13.1万人がレイオフされているが、その内12.5万人は雇用保険等のセーフティネットがきわめて乏しい非正規労働者だ。

ニューヨーク・タイムズは厚生労働省のある幹部職員の「日本の社会的なセーフティ・ネットは労働市場の急激な変化に追い付いていけなかった」という言葉を紹介している。

OECDによると、日本が失業者対策に使っている予算はGDPの約0.3%で、これは西欧諸国よりはるかに低く、米国とほぼ同じ水準である。米国と日本のセーフティ・ネットのいずれが分厚いか即断するデータは持ち合わせていない。

しかし米国社会は日本より大きな較差を容認する伝統がある一方一時的に苦境に陥った人にリカバリーのチャンスを与えている社会であることは十分認識しておく必要がある。例えば米国では「年齢等による採用差別」が厳しく禁じられているし、また雇用者側にも「若年者」を採用しようとする意図は少ない。だから卒業した時期が就職の氷河期で正規社員になれなくても、景気が回復した時にリカバリーするチャンスが大きい。

一方日本では雇用慣行や雇用に対する世間一般の認識の変化する速度が遅いため、非正規雇用者に対する総合的なセーフティネットという意味では先進国の中でかなり劣ったものになっている可能性が高い。

サラリーマンという言葉は企業が従業員の福利厚生の面倒を見た日本的なセーフティネットを象徴する言葉だったので、「ケイレツ」などとともに英語に取り入れられた。だがグローバルな規制緩和の中で拡大した「ハケン」や「非正規雇用」は英語化することはない。何故ならそれは普遍的な存在だからだ。それが普遍的な存在であれば、雇用に対する基本的な考え方やセーフティネットのあり方も普遍化するべきであろう。

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