5月末から6月にかけて、体育祭や運動会を実施する学校が多い。私の勤務先も同様で、先日体育祭が行われた。
「雨は大丈夫みたいですね」
「カンカン照りじゃないから、かえってよかったかも」
お天気が心配になる時期だが、この日は夕方までは持ちそうな曇り空であった。雨天で順延になると、生徒は授業に身が入らない。一度で終わらせることができればラッキーなのだが、生徒だった頃の私ならば、中止を願うところだろう。
なにしろ、体育祭も運動会も「大」がつくほど嫌いだったからだ。
「笹木さんて、足が速そう」
「運動神経いいでしょ」
などと言われることがあったけれど、実は真逆で、私は相当な運動音痴である。50m走では「ビリになりませんように」と祈ってコースに立った。もっと嫌いなのがリレーで、自分のところで他のクラスに抜かれ、順位が落ちたらどうしようとドキドキしながらバトンを受けた。
しかし、今回担任しているクラスでは、長年のうっぷんを晴らしてくれることが多く、初めて体育祭が楽しみになっている。
1年生の担任時には、俊足ぞろいのメンバーに恵まれリレーに期待をかけた。予行では、スタートからゴールまで1位をキープ。本番では転んだ生徒がいたから一時は2位に後退したけれど、アンカーの活躍で逆転し、1位でゴールイン。胸のモヤモヤが、すべて吹き飛んでいったことを思い出す。
2年生では、まとまりのないクラスなのに、大縄跳びで優勝した。大柄の男子2人が跳びやすいように縄を回し、声を出して励まし合った成果である。賞状をもらったときは穴が開くほどじっくり眺め、気がすんだところで淡い色紙に貼り付けて、チャチャッと教室に飾った。
そして、迎えた3年生。クラス替えはなかったから、リレーに期待はしていなかった。でも、生徒たちは「誰を何番目に走らせるか」を真剣に考え、作戦を練っていたようだ。
「位置について。よーい」
パン!
スタートの号砲が鳴り、第一走者が飛び出した。団子状態の集団から真っ先に抜け出したのは、意外なことに、私のクラスの生徒である。スラリと伸びた長身で風を切り、サッカーで鍛えた長い脚を駆使して、先頭を譲らなかった。
「速ッ!」
私だけでなく、他の生徒も驚いている。続く第二走者もサッカー部。2位以下をぐんぐん引き離し、第三走者にバトンタッチしたが、このあとが問題なのだ。
「抜かれる~!」
第三、第四走者には、一番足の遅い子があてられている。予想通り、順位が入れ替わり、1位から3位に転落した。何だか、自分を見ているようで悲しくなる。
しかし、これは計算していたことだから、生徒は冷静だ。後続の生徒が差を縮め、すぐさま2位に浮上した。1位のクラスはなかなか抜けないけれど、差が開かないよう食らいついている。
「あっ」
トップのクラスがバトンゾーンでトラブった。ラインを越えてしまい、戻ってやり直している。これはチャンス。2位と3位が、隣を猛スピードで駆け抜け、一気に形勢逆転となった。
運よく、首位奪還に成功できた。足の遅い子はもういないから、あとは逃げ切れるかどうかである。落ち着いてバトンをつなぎ、転ぶこともなくアンカーに渡った。
アンカーもサッカー部。赤いたすきをはためかせ、筋肉質の体を躍らせながら、肉食動物の追跡をかわすように全力疾走する。自分の前には誰もおらず、視界はこの上なくいいはずだ。カーブを回ると、白いゴールテープが待っている。彼は照準を定めたように加速し、両手を上げてゴールテープに突進した。
「やったー!」
観客席からも、トラックからも、大きな拍手がとどろいた。
運動音痴の担任の分まで活躍してくれたから、日頃の服装違反や赤点の山はどうでもよくなる。
スポーツの爽快感を生徒たちから教わり、教員をしていてよかったとニンマリした。
↑
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
「雨は大丈夫みたいですね」
「カンカン照りじゃないから、かえってよかったかも」
お天気が心配になる時期だが、この日は夕方までは持ちそうな曇り空であった。雨天で順延になると、生徒は授業に身が入らない。一度で終わらせることができればラッキーなのだが、生徒だった頃の私ならば、中止を願うところだろう。
なにしろ、体育祭も運動会も「大」がつくほど嫌いだったからだ。
「笹木さんて、足が速そう」
「運動神経いいでしょ」
などと言われることがあったけれど、実は真逆で、私は相当な運動音痴である。50m走では「ビリになりませんように」と祈ってコースに立った。もっと嫌いなのがリレーで、自分のところで他のクラスに抜かれ、順位が落ちたらどうしようとドキドキしながらバトンを受けた。
しかし、今回担任しているクラスでは、長年のうっぷんを晴らしてくれることが多く、初めて体育祭が楽しみになっている。
1年生の担任時には、俊足ぞろいのメンバーに恵まれリレーに期待をかけた。予行では、スタートからゴールまで1位をキープ。本番では転んだ生徒がいたから一時は2位に後退したけれど、アンカーの活躍で逆転し、1位でゴールイン。胸のモヤモヤが、すべて吹き飛んでいったことを思い出す。
2年生では、まとまりのないクラスなのに、大縄跳びで優勝した。大柄の男子2人が跳びやすいように縄を回し、声を出して励まし合った成果である。賞状をもらったときは穴が開くほどじっくり眺め、気がすんだところで淡い色紙に貼り付けて、チャチャッと教室に飾った。
そして、迎えた3年生。クラス替えはなかったから、リレーに期待はしていなかった。でも、生徒たちは「誰を何番目に走らせるか」を真剣に考え、作戦を練っていたようだ。
「位置について。よーい」
パン!
スタートの号砲が鳴り、第一走者が飛び出した。団子状態の集団から真っ先に抜け出したのは、意外なことに、私のクラスの生徒である。スラリと伸びた長身で風を切り、サッカーで鍛えた長い脚を駆使して、先頭を譲らなかった。
「速ッ!」
私だけでなく、他の生徒も驚いている。続く第二走者もサッカー部。2位以下をぐんぐん引き離し、第三走者にバトンタッチしたが、このあとが問題なのだ。
「抜かれる~!」
第三、第四走者には、一番足の遅い子があてられている。予想通り、順位が入れ替わり、1位から3位に転落した。何だか、自分を見ているようで悲しくなる。
しかし、これは計算していたことだから、生徒は冷静だ。後続の生徒が差を縮め、すぐさま2位に浮上した。1位のクラスはなかなか抜けないけれど、差が開かないよう食らいついている。
「あっ」
トップのクラスがバトンゾーンでトラブった。ラインを越えてしまい、戻ってやり直している。これはチャンス。2位と3位が、隣を猛スピードで駆け抜け、一気に形勢逆転となった。
運よく、首位奪還に成功できた。足の遅い子はもういないから、あとは逃げ切れるかどうかである。落ち着いてバトンをつなぎ、転ぶこともなくアンカーに渡った。
アンカーもサッカー部。赤いたすきをはためかせ、筋肉質の体を躍らせながら、肉食動物の追跡をかわすように全力疾走する。自分の前には誰もおらず、視界はこの上なくいいはずだ。カーブを回ると、白いゴールテープが待っている。彼は照準を定めたように加速し、両手を上げてゴールテープに突進した。
「やったー!」
観客席からも、トラックからも、大きな拍手がとどろいた。
運動音痴の担任の分まで活躍してくれたから、日頃の服装違反や赤点の山はどうでもよくなる。
スポーツの爽快感を生徒たちから教わり、教員をしていてよかったとニンマリした。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
たしかに、ご褒美あげたくなります。
幸いなことに、体育祭のあとは全員そろわないものなんですよ(笑)
応援団は記念写真を撮ったり、解団式?めいたものをしていていつまでも残ります。
部活の生徒は椅子やテントの片づけをしています。
教室に戻ってくるのは半分程度でしょうか。
それを口実に、何か用意したことはないなぁ(笑)
学年団で、行事のたびにアイスを用意する先生もいます。
なぜか、うちのクラスでは「○○先生はくれるのに」と言ってきませんねぇ。
自分もやればできる証拠になります。
負け癖にくじけてほしくないんです。
サッカー部は時々陸上部よりも活躍したりしてましたね。
普段の練習がどうとかいうより、図太いヤツが多かったような記憶があります。
1位になったりすると、ご褒美あげたくなっちゃって「先生、アイス食いたい~」とか言われると、じゃおごっちゃおうか?なんて。
砂希先生はそういうことありませんでしたか?
あっ、懐かしい!
フォークダンスは楽しみでしたよ。
好きな男の子と踊れるのはその一瞬だけなんですから。
高校生はやりませんね。
ダンスといっても、応援合戦のようなものでした。
女子も学ランをレンタルして、勇ましく舞っていましたよ。
好みじゃないと思います(笑)
高校生のリレーは、かなりの迫力です。
ドドドドドッと地響きしますもの。
わが団は、細い子が多くて、綱引きでは負けまくっていましたが(笑)
通うだけでトレーニングになったんですね。
都内の中学生がひ弱に見えたことでしょう。
スポーツマンがスポーツをやめると、大概太ってしまうようで…。
食べる量をセーブすれば大丈夫なんじゃないのかしら。
ひとまず、何かスポーツをされてはどうですか?
忙しくてそんな暇ないかもしれませんね。
私も何かしようかと思っています。
高校生ともなるとリレーは迫力あるだろうし、応援も白熱するでしょうね。いい思いが出来ましたね。その生徒たちが来年春に笑って卒業出来るようにしっかり進路指導しないといかんですよ。
高学年になると遅刻しそうになると一気に駆け上っていけるようになり
都内の中学に転校したら持久走は半端なくありいつも上位にいまいた。学生時代はずっとスポーツはやっていたので体育祭は好きでしたね~!しかし今は・・・
公園で子供の頃は楽勝だった雲梯(うんてい)が出来なくなっていた自分がショックで…(笑)
臨場感ありました?
よかった~!
書いていて、結構難しいと感じましたよ。
小説家の方は、見てもいないことをリアルに表現するので、尋常でない想像力があるのだと思います。
若くなくても、この仕事をしていると、生徒から元気をもらえます。
若い先生は、生徒に活力を奪われると嘆いていますが…。
見た目だけでも、運動神経がよさそうに見えるほうが得なら安心しました(笑)
うーん、私の高校・大学時代も、そんなに楽しいものじゃなかったような…。
でも、つまらなくはなかったです。
あまり厳しいことを要求されなかったからかしら。
私も、生徒に大きなプレッシャーを与えて、学校嫌いにさせたくないと考えています。
あとは、「いつも見ているからね」というメッセージでしょうか。
楽しんでくださり、何よりです♪
なぜマラソン?
持久力があるんでしょうね。
やいっちさんに向いているのかもしれません。
5位、7位は立派な記録ですよ。
私もジョギングは結構好きかも。
走っている最中に、「次は何を書こうかな」などと考えるんです。
座っているときよりも、いいアイデアが生まれることも多いです。
若いとき限定にせず、今もチャレンジするといいのでは?
いえいえ、白玉さんはダンスができますもの。
さほど音痴ではないかと思いますよ。
クラスTシャツは発注したものです。
とても手作業では作れませんね~。
6月は雨が多くて、どうなることか不安でした。
9月はもっと多いようですね。
うまい具合に晴れてくれてよかったです。
足が速かったんですね、いいな~。
私は室内で遊ぶ方が好きな子どもだったので、走り回る経験が足りなかったのかも。
とにかく、鈍い子どもでした(今も?)
運動会で1位が当たり前だった母は、相当カリカリしていたようです。
でも、大人になってから、優勝の醍醐味を知りました。
いいものですね~♪
実況は臨場感がありました。作戦が功を奏しての勝利かと。
学科の成績が悪い生徒は運動会で取り返そうとするものです(笑)
熱い青春のおすそ分け、教員冥利に尽きますね♪
見るからに足が遅そうよりも見かけだけでも足が速そうと思われているのなら良いです~
砂希先生のブログを読んでいると来世では学生生活を満喫したいなぁと思わされます
私の学生生活は本当に思い出したくもないほどつまらないものでした。高校は親の反対で辞めませんでしたが、大学は念願が叶って辞めました
いつも素敵なブログをありがとうございます
体育祭というと、高校時代のマラソン。
一切、運動部に関わらない小生、高二高三とマラソンに出て、5位、7位と頑張ったことが思い出。
短距離も嫌いじゃないけど、とにかく、マラソンが好きでした(← 若い頃の話)。
かつては、何故かできる人に見えた、とオットに言われました。
そっちの勝手な思いこみでしょ?
息子たちの時は9月だったのが、今は6月なんですね。
スケジュールも気候も、この方がベターかも。
ところで おソロのTシャツは、発注ですか、お手製ですか?
小学生の時は足早かったんで。
高校はすごく体育祭に力入れる学校だったし。
そして教員いなっても好きだったな。
お祭り好き人間なんですね。
優勝おめでとうございます。