これは したり ~笹木 砂希~

面白いこと、妙なこと、不思議なことは、み~んな私に近寄ってきます。

英EU離脱の恨み節

2016年06月26日 17時46分23秒 | エッセイ
 6月24日は忘れがたい日になった。
「離脱ですよ、離脱」
 背中合わせに座る社会科教師が、半生だったトンカツを食べたような機嫌の悪さでつぶやく。職場では、朝からイギリスの国民投票が話題となっていたが、ついにEU離脱という結果が判明したわけだ。
 離脱となれば、世界経済の大混乱は必至。英国債は大量に売られて大暴落、ポンド安はもちろんのこと、つられてユーロも安くなり為替変動が起こると予想される。金融業では、英国の金融当局から取得した単一免許制度が適用されなくなる可能性が生まれ、輸出業では単一市場が見直されると、EU加盟国との貿易で関税や非関税障壁が復活するかもしれない。また、労働ビザ不要の現状が変わった場合に、イギリスは他国から有能な人材を集められなくなる懸念がある。
 GDPは大幅に低下、政府の年間税収は450億ポンド減少、1世帯当たりの年収は5200ポンド減少の見込みというから、投票結果はまったく理解しがたい。
「そもそも、国民投票がいけないんですよ。政治や経済を知らない人たちに、国の行く末を任せるんだから」
 社会科教師のイライラは果てしなく、その通りだと大きくうなずく。国民の言葉として「離脱に票を投じたが、本当に離脱するとは思わなかった。投票をやり直したい」などという呆れたものもあるからだ。もっとも、残留派の嘆きはこの程度で収まるはずがなかろうが。
 私だって怒っている。至極、個人的な事情で怒っている。
 何年か前に、米ドル建終身保険なる金融商品を購入した。当時、1ドル=100円くらいで、その後はグングンと円安が進み「ウホホ」と喜んでいた。ところが最近は円高傾向が続き、「むむむ」と眉間にしわを寄せる日が増えた。そこへ、イギリスEU離脱である。
「円相場は1ドル99円台まで上昇しました」
 キャスターが、冷静にニュースを読む。しかし、私は冷静になれない。
「ゲゲッ、ふざけるな~!」
 私の為替差益を返して~!

 昨日の夜、久しぶりにゴキブリが出た。
「冷蔵庫の下に潜って逃げちゃったよ」
 夕食の後片づけをしていた夫が、申し訳なさそうに話す。部屋にはコンバットがいくつもあるのだが、窓を開けていると、隙間から入ってくるらしい。
 殺虫剤よりも、私は新聞で叩き潰すほうが好きだ。
「そうだ、この新聞を使おう!」



 もろもろの恨みをこめて。
 覚悟しなさい、ゴキブリくん。


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管理職を管理スル

2016年06月23日 22時57分42秒 | エッセイ
 校外での研修が間近に迫っているのに、時間や内容、場所などの詳細資料が一向に送られてこない。
 都が実施する研修は、たいてい副校長経由で連絡が来る。4月から副校長が変わり、着任したばかりの彼は不慣れなためか、デスクの上に未決裁書類の山を築いていた。仕事が滞っている証拠だ。
「あのう、来週の研修の連絡はまだですか」
「うん。メールは毎日見ているけど、それらしいものはないよ」
「でも、一週間前になっても何の連絡もないのはおかしいですよね」
「そうだね」
 聞くのはこれで3回目。いつも同じ答えが返ってくるばかりで埒が明かない。他校でも、私と同じ立場の教員は同じ研修に行くはずだ。副校長を頼りにするのはやめて、他校の誰かに聞くことにした。
「あ、それ、うちの夫も行くと言ってましたよ」
 誰かはすぐに見つかった。同僚の由里さんのダンナは隣の区の教員で、同じ研修の対象者であるらしい。由里さんはすぐに連絡を取り、ダンナがとっくに資料を受け取っていることを確認してくれた。
「笹木さんあてに、メールで転送するそうです」
「よかった~! ありがとうございます」
 やはり、副校長のミスだったのだ。まもなくメールが届き、別ルートで資料を手に入れることができた。
 メールをよく見ると、CC欄に由里さんのアドレスが載っている。妻以外の女性にメールを送る手前、極めて事務的な内容だったことを証明するためだろうか。浮気を疑われた過去があるのかもしれない。
 夫婦間の力関係が見えてきて、思わず「くくくっ」と噴き出した。
 さて、これに返信しなければならない。こちらも負けず劣らずの、超事務的文面にして、ダンナと由里さんの双方に送る。無用な争いに巻き込まれるのは御免だ。
 翌日、ゲットした資料をプリントアウトして、嫌味たっぷりに副校長に見せた。
「見つけましたよ。日付が4月になっていますが」
「あれえ、あった? 来てたんだね。気が付かなかったよ。じゃあそれでお願いします」
「…………」
 この無責任さが羨ましい。
 そんなこんなで、無事研修を終えることができた。
 もっとも、研修に行くまでの手続きに、何倍もの手間がかかったが。


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父の日二重奏

2016年06月19日 21時06分21秒 | エッセイ
 今日は父の日だから、夕飯は、夫の好きな神戸牛にしようと思った。
「夕飯はいらないよ。出かけるから。前に言ったでしょ」
「そうだっけ?」
 興味のないことはすぐ忘れる。主役がいないなら、値の張る神戸牛にする必要はない。スーパーの牛ヒレステーキ用で十分だろう。
「肉……」
 夫は、それでも欲しそうな顔をしていたが、時間になると出かけて行った。
 そんなわけで、わが家の父の日イベントはなし。でも、私の父にはこっそり用意をしていた。
 父は月末に誕生日を迎える。毎年、誕生日に合わせて冷凍菓子を送っていたが、不意にひらめいた。
「別に誕生日まで待たなくたっていいのよね。今年は、父の日に間に合うように送ってみよう」
 那須の父にあてて、コーヒー、好物の冷凍たい焼き2袋、冷凍パフェ、冷凍シュークリーム、冷凍ローストビーフを段ボールに詰める。
「あ、バースデーカードがない。富士山のポストカードでいっか」



 お気に入りの富士山。裏面には「秋晴れコスモス」などというタイトルが書かれており、季節外れということに気づく。まあ、老眼だから読めないだろう。大きな字で「父の日ありがとう、誕生日おめでとう」としたため、菓子類と一緒に送った。
「荷物が着いたよ、ありがとう」
 昼前に、母からメールが来た。「お父さんがたい焼きを喜んでいる」と続いていたので、2袋でちょうどよかったらしい。
 結びは「さっそくいただきます」。
 お恥ずかしい話だが、2人の飲食風景は、とても行儀がいいとは言えない。
 母は唇にしまりがなくて、ものを噛むときに「パカッ」と開くことが多い。そのたびに、「ベシャッ、ベシャッ」と汚らしい音が聞こえてくる。何度注意しても聞く耳を持たず、「年をとるとダメだねぇ」と開き直る始末だ。
 一方、父からは「ピチャッ、ピチャッ」と母より高い音が漏れてくる。口の中は、どういう仕組みになっているのだろう。そこに夫がいれば、「ゾゾゾゾッ」と汁物を吸い込む低音と、ときには「ヘックショイ」という破裂音が加わり、わが家の高齢者たちは実に騒々しい。
 だが、すでに両親を亡くした同僚や友人から見ると、父の日や母の日を祝う相手がいること自体が羨ましいのだという。食事のマナーが悪くても、元気でいてくれることが一番大事。いなくなってしまうと、お祝いごとは何もできなくなる。
 なるほど、たしかにそうだ。二重奏だろうが三重奏だろうが、自分の力で食べられることは生きている証。
 那須の両親が、ベシャッ、ピチャッ、ズルッ、ボボッ、グチャッと食卓で不協和音を立てても、演奏中なのだと広い心で受け止めようと決めた。
 特に、父の日の今日は賑やかかもしれない。
 食欲があって結構なことだ。


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誰の誕生日?

2016年06月16日 21時41分57秒 | エッセイ
 先週の今日は、六本木で開催されたワインフェスに姉と参加していた。
 赤や白、泡物を何杯もいただき、カヴァ6本、白6本を買ってニンマリした。買い物はもちろん、いろいろな種類を次から次へと飲めるのがうれしい。



 昨日、商品が届いたものだから、ひっくり返って足の裏で拍手したくなるくらいウハウハした。ワインセラーはないけれど、冷蔵庫に入れて冷やしておこうっと。
 さて、今日は夫の誕生日である。
 何回目かはあえて言わないが、高齢者であることには違いない。先日も「炊き込みご飯」という名詞が思い出せず、苦し紛れに「醤油ご飯」などとのたまっていた。
 どんな飯だよ?!
「パパ、今日は誕生日だね。夕飯は寿司でいいかな。最近食べていないし」
「うん」
 夫も、お祝いをしてもらうことを、それなりに喜んでいるらしい。
 主役でもない私ですら、気分が舞い上がって仕方ない。
「ケーキ買わなくちゃね、ケーキ。ラ・メゾンにしようかなぁ」
 浮かれる私の横で、娘が夫に聞こえないようにボソッとつぶやいた。
「プレゼントはどうするの?」
「ギクッ!」
 しまった、自分が飲み食いすることばかりに気を取られ、誕生日プレゼントのことはすっかり忘れていた。なんたる不覚!
「商品券とかでいいんじゃない。セブンイレブンで使えるやつ」
「……適当だな」
 夫はここ何年かで相当なデブ……もとい出不精となり、スーパーかコンビニにしか出かけない。とりわけ、お気に入りがライフとセブンイレブンで、週の半分以上は通っているようだ。
「いらなければ、私たちが使えばいいし」
「ケケッ」
 誰のためのプレゼントなのか、よくわからないまま準備が進み、いよいよ当日を迎えた。
「パパ、お誕生日おめでとう!」
 乾杯に使った飲み物は、冒頭のカヴァである。夫は「豚汁があるからいらない」と言い、娘と2人で乾杯した。



「主役抜きで乾杯って、何か変じゃね?」
 娘は口をへの字に結び、納得していないようだったが、「いーよ、いーよ」と宥めておいた。
 カヴァ、うまいッ!
「今日は蒸し暑かったから、寿司でよかったよ」



 夫は久々の寿司に満足げだった。
 私も寿司は好きだが、もっと楽しみだったのが食後のケーキ。最近、甘いものを控えているので、脳が糖質を欲しがっている。
 結局、ラ・メゾンに行き、「チェリーのクッキークリームタルト」を買った。



 チェリーの下のクッキークリームが、ハーゲンダッツの「クッキー&クリーム」をほうふつとさせる。チェリーには弾力性があり、みずみずしい果汁ともマッチして、今月のタルトにふさわしい出来だ。甘いものを制限していたこともあり、禁断の甘美さに酔いしれた。
「パパ、誕生日おめでとう」
 娘が、夫に商品券を手渡した。



 夫がこれを使うかどうかはわからない。使い道がなければ、私が消費してあげるから、遠慮せずに言ってねと伝えるべきだったか。
「ごちそうさまぁ」
 誕生日ではなかったが、非常に満ち足りた気分になった。もう、もらった気でいるのだ。
 こんなに明るい気持ちになれるなら、父の日も、これとは別にお祝いするべきか。今度は白を飲みたいものだ。
 はてさて、誰のための父の日なんだか……。


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1泊83万円ナリ

2016年06月12日 22時24分58秒 | エッセイ
 最近、ありきたりのディナーでは物足りなくなってきた。
 食材や価格だけでなく、そこでしか味わえないものがないと面白くない。何か、興味を引くものはないかと探していたら、東京ステーションホテルの館内見学付きフレンチディナーというものを見つけた。
「えっ、あの格式高いホテルを見学できるの? 行きたい、行きたい」
 日程は限定されているが、ちょうど都合のつく日があり、申し込んでみた。
「えーと、17時に4階アトリウムに集合か」
 この日は20人くらいだったろうか。女2人というのは私たちくらいで、夫婦やカップルでの参加が多い。開始まで、ソファーに腰かけて待つよう勧められる。



 茶を基調とした館内は、落ち着きがあって大人のムードである。食事も大事だが、雰囲気も非常に重要だ。始まる前から「これは期待できそうだぞ」という予感があった。
「お待たせいたしました。まずは南側のドームからご案内いたします」
 ホテルスタッフについて3階に下り、廊下を歩いていくと、ところどころに愛らしいアレンジメントか飾られていた。細部まで気配りが感じられる。
 さて、東京駅は工部大学校を最下位の補欠で入学し、首席で卒業した我が国を代表する建築家、辰野金吾氏の作品である。東京大空襲で屋根が焼け落ち、1947年に修復したが、3階建ての部分が2階建てになるなど元通りではなかった。2007年より復原工事が行われ、2012年に現在の姿に至っている。
「こちらからドームをご覧いただけます。壁の色は当時の資料や、白黒写真をカラーに復元する技術から、卵の黄身のような色であったことが確認されています」



 白と黄卵色の組み合わせは、まったく思いつかなかった。レモンパイのようで、見ていると緊張がほぐれ、心にゆとりができてくるから不思議だ。これに茶色が加わると、少々引き締まった印象となって見事に調和する。



「干支のレリーフがありますが、8角形ですので、子、卯、酉、午の4つがありません」
 私の干支は未。ちゃんとあってよかった。



 あとから知ったことだが、干支は方角を示しているのだとか。未は南南西を表す役目をしている。
 姉の干支は巳。こちらが示すのは南南東。



 鷲型、花飾りのレリーフや、秀吉の兜のキーストーンなどの説明もあったが、私は全体を一つの単位として見るのがいいと思った。
「本日は、ロイヤルスイートルームが空いておりますので、このあとご案内いたします」
「ほー」
 ドームのあとは、173平米という広さを誇るロイヤルスイートルームの見学である。



 まず、目に飛び込んでくるのが黄色の椅子だ。



 たとえ会議でも、心が弾むに違いない。



 ソファーはグレーだが、クッションにはやはり黄色の刺しゅうがあしらわれている。



 天井には、4階のアトリウムで見たシャンデリアとよく似たデザインの照明が下がっていた。



 この統一感が素敵だ。
 壁際の調度品にも、高級感がある。





 社長席のようなデスクもあり、面白半分に座ってみた。



 貫禄ゼロだな、こりゃ。
「メモ帳をご覧ください。こちらには川端康成、内田百聞といった文豪も滞在されていたので、原稿用紙となっております。よろしければどうぞ」



「あっ、本当だ! すご~い」
 人間の性で、つい枠の中に収めようとして文字を書くかもしれない……。
 椅子に腰かけたり、トイレや流しをのぞいたりと、かなりの時間を過ごしたような気がする。バスルームやベッドルームは見られなかったが、この部屋の空気を吸うだけでリッチな気分になれた。
「ちなみに、こちらは1泊83万円でございます」
「うわぁ~」
 ツアー客から悲鳴が上がる。8万3千円だったら泊まりたいのに残念だ。
 ロイヤルスイートルームのあとは、北側のドームを見学してアトリウムに戻る。いよいよディナーの始まりだ。ちょうどお腹もすいてきた。
 前菜。パテがイチ押し。



 スープ。コクのある味。



 甘鯛のポワレ。皮がカリカリで身はふんわり。



 黒毛和牛のローストビーフと牛タンのシチュー。ソースが絶品。



 しかし、一番気に入ったのはデザートだ。
 ヴァニラ香るマフィンココット焼 ストロベリーソース
  キャラメル風味のアイスクリーム添え



 しっとりふんわりのマフィンが、適度に甘くフルーティーで、アイスクリームとの相性も抜群にいい。
 ラストまで手を抜かない構成に脱帽である。
 美味しかった、楽しかった。
 また来よう。


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月刊フラワーズ7月号をゲットせよ

2016年06月09日 20時00分00秒 | エッセイ
 活字を読むようになったのは30代からだ。
 それまでは、もっぱら漫画。絵の粗い少年漫画は対象外で、写実的な劇画タッチのアクションだったり、ロマンティックなラブストーリーだったりする少女漫画に夢中だった。
 とりわけ好きだった漫画家が、萩尾望都さんである。『ポーの一族』は不朽の名作だし、『11人いる!』もファンタスティック。『トーマの心臓』『訪問者』などなど、時間がたつのも忘れて読んだ。
『ポーの一族』は1976年に連載を終えているが、今回、40年ぶりに最新作が『月刊フラワーズ7月号』に掲載されるとブロ友さんが記事にしていた。

 なにっ、買わなくちゃ!

 翌日、早速書店に向かったが、完全に出遅れたようで、どの書店も売り切れである。ブロ友さんはお住まいが福井ということもあり、「まだ残っている」と書いていた。しかし、都内の私が住んでいるエリアでは、すでに入手困難になっているらしい。

 ネットで見てみよう。

 PCから「月刊フラワーズ 2016年7月号」で検索すると、「売り切れ」という予測ワードが登場する。私と同じことを考えた中高年ファンが、我先にと本屋に押し掛けたのだろう。
 アマゾンでは在庫があるようだが、プレミアム価格の3000円超えで売られている。定価は590円なのに信じられない。おそらく、転売目的の輩がいち早く買い占めたのではないか。ファンでもないくせに、やめてほしい。
 けしからぬ人間を儲けさせることはない。もう月刊フラワーズはいいや、とあきらめた瞬間、富山の友人からメールが来た。
「若冲のお返しは、梨と新酒でいい?」
 先月、若冲展に行った際、気持ちばかりのものを若冲ファンの友人に送ったら、「家宝にする」と喜んでもらえた。律儀な彼は、何かお返しをしたかったようで、メールが来たというわけだ。
 北陸つながりで、福井と富山がダブって見えた。私はボタンを連打し、前のめりになってメールの返信をした。
「お願い! 梨と酒はいいから、月刊フラワーズ7月号を送ってぇ~!」
 富山でも売り切れていたようだが、その書店では7日に再入荷する予定になっていたらしい。ただならぬ気配を感じた友人が、書店で受け取ったあとすぐに送ってくれたので、わが家には8日に到着した。



 やった、やった~!

 思わず両手を上にあげ、力強くガッツポーズを決めちゃったもんね。
『月刊フラワーズ 7月号』は重版が決まったというが、部数がさほど多くないので、ここでゲットできたのは幸運である。つくづく、人とのつながりはお金に代えられないと実感した。
 ところで、友人は職人だから、少々いかつい外見をしている。多分。
 どんな顔をして少女漫画を買ったのかと想像すると……。
 感謝の気持ちが2倍、3倍になってきた。



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Windows10の呪い

2016年06月05日 20時57分28秒 | エッセイ
 3年前に買ったパソコンはWindows7。電源を入れると、事あるごとに「Windows10へのアップグレードができます」と誘いをかけてくる。
 周囲での評価は芳しくない。
「使いにくくなった」
「10にはバグがあるから、もうちょっと経ってからのほうがいいらしい」
 などなど。
 いつも時間に追われた生活をしてるので、面倒は避けたい。誘いの文句を見たら、すぐ×を押して消すようにしている。
 ところが、先日、パソコンをつけっ放しにしたまま、翌日着る服を決めていたのがいけなかった。
「うーん、これよりあっちのほうがいいかも……」
 大した服でもないのに、いつまでもファッションショーをしていたら、画面上に「アップグレードができます」のウインドウが開いているではないか。あわてて消したが、ときすでに遅し。やがて画面が切り替わり、「アップグレードを開始します」の文字が躍り出す。画面中央で、顎をそらすように仁王立ちしているように見えた。
「いやいや、これからブログを更新するんだから、ダメだよ」などと言っても受け付けない。キー入力ができなくなり、恐れていたことが始まってしまった。「このときを待っていたんだ!」とばかりの、聞く耳を持たない態度が鼻についた。
 さあ困った。操作ができるようになるまで何もできないではないか。
 まず、風呂に入って弁当の下ごしらえをして、記事の下書きまで終えたけれど、アップグレードはまだ続いている。
「いったい、いつになったらブログが書けるのか……」
 結局、終了までに2時間かかった。時計を見ると、すでに23時を回っている。ブログの更新は諦め、モヤモヤした気分で電源を切った。
 翌日、仕事から帰るなり、パソコンの電源を入れる。もしや、昨日のアップグレードは悪夢だったのではと疑ったが、画面表示がすべてを語っていた。



 まずはSNSのチェックからだ。お気に入りからfacebookにアクセスすると、IDやパスワードが消えていてログインし直さなければならない。
「えーと、どこにしまってあったかな」
 メモを見つけて、無事ログインできた。mixiもアメブロも、αcafeも読書メーターも、すべてやり直しだ。
「それから、ブログサービスか……」
 gooにseesaa、yahoo、人気ブログランキング、ええい、どれだけやればいいんだっ!
 もう、JUGEMやFC2はどうでもいい。必要なものだけ使えるようにするのに、1時間くらいかかった。そこから記事を入力したら、またまた23時を回っている。もはや、呪われているのではないかと思ったくらいだ。
「ふー」
すっかり疲れ切って更新を終えた。
 だが、一度作業をしてしまえば、今のところパソコンは快適に動いている。アップグレードから31日以内であれば、元のバージョンに戻せるというけれど、またIDやパスワードを入れ直すことを考えると萎える。これ以上面倒なことはしたくない。
 ワードの入力は便利になった。携帯のように予測ワードが表示され、作業時間の短縮に役立つ。10も悪いことばかりではないらしい。
 そんなことを思った矢先に、夫が助けを求めてきた。
「俺のパソコン、さっきWindows10にアップグレードしたら、インターネットに接続できなくなった。ちょっと見てくれぇ!」
 ……呪いはまだ続いてた。


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サンダルと呼ばないで

2016年06月03日 23時19分59秒 | エッセイ


 上の写真は、わが家の玄関先に常備されているものである。
 さて、これを何と呼ぶか。
「下駄」
 大正生まれの義母は、決してサンダルという言葉を使わない。かかとを覆わないスタイルの履物は、ビーチサンダルでもクロックスでも、すべて下駄に分類されるのだ。
「つっかけ」
 昭和17年生まれの母もサンダルと呼ばず、本体が木でできたカラコロ音のする履物と同一視する。似ても似つかないのだが、当人からすれば見分けがつかないのだろう。
 さて、私は職場で冒頭の写真に似たサンダルを履いていた。足裏に当たる部分に突起がついている「健康サンダル」である。最近では、だいぶくたびれてきて、ところどころに亀裂が目立ち始めた。そろそろ、新しいものをと考えて購入したのがこれである。



 突起はないが、これも足裏に心地よい作りとなっている。
 特に、土踏まずをケアするカーブが刺激的で、履いているとマッサージを受けているような解放感がある。



 若いころは、履き心地よりもデザイン重視だったが、今では見た目より中身。日焼けしたマッチョより、地味でも趣味が同じで私を笑わしてくれる男性が好きなのと同じだ。
 通勤に使っているサンダルも、室内履きに負けず劣らずの履き心地である。



 30分歩いても、10分走っても、ふくらはぎが痛くならないのがいい。210分待ちの若冲展での相棒でもある。列にならんだ18時半から23時半に帰宅するまで、5時間ずっと立ちっぱなしだったが、疲れなかったのはこのサンダルのおかげだ。歴代のサンダルの内でも、抜群の性能である。
 履き心地の秘密は、中央のふくらみにあるのかもしれない。



 母や義母にならい、私はこれを「ミュール」と呼ぶことにしよう。
 しょうもない一族と後ろ指を指される気がする……。


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強制脳トレ

2016年05月29日 21時23分56秒 | エッセイ
 Facebookで見知らぬ女性から友達リクエストが来た。
「宮城香織? 知らないなぁ……」
 しかし、その人の友達一覧には学生時代の仲間が何人も含まれている。大学も学部も一緒だし、やはり知り合いの確率が高い。
「そういえば、カオリって呼ばれていた子がいたような、いないような……」
 卒業アルバムを引っ張り出す。商学部は女子が少ないので、見つけるのは簡単だ。ページをめくって順に名前を追っていくと、香織という名で見覚えのある顔が視界に入ってきた。旧姓は上野というらしい。
「ああ、思い出した。料理が得意だったカオリだ」
 さんざん時間がかかったくせに、しれっとした顔でメッセージを送る。
「香織、久しぶり! リクエストありがとうね。またこっちでもよろしくぅ~」
 笑い事ではないくらい、物忘れがひどくなった。かろうじて40代に入れてもらえるうちから、ボケるわけにいかない。なんとかせねば。
「ひとまず、簡単な計算くらいはやっておこうかしら」
 といいつつ、ドリルを開いてもいないくせに……。
 平日はフルタイムで働いているので、土日にスーパーでまとめ買いをする。出かける前に買い物リストを作っておけば、店に着いたとき、手際よく品物を選べる。カゴに入れた商品は二重線で消し、まだの商品と区別して買い忘れを防ぐ。リストなしのときと比べて、かなり効率的だ。
 今日も、レシートの裏に必要な商品をリストアップしておいた。スーパーの自動ドアを抜け、紙片を取り出そうとしたとき、持ってこなかったことに気がついた。

 忘れちゃったんだ、ひえ~!

 ときどき、この手の失敗をする。リストアップに使った時間は何だったのか。非常にシャクだが、手元になければ仕方ない。記憶を頼りに、売り場を順に回っていけばよい。
 乳製品売り場ではヨーグルト、飲料売り場では水、精肉売り場では豚コマと合いびき、鮮魚売り場ではエビ……。結構覚えているものだ。タケノコ水煮やキウイフルーツ、おっと、ギネスとハイネケンもリストアップしたんだっけ。ドレッシングにショウガに、蕎麦の乾麺……。
「これで全部のはず」と自信を持ってレジに行く。もし、夕食に使う食材がなければ、もう一度店に来なければならないが、その心配はない気がした。
 代金を払い家に帰ると、キッチンのテーブルの上に、先ほど書いた買い物リストが残されていた。
「どれどれ、買い忘れはないかな?」
 リストに書かれた商品は、全部で14種類。品切れだったモロヘイヤ以外、すべて購入してきたので、予想通りである。



「やった! 今日は冴えてるじゃん」
 無事に脳トレ終了だ。
 たまには、こういう具合に頭を働かせたほうがいいのかも。


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オリジナル・シャア

2016年05月26日 21時06分34秒 | エッセイ
 5月21日から「機動戦士ガンダム THE ORIGINⅢ 暁の蜂起」が公開されている。
「いつ行く?」
「大学がある日の帰りがいいな。水曜なんてどう?」
「いいよ。じゃあ、25日で」
 娘と日程を合わせて、観に行く日を決めた。池袋の劇場は近いが、仕事帰りでは21時台しかない。日本橋まで出ることにした。



 相変わらず、劇場内には中高年のサラリーマンが目立つ。ガンダムは37年前に誕生したコンテンツであるが、人気が衰えるどころか、関連市場も年々拡大し続けている点が珍しい。
 今回は、人気キャラであるシャア・アズナブルの士官学校時代に焦点を当てている。



 さて、どんな展開になるのか。
 冒頭のシャア・アズナブルは、金色の髪に茶色の瞳を持った少年である。ただし、人気キャラのシャアではない。まぎらわしいので、オリジナル・シャアと呼ぶことにする。彼にそっくりなエドワウという少年もいるが、こちらは瞳が青。つまり、瞳を見なければ、2人を見分けることができない。
 エドワウは追われる身である。命を狙われていることは重々承知の上で空港に来た。勝算はある。何も知らないオリジナル・シャアと入れ替わればいい。どさくさにまぎれて士官学校の入学許可書をくすね、シャア・アズナブルとして生きることにした。人気キャラは、入れ替わったあとのシャアなのだ。
 では、オリジナル・シャアはどうなったかというと……。
 ハッピーエンドのはずがない。顔がそっくりというだけで、人生を台無しにされるのだから、いい迷惑だ。
 復讐のためには手段を選ばない非情なシャアに対して、素直なガルマ・ザビが可愛かった。



 ザビ家の末子として、将来を期待されるガルマ。その重圧は大きい。見えないところで努力はしているが、悲しいことに限界がある。「僕もこうだったらよかったのに」と願う運動神経、頭脳、カリスマ性を持った人間がシャアだった。負けず嫌いの血が騒ぎ、無理してシャアと張り合った結果、裏目に出て終わる。喜怒哀楽を隠さず表現するところに、人間的な魅力を感じた。
 ファーストガンダムでは、前髪ばかりいじって女々しかったし、決して好きなキャラクターではなかった。でも、暁の蜂起では育ちのよさが人柄に反映され、周囲の期待に応えようと必死に頑張るところが微笑ましい。父親から溺愛される理由がわかったような気がした。
 シャアはガルマを見下す一方で、その天真爛漫さに惹かれていたのだろう。
 映画のあとは食事だ。
「映画の半券で10%オフだって」
「ここにしようか」
 私たちは、映画館の近くにあるベルギー・ビールの店に入った。大好きなギネスはアイルランドだし、ハイネケンはオランダ。ベルギーのビールはほとんど飲んだことがない。
 右が「カスティール・ルージュ」、左が「プリムス」。



「カスティール・ルージュ」はカクテルのような味わいで、とてもフルーティーだった。ブラウンビールとサワーチェリーが入っているという。これなら何杯でもいけそうだ。

 ブラウン。オリジナル・シャアの瞳の色ね……。

 次々と運ばれてくる料理にも、茶色のものが多かった。
 オリジナル・シャアの瞳の色のムール貝。



 オリジナル・シャアの瞳の色のタルタルをかけたシュリンプのサラダ。



 オリジナル・シャアの瞳の色のスモーク・チーズ。



 次のベルギー・ビールもブラウンだったりする。



「ふー、もうお腹いっぱい」
 映画も料理も、十分に楽しめた。
 家に帰ってから気づいたことだが、飲み食いするのに夢中で、チケットの半券を提示するのをすっかり忘れていた。
 何をやっているのだろう。
 ああ、幻の10%オフ……。


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3世代女子会墓参り

2016年05月22日 21時45分59秒 | エッセイ
 母方の祖母が亡くなったのは、昭和49年の今日だった。
 祖母の墓は高尾の某霊園にあるが、夫の父もたまたま同じ墓地で眠っている。一度に2件の墓参りをすませようと考え、母と一緒に出かけることにした。
「え、墓参り? ミキも行ってみようかなぁ」
 義父の納骨の際、娘もかの霊園に同行したが、幼かったため記憶がないそうだ。義母が認知症になって以来、義父の墓参りは滞っている。ランチを餌に誘ったら、娘も来ることになった。
「でも、明日の1限に提出する課題ができてない……」
「帰ってきてからやったら?」
「結構難しいよ。問題が変だし。休講になればいいのに」
「そう上手くいかないでしょ」
「まあいいや」
 今日は天気もよくてラッキーだった。
 中央線に揺られながら、祖母の記憶をたぐりよせる。祖母が亡くなってすぐに、父の弟から電話がかかってきたという。
「今、靴ひもが急に切れて、胸騒ぎがしたんだけど、何かあった?」
 いわゆる「虫の知らせ」である。なぜ娘や息子ではなく、娘の夫の弟などという縁の薄い相手なのかは不明だが、父は背中に氷を入れられたようなゾクゾク感を味わったらしい。祖母を看取った母が病院から帰ってくると、誰も通っていないはずの門や玄関が開けっ放し。理屈では説明のつかないことが、いくつか起きていた。
 生前の祖母は、笑った顔しか見せない人だった。孫に甘くて、母がダメということも祖母ならOKになる。お菓子も買ってくれるし、いつでも公園に連れて行ってくれる。私にとっては、願いを叶えてくれる魔法使いのような存在だった。
「高尾、高尾。終点です」
 高尾駅には花と線香の販売所があり、とても便利だ。母と落ち合い、まずは義父の墓へ行く。3人で墓石をピカピカに磨き上げ、娘は満足そうだった。
 次に、祖母の墓に向かう。この墓には祖母だけでなく祖父、夭折した母の姉も眠っているので、お供えは3人分用意しておいた。
「ひいおばあちゃん、はじめまして」
 こちらもキレイに掃除してから手を合わせる。ひ孫が来たから、祖母は喜んでくれたかもしれない。結婚して家を出てから長い間、ろくに墓参りをせずに申し訳なかったと詫びた。母も年々老いてくるので、これからは命日や彼岸のたびに同行するつもりだ。
「じゃあ、お昼にしよう」
 新宿まで戻り、小田急百貨店の14階へ行く。初めて行く店だが、ネットで見た雰囲気がよかったので予約を入れた。
「ライスとパンのどちらになさいますか」
 私と娘は「パン」と即決したが、母はなかなか決められない。年とともに優柔不断になったようだ。
「じゃあ、最初はパンで、お肉料理のときは少な目のライスということでいかがですか」
「ああ、それいいわね」
 店員さんが、とっさに機転を利かせた。両方食べられるということと、気をつかってもらえたということで、母は大いに満足したようだ。こういう店ばかりだとありがたい。



「じゃあ、今度は9月ね。また連絡するよ」
「はいよ。じゃあまたね」
 手を振って母と別れた。次は姉も誘ってみよう。
「ああ、課題やらなきゃ……」
 家に着くと、娘がブーブー言いながらパソコンを開いていた。ついでに休講情報などもチェックしたらしい。すぐにドタドタと音を立て、台所に駆け込んできた。
「お母さん、明日の1限が休講って書いてある!」
「マジ!?」
 なるほど、願い事があったら、墓参りをするのがいいかも……。


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しゃもじ、大地に立つ

2016年05月19日 21時33分26秒 | エッセイ
 家電の寿命は10年なんていうけれど、アタシは笹木という家で、25年もご飯を炊き続けているのさ。
 この家族は炊き立てが好きでね、朝の分を2合、夜の分を2合という具合に、一日2回も働かされるもんだから、内釜がほら、こんなボロボロにハゲちまったよ。



 アタシは8合炊きなのにさ。
 もっと大家族の家に買ってもらえばよかったよ。
 さすがに、最近じゃ外ブタまで歪んできてね、右からも左からも蒸気が漏れるようになったもんだから、人間たちも焦ったみたいだよ。
 急いでカタログを見て、新しいのを探してた。

 ん?
 アンタ、見たことない顔だね。
 そうか、アンタがアタシの代わりに働いてくれる炊飯器?
 ―ええ、そうです。
 何合炊きなんだい?
 ―5.5合です。
 やけに半端だね。
 ―最近は、これが普通ですよ。
 そうかい。時代は変わったね。頭が黒くて、イカしてるよ。
 ―恐れ入ります。



 でも、容量が小さい割に、体の大きさはアタシと大して変わらないじゃないか。
 ―お恥ずかしいんですが……。私はおねえさんより重たいと思います。
 えっ、そうなのかい?
 ―おねえさんの内釜は何グラムあります?
 えーと、たしか360gだったよ。
 ―私の内釜は、986gもあるんです。
 へえっ、そんなに重いなんて思わなかったよ。見かけによらないね。



 こんなに厚手でガッシリした釜なら、美味しいご飯が炊けるだろうよ。
 ―ご飯には自信があります。それと、しゃもじにも。
 しゃもじ?
 ―私のしゃもじは、自立するんです。



 へええ、こりゃ大したもんだ!
 ―よく思いついたと感心しますよ。コロンブスの卵ですね。
 あれ? ピッピッピッって音がするよ。
 ―今、炊き上がりました。ふっくらとして弾力性のある仕上がりなんです。ご覧になる?
 見せとくれ。



 ああ、いい匂い!
 ―これからは、私が炊飯しますから、おねえさんは休んでくださいね。
 じゃあ、そうさせてもらおうか。
 ―長いこと、お疲れ様でした。


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寒くて熱い「ルノワール展」

2016年05月15日 21時20分08秒 | エッセイ
 話題の展覧会を観るなら、金曜日がおススメだ。
 平日の昼に行かれる方ならいざ知らず、土日となれば美術館はかなり混む。せっかくの絵画をじっくり鑑賞するには、夜8時まで開館している金曜日に限る。
「お待たせ~」
「お母さん、遅いよ」
 仕事を終えてから、大学2年の娘と国立新美術館で待ち合わせたが10分遅刻。ルノワール展は1月から楽しみにしていた展示で、前売券発売の1月27日には早割ペアチケットをゲットしている。
「じゃあ、荷物をロッカーに入れて、入口に行こう」
「うん」
 今日は小さな手提げを持ってきた。ロッカーがあるのに、財布などを入れる袋がなくて、結局重いバッグごと持ち歩く失敗はしないですむ。私なりに、気合いは入っているのだ。
「あ、チケットもロッカーに入れちゃった……」
「あーあ……」
 ドジも踏むけど、まあ、こんなもんだ。



 冒頭から、自分がいかにルノワールという画家を知らないかということに気づいた。
 彼は、13歳で磁器の絵付け職人となったそうだ。
「貧しかったのかな?」
「学校制度はどうなっていたのかしら」
 4年間修業をしたあと、絵の道に進んだらしい。
 私はいつも、会場内では鉛筆を借りて、作品リストに説明や感想を書きこんでいる。今回は、娘も鉛筆を借りて、同じように記録していたのがうれしかった。
「書きにくい。下敷きが欲しいな」
 文句を言いつつ、あれもこれもと書き留めていた。大好きなルノワールだから、特別なことがしたくなったのかもしれない。
 ルノワールは19歳からルーブルで模写を始め、28歳で印象派の先駆け作品を生んでいる。29歳で普仏戦争の兵役に就くが、無事に戻ってこられてよかった。
 31歳で画商に購入してもらえるようになり、33歳には第1回印象派展で7点もの作品を発表した。
 39歳で妻となるアリーヌと出会い、44歳で長男ピエールが誕生している。晩婚だったのは、絵を描くことが最優先事項だったからではないか。子どもは3人で、全部男子だったようだ。
「三男がクロードか。次男の名前は何だっけ」
 娘が鉛筆を動かしながら尋ねてくる。
「ジャン」
「ふーん」
「焼肉のタレだよ」
「へ、何で? 焼肉といったらエバラでしょ」
 チッ、モランボンを知らないのか……。
 61歳でリウマチの激しい発作に見舞われるようになるが、変形して思うように動かなくなった手に、絵筆をくくりつけてでも描く。描く、描く、描く。
 74歳で、妻アリーヌに先立たれる。彼女は56歳だったそうだ。
 それでも、老画家は描き続ける。映像を見たが、やせ細った体を椅子に据え、真剣過ぎる視線をカンヴァスに向けて、迷わず絵筆を滑らせていた。仕立てのよい服に、威厳のあるヒゲ。



 この方は、存在自体がアートなのだ。
 77歳で「浴女たち」の制作に着手し、78歳に完成。



 そして、その年に亡くなっているから、最後の力をすべて注ぎ込んだ大作であることは間違いない。絵に対して、尋常ではない情熱と愛情、執着を持った画家だったと理解した。
 画家を支えた妻のアリーヌが、「田舎のダンス」という絵に登場している。



 木綿の晴れ着は、おそらく彼女の一張羅。もっと素敵なドレスを着ている人がいたとしても、彼女は夢見心地の表情で、世界一幸せだと思っているのでないか。そして、絵を見る人にも、幸福感を分けてくれるような気がする。
「あった、ムーラン・ド・ラ・ギャレットだよ」
 娘が目当ての絵を見つけ、喜んでいた。



 数年前にオルセーで観たときも感激したが、今度は日本に来てくれたことで心が躍り出す。
 この絵は、ルノワールが35歳のときに描いた作品である。ダンスホール兼酒場の娯楽施設に集う大衆が、仕事の憂さを晴らし、非日常の解放感を味わうひとコマを描いている。
 絵もさることながら、私は説明文に舌を巻いた。
「ポルカの音楽、笑い声、ざわめきまでも聞こえてくるようです」
 うーん、こういう表現もあったか。賑わっている様子を切り取る言葉として、ピッタリはまっている。私も、こんな文章が書けるようになりたいものだ。
 作品は全部で103点。決して多くはないが、出口にたどり着くまでに2時間かかった。
「さ、寒い」
 館内は異常に冷えている。貸し出しのストールもあったのに、「あとちょっとだからいいや」と考えて借りなかった。しかし、足の裏がつって痛い。借りればよかったと後悔した。最後にまた失敗。
 ルノワール展では、暖かい服装で、じっくりメモを取ってはいかがだろうか。
 まだまだ書きたいことはあるけれど、今日はこの辺で……。


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「ルーム」すべり込みセーフ!

2016年05月12日 21時43分56秒 | エッセイ
 映画「ルーム」のあらすじを見たのは、ゴールデンウィークに入ってすぐのことだった。



「7年間も密室に監禁された女性が、そこで生まれ育った5歳の息子のため命懸けで脱出に挑み、長い間世間から隔絶されていた彼らが社会に適応していく過程を描く」
 えっ、監禁?
 ここで私のパソコンは、一番に「換金」と変換した。持ち主に似るのだろう。
 そこで息子が生まれ育つ? 誘拐犯との子どもというわけか。
 でも、脱出? どうやって?
 がぜん、興味をそそられ、劇場に足を運んだ。その映画館では、「公開は5月6日まで」と事務的に表記していたが、終了間際でも劇場内はほぼ満席。人気の高さがうかがえる。
 冒頭は、5歳の息子・ジャックがママと暮らす狭い部屋で、植木鉢やイスなどに話しかけるところから始まる。何気なく見ていたが、ここはラストにつながる重要な場面だ。
 ママは優しい。ジャックをこの上なく愛していることが全身から伝わり、まさか犯罪の被害者とは思えない。でも、ジャックが5歳の誕生日を迎えたときに、「よく聞いて」と息子に打ち明けるのだ。
 テーマは重い、重すぎる……。
 誰の視点で撮られた映画かによって、視聴者の精神的負担はまったく変わってくるだろう。
 たとえば、ママであるジョイの視点だったらどうか。
 17歳で誘拐され、普通の生活を楽しむ自由が奪われた。誘拐犯に性行為を強要され、その結果、男児を出産。息子は可愛いけれど、あの男だけは許せないと、日々、憎しみが募っていく。
 うーん、とても見る気になれない。
 じゃあ、ジョイのママ、つまりグランマからの視点で作られたら?
 ある日、学校に行ったはずの娘がこつ然と消えてしまった。夜になっても、朝になっても、また夜になっても帰ってこない。どこに行ったの? 私の大事なジョイ。
 子どもがいないと、家族の仲がギクシャクする。夫とは疎遠になり、一緒に暮らす意味がわからなくなって離婚。新しいパートナーはいるけれど、心の中には大きな穴が開いたまま。
 これも、ちょっと遠慮しておきます、と言いたくなる内容だ。
 だが、「ルーム」は5歳のジャックの視点で描かれているから、一生懸命ケーキを作ってみたり、「臭いのはママのオナラだよ!」と叫んでみたりで、実にラブリー。ジョイはジャックを邪魔に思うどころか、彼からエネルギーをもらって生きていたのだ。子どもの無邪気さに、視聴者もスクリーンに釘付けにされる。大人だったら、こうはいくまい。
 ジャックとジョイが脱出に成功し、グランマの家で暮らし始めたシーンが好きだ。
 ジャックは、これまでママと誘拐犯しか見たことがないから、グランマやグランマのパートナー・レオを警戒して心を開かない。でも、レオはジャックに聞こえるように独り言をつぶやき、朝食を食べさせることができた。遊び相手の犬も連れてきた。「この子には何の罪もないんだ」と言わんばかりに世話を焼き、実にイイ奴。グランマは目が高い。
 監禁されたジョイ役を演じたブリー・ラーソンは、実際に誘拐された経験があるのかと信じてしまうくらい、真に迫っていた。ジャックしか眼中にないときのジョイ、世界に戻り安心したときのジョイ、心が押しつぶされて混乱したときのジョイという具合に揺れ動き、彼女の衝撃が伝わってきた。アカデミー賞を受賞したのは当然だろう。
 ジャックは腰まで髪を伸ばしている。髪にパワーが宿ると信じているからだ。
 私も数か月前から髪を伸ばし始めた。今ではブラウスの襟に入り込むほど長くなった。髪が伸びるにつれ、なぜか直感が働くようになった。「これはこうしたほうがいい」「あれを忘れているよ、気をつけて」「今がチャンス、すぐ動いて」などなど、転ばぬ先の杖となってくれる。
 映画を見たあとは、「もっと伸ばそう」と決心した。ワタクシ、単純なもので。
 公開終了前に見られて本当によかった、と実感できる映画だった。


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アールグレイは罪な味

2016年05月08日 20時54分14秒 | エッセイ
 朝起きたら、ティーポットにアールグレイの茶葉を入れ、紅茶をいただくのが日課となっている。
 ところが、うっかり硬いものをぶつけたものだから、ティーポットの注ぎ口が欠けてしまった。
「キャーッ!」
 早く新しいものを買わねばと思ったが、ときは5月。母の日があるではないか。
 まずは勝手に下見をする。池袋は品ぞろえがイマイチ、銀座もダメ。新宿伊勢丹が一番充実していた。
 次に、「何が欲しい?」と聞かれてもいないのに、娘の部屋におねだりをしに行く。いや、たかりと言った方が正しいかもしれない。
「ねえ、母の日のプレゼントはティーポットにしてえ」
「え? 母の日っていつだっけ」
 すっかり忘れられていたのが残念だ……。
「8日だよ」
「で、ティーポットっていくらするの?」
 オシャレなティーポットは高い。安いものは500円くらいで買えるが、私がいいと思ったものは2万円前後であった。
「へ? そんな高いの、学生に買えるわけないでしょ」
「じゃあじゃあ、父の日はなしでいいから」
「それ、おかしいでしょ」
 そういえば、キッチンの引き出しに、百貨店共通商品券があることを思い出した。数えてみると、1000円券が25枚ある。
「ミキが出せるのは1万円までだよ。あとは、商品券で払ってね」
「うん」
 そんなわけで、今日は新宿伊勢丹まで、ティーポットを求めてお出かけした。
 小さめのものでよかったのだが、洗いにくいと困る。可愛くて、使い勝手がよくて、清潔に保てるものを探したら、リチャード・ジノリにたどり着いた。



 予定通り、娘が1万円を出して、不足額は商品券から払った。おつりの800円を娘に渡す。
 娘と別れて、夕飯の買い物をしてから家に帰った。
「母の日ありがとう~!」
 待ちかねた夫と娘が、一緒にプレゼントを渡してくれた。
 どうやら、娘は「何でアタシが全額払わなきゃいけないの」と考え直したのか、夫にプレゼント代を請求した模様だ。内訳が知りたくて、娘の部屋に忍び込んだ。
「ねえねえ、お父さんにいくら出してもらったの?」
「1万円」
「商品券使ったこと、黙ってたんでしょ」
「当たり前じゃん」
「レシート見せて、これだけかかったんだよ、なんて言って」
「そうそう。ミキはおつりの800円分得した」
「詐欺だな」
「いいんだよ」
 たかりに詐欺。どういう母の日なんだか。
 たまには、何も知らない夫に紅茶をいれてあげようかな……。


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