昨日のウオール・ストリート・ジャーナル紙に「株は安いのか高いのか?」Are stocks cheap or expensive?という記事が出ていた。その答についてはポイントを後程紹介するとして、一般に株のような金融商品が安いか高いか?が直ぐ判断できれば苦労はない。安いと判断すれば買い、高いと判断すれば売り、思いのままに利益を上げることができるからだ。しかし実際には我々は安いか高いかの判断を誤るから投資で損をするのである。一つか二つの指標で割安株を探すことができる程投資とは簡単なものではない。とはいえ先人達が編み出してきた幾つかの投資判断基準から今の相場を見ることは十分に意味があることだろう。
- ダウ工業平均は今年14%上昇した。しかし企業収益の二桁の成長は必ずしも株が魅力的なものであることを意味する訳ではない。投資のプロは「市場と個別銘柄が企業のファンダメンタルに較べて安いか高いかを評価するため一連の株価指標を使う。
ここで余談だが「高い」ということをこの記事では、expensiveの他にpriceyと表現している。英語の文章の特徴は同義語Synonymを多用することだ。Pricey位なら問題ないが、語彙の少ない日本人にとっては同義語など使わずに同じ単語で通してよと言いたくなることがある。
さてウオール・ストリート・ジャーナル紙が紹介してる株価指標の状況である。
【株価収益率】PER: Price /Earnings Ratio
これは最高の投資基準である。ある株のPERを同業または市場全体と較べるのがベストである。学術的な調査によるとPERの低い株を買うのが成功の秘訣である。数年前ウオーレン・バフェットは、韓国株のPERが一桁台の低いところまで低下した時幾つかの銘柄を買い成功した。ダートマス・ビジネススクールのハウエル教授は自分は一般的にPER20倍以上の株を避けていると言っている。
現在の株価はPERで見るとある程度魅力的である。過去12ヶ月の企業収益をベースとしたS&P500のPERは現在17.8倍だが、これは1980年以来の平均19.2倍より少し低いからだ。因みに1996年から2005年のPERの平均は27.3倍である。
余談になるが、ドイツ銀行グループは「エコノミックPER」なるものを公表している。これは従来のPERに有利子負債やオフバランスされた資産などを調整して割安株選択の可能性を改善したものということだ。結局銘柄選択とは自分で納得の行く指標かまたは指標の組み合わせを作り出す作業なのかもしれない。それが面倒な人は投資のプロを活用するということになるのだろうか?
【株価キャッシュフロー比率】PCFR: Price / (Free) Cash Flow
多くの成功しているプロは公表される企業収益よりもフリーキャッシュフローすなわち費用支払後企業に残る現金に着目している。低いPCFRは配当や自社株購入その他株式リターンを改善するステップのために資金が残っていることを示唆する。PCFRに関しては年初に較べて現在は魅力が減じているが、今年の数値は1996年以降最も魅力的なレベルにある。
【株価純資産倍率】 PBR: Price /Book Value
低いPBRは投資家に安心感を与える。企業の簿価とは清算価値を推定する出発点になるからだ。S&P500は現在3.1倍であり、1996年から2005年の平均3.6倍より低い。
PBRは金融会社と住宅建設会社のキーとなる尺度であるが、他のある種の業種ではそれ程重要ではない。それは簿価にはパテント、調査開発費、ブランド、従業員の創造性といったものが含まれないからである。従って製薬業や情報技術関連では簿価が低くなり高いPBRを示す傾向がある。
【株価売上高倍率】 PSR: Price/Sales Ratio
これは時価総額を売上高で除した指標で、低いPSRを好むプロもいる。S&P500は現在1.5のレベルで取引されていてこれはここ数年のレベルに近いが1990年代初期よりは高い水準である。
【投下資本リターン】 Return on Invested Capital
シカゴのハリス・プライベート銀行のCFOのアブリン氏は投資家に投下資本に対するリターンにフォーカスする様に急き立てている。彼はこの数値を企業利益(支払利息と税金控除前)を総資産で除することで計算している。
以上総合するに米国株はかなり良いところまで買われているものの、現在の企業利益の水準でもまだ上昇余地は少しありそうだ。
現在PER等の条件を指定すると簡単に投資銘柄をソートするソフトやサービスが普及して銘柄ピックアップは便利になった。しか一つ二つの指標だけで投資銘柄を選択できるものではない。個人投資とは実物経済やサービスのトレンドにイメージを膨らませながら、企業の財務計数とにらめっこする知的なプレーである。短期的に儲かるか損をするかというよりも、自分の立てた仮説の正否を楽しむ位の気持ちで取り組めば、知的好奇心を満足させるだろう。