ウオール・ストリート・ジャーナル紙が大田経済財政政策担当特命大臣の話を紹介していた。ポイントは次のとおりだ。
- 労働者の生産性が向上しないと日本は人口の減少から経済回復が危うくなる可能性があるので、新しい担当大臣の大田氏は非効率的な産業と労働者に狙いを付け始めた。
- 日本は成熟した欧州と同様社会福祉制度の削減を含めて経済問題の再考を行なっている。
社会福祉制度はwelfare stateの訳だ。Welfare stateには福祉国家という意味もある。Pare down welfare stateで社会福祉制度を切り詰めるである。こういう言葉はセットで覚えておくと役に立つ。
- 小泉前首相はこのプロセスに公共支出の削減、産業界の規制緩和、公務員の削減を行なうことで取り組み始めた。後任者の安倍首相も成長のプラットフォームを築きながら「小さい政府」政府政策を維持することを約束している。
最近安倍内閣の支持率が急速し下がり5割を切った。これは郵政造反議員の復党に対する国民の不信感の高まっているからだ。郵政造反議員を復党させるのであれば、昨年の衆院解散と総選挙は一体何だったのか?GDPの1.75倍もの負債を抱える国にとって選挙は馬鹿にならない支出のはずだ。ついでにいうと日本は国会議員の数が多すぎる。特に参院が242名というのが米国の上院議員数100名に比べて余りにも多過ぎる。小さな政府を目指すのであれば、まず議員の数を減らすべきである。
- 大田氏は非効率な産業、例えば医療看護等をもっとオープンにし競争を高めるべきだという。
大いに結構なことである。しかし日本には民間よりもはるかに非効率な官の分野が多過ぎる。まず目に付くのが自動車の登録や車検制度。読者諸氏は米国で自動車を購入した場合、ナンバープレートをどのように取得するかご存知だろうか?何とディーラーで車を買うとそのまま運転して帰り、数日の内に陸運局の出先事務所(大体小さな町に一つある)に自分で出向き、数千円程度の税金(登録税)?を払ってナンバープレートを貰い、自分でドライバーを回してバンパーにつけておしまいである。そこには車庫証明もなければディーラーに払う無駄なコストもない。どうして日本でこんなことができないのだろうか?出来ない理由は極めて簡単で自動車の登録や車検の制度が警察官僚等の天下り先を確保する仕組みになっているからである。
- また大田氏は日本の農業の非効率性を指摘している。食品価格が高いということは消費者が食品以外の消費に回す金が少なくなっていることを意味する。しかし今では日本の果物~りんご、いちご、なしなど~はアジア諸国が賞賛するところとなり輸出されている。日本の農林水産物の輸出額は2005年には33百億円だったが、政府は2013年までに3倍の1兆円に引き上げると発表している。
余談になるが、Apple - pearという言葉が記事に出ていた。これは日本の梨のことだがフリー百科事典Wikipediaで調べたら、Nashi pearとかSand pearともいうらしい。日本の梨はりんごのような形をしているのでApple pearというということだ。それにしてもWikipedia特に英語版は非常に役に立つ。それにしても以前は中国の楊貴妃が好んだというライチなどという外国の果物を珍重したが今や日本の果物が輸出されるとは立派なものである。
- 大田氏は近隣諸国の経済成長が日本の成長の鍵になると見ている。「私は日本をアジア諸国と一緒に成長するオープンな国にしたい」「アジアの成長は日本の新しい可能性だ」と彼女は言う。
- また大田氏は「もう一つの鍵は日本の労働慣行を変えることだ」「私は労働ビッグバンを起こしたい」「育児中の女性にも働いてもらいたい」と言い、また経済後退期に脱線して給料の低いパートタイマーになっている大卒者を救済することを約束した。
「脱線してパートタイマーになった」はBecame sidetracked into low-paid part-time workという。これも一まとめで頭に入れておきたいことだ。
ここで私も労働生産性の改善のために可能な幾つかの提言をしておこう。
- まず日本の会社ではほとんどどうでも良い程細かいことでも会社毎のしきたりや拘りが多過ぎる。少し専門的になるが投資信託の基準価格を計算したり、決算を行なうベースになるルールを投信計理(「経理」の間違いではない)というが、この計理の細部のやり方が投信委託会社(運用会社)により総て異なるのである。この本質になんら影響を与えないような差異に対応するため相当なシステムコストがかかっている。そのコストは結局のところ投資家にかかってくるが、これは投資家にとっては全くナンセンスなコストである。このように業界横断的な統一ルールがないのが日本の企業社会の一つの特徴である。このため転職者がすんなり新しい会社に溶け込めないことがある。これを改善するためには色々な分野で業界団体がルールを整備することが必要だ。
- モノゴトの定義をはっきりさせず、暗黙の了解を前提にモノゴトを進めるのも日本の悪い風習の一つである。これに比べ欧米では契約書に使われる用語の定義を契約書の中で定義していくのが普通だ。こうしておくと当事者が変わっても誤解を生じるリスクが削減されている。
- マニュアルの整備も課題だ。日本の会社では一身専属的に事務が行われる傾向がある。これでは外部の新しいパワーを活用することができない。
他にもまだまだあるのだが、この記事は結構長くなったのでこの辺りで止めよう。要は政府が本当に少子高齢化に向けて労働生産性を高めようとするのであれば、率先垂範して国会議員の数を減らすとか公務員の天下り先確保のために作ったルールを廃止するといった行動に出なければならない。さもないと大田氏の話など寝言程度の意味しかない。また民間企業も各分野のリーディングカンパニーが業界横断的なルールの作成に積極的に取り組む等努力をするべきである。そういう意味で必要な談合はいくら行っても構わないだろう。日本の会社は競争するべきことと共同でしてやるべきことをまったくはきちがえていると言わざるを得ないのである。