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これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

よそゆきスウェット

2011年11月20日 21時19分45秒 | エッセイ
 体外受精の翌日から、受精卵の着床率を上げるホルモン剤を飲んでいる。

 デュファストン錠 5mg



 不妊症の強い味方であることは間違いないが、困った副作用がある。
 お腹に、水だか何だかがたまってきて、どんどん膨らんでしまうのだ。下着やスラックスはゆるいサイズがあるからいいが、スウェットパンツだけはゴムがきつくて苦しくなった。
 まずは、お手軽に、家族のものを借りようと思った。
「ねえ、ミキ。スウェット貸してくれない? お母さんのキツくて」
「……なにそれ、ミキがデブだとでも?」
「いやあ、そういうわけじゃないけど」
「ムキーッ、じゃあ、どういうわけよ! てか、夏のしか持ってない」
 娘はダメだった……。
 次は、万年妊婦の太鼓腹を持つ夫にあたる。
「ねえ、このスウェット貸してくれない?」
 私は、出しっぱなしになっている、グレーのスウェットに手を伸ばした。夫は、わけがわからんという顔をして、「別にいいけど」と答えた。
 サイズを確認しようと、タグに目をやる。LLかと思ったら、「O」と書いてあった。

 何だ、こりゃ??

 もはや、未知の世界である。LLよりも大きいのだろうか。
 胴はもちろんのこと、足の部分も相当太い。片側で、両足分を収納できるくらいの布地がある。ダブダブのパンツに足を通すと、肩幅よりも広くなった。もちろん、ウエストもゆるゆるだ。
 娘が、ニヤニヤしながら冷やかしてくる。
「……お母さん、道路工事している人みたいだよ」
「やっぱり?」
 自分では、ピエロみたいだと思った。しかも、布地にゆとりがありすぎて、足元がスースーする。だが、ひとまず履ければいい。夫のメタボも、役に立つことがあるとわかった。
「しばらく借りるよ」と宣言すると、夫が悲しそうな声で、「俺のお出かけ用が……」とつぶやいていた。
 私には、人様の服を借りると、すぐに汚すという悪癖がある。姉の服には、クレープのチョコレートをつけたり、しょうゆをこぼしたりしたことがあり、さんざん怒られた。夫のよそゆきは汚さぬようと気をつけたが、焼き魚を落としてしまった。シミにならないように急いで洗ったが、ちゃんと落ちただろうか。

 しかし、残念なことに、昨日生理がきてしまった。つまり、妊娠していなかったということだ。
「あーあ……」
 がっかりする私に、娘は何か言ってあげなければと思ったようだ。
「仕方ないよ。風邪ひいてたし」
「うん」
「咳してたし」
「うん」
「もう、その薬も飲まなくていいんだね」
「ああ、そうか」
 何ともあっけない幕切れだったが、不思議なことに、「こんなもんかもなぁ」と気持ちはサバサバしていた。
 運が悪かっただけで、やれるだけのことはやったのだ。また今度、がんばればいい。
 明日は、短い間だったけれども、お世話になった夫のよそゆきスウェットを洗う。焼き魚のあとが残っていないか、もう一度チェックしておこう。



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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (10)
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