体外受精の翌日から、受精卵の着床率を上げるホルモン剤を飲んでいる。
デュファストン錠 5mg

不妊症の強い味方であることは間違いないが、困った副作用がある。
お腹に、水だか何だかがたまってきて、どんどん膨らんでしまうのだ。下着やスラックスはゆるいサイズがあるからいいが、スウェットパンツだけはゴムがきつくて苦しくなった。
まずは、お手軽に、家族のものを借りようと思った。
「ねえ、ミキ。スウェット貸してくれない? お母さんのキツくて」
「……なにそれ、ミキがデブだとでも?」
「いやあ、そういうわけじゃないけど」
「ムキーッ、じゃあ、どういうわけよ! てか、夏のしか持ってない」
娘はダメだった……。
次は、万年妊婦の太鼓腹を持つ夫にあたる。
「ねえ、このスウェット貸してくれない?」
私は、出しっぱなしになっている、グレーのスウェットに手を伸ばした。夫は、わけがわからんという顔をして、「別にいいけど」と答えた。
サイズを確認しようと、タグに目をやる。LLかと思ったら、「O」と書いてあった。
何だ、こりゃ??
もはや、未知の世界である。LLよりも大きいのだろうか。
胴はもちろんのこと、足の部分も相当太い。片側で、両足分を収納できるくらいの布地がある。ダブダブのパンツに足を通すと、肩幅よりも広くなった。もちろん、ウエストもゆるゆるだ。
娘が、ニヤニヤしながら冷やかしてくる。
「……お母さん、道路工事している人みたいだよ」
「やっぱり?」
自分では、ピエロみたいだと思った。しかも、布地にゆとりがありすぎて、足元がスースーする。だが、ひとまず履ければいい。夫のメタボも、役に立つことがあるとわかった。
「しばらく借りるよ」と宣言すると、夫が悲しそうな声で、「俺のお出かけ用が……」とつぶやいていた。
私には、人様の服を借りると、すぐに汚すという悪癖がある。姉の服には、クレープのチョコレートをつけたり、しょうゆをこぼしたりしたことがあり、さんざん怒られた。夫のよそゆきは汚さぬようと気をつけたが、焼き魚を落としてしまった。シミにならないように急いで洗ったが、ちゃんと落ちただろうか。
しかし、残念なことに、昨日生理がきてしまった。つまり、妊娠していなかったということだ。
「あーあ……」
がっかりする私に、娘は何か言ってあげなければと思ったようだ。
「仕方ないよ。風邪ひいてたし」
「うん」
「咳してたし」
「うん」
「もう、その薬も飲まなくていいんだね」
「ああ、そうか」
何ともあっけない幕切れだったが、不思議なことに、「こんなもんかもなぁ」と気持ちはサバサバしていた。
運が悪かっただけで、やれるだけのことはやったのだ。また今度、がんばればいい。
明日は、短い間だったけれども、お世話になった夫のよそゆきスウェットを洗う。焼き魚のあとが残っていないか、もう一度チェックしておこう。

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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
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不妊症の強い味方であることは間違いないが、困った副作用がある。
お腹に、水だか何だかがたまってきて、どんどん膨らんでしまうのだ。下着やスラックスはゆるいサイズがあるからいいが、スウェットパンツだけはゴムがきつくて苦しくなった。
まずは、お手軽に、家族のものを借りようと思った。
「ねえ、ミキ。スウェット貸してくれない? お母さんのキツくて」
「……なにそれ、ミキがデブだとでも?」
「いやあ、そういうわけじゃないけど」
「ムキーッ、じゃあ、どういうわけよ! てか、夏のしか持ってない」
娘はダメだった……。
次は、万年妊婦の太鼓腹を持つ夫にあたる。
「ねえ、このスウェット貸してくれない?」
私は、出しっぱなしになっている、グレーのスウェットに手を伸ばした。夫は、わけがわからんという顔をして、「別にいいけど」と答えた。
サイズを確認しようと、タグに目をやる。LLかと思ったら、「O」と書いてあった。
何だ、こりゃ??
もはや、未知の世界である。LLよりも大きいのだろうか。
胴はもちろんのこと、足の部分も相当太い。片側で、両足分を収納できるくらいの布地がある。ダブダブのパンツに足を通すと、肩幅よりも広くなった。もちろん、ウエストもゆるゆるだ。
娘が、ニヤニヤしながら冷やかしてくる。
「……お母さん、道路工事している人みたいだよ」
「やっぱり?」
自分では、ピエロみたいだと思った。しかも、布地にゆとりがありすぎて、足元がスースーする。だが、ひとまず履ければいい。夫のメタボも、役に立つことがあるとわかった。
「しばらく借りるよ」と宣言すると、夫が悲しそうな声で、「俺のお出かけ用が……」とつぶやいていた。
私には、人様の服を借りると、すぐに汚すという悪癖がある。姉の服には、クレープのチョコレートをつけたり、しょうゆをこぼしたりしたことがあり、さんざん怒られた。夫のよそゆきは汚さぬようと気をつけたが、焼き魚を落としてしまった。シミにならないように急いで洗ったが、ちゃんと落ちただろうか。
しかし、残念なことに、昨日生理がきてしまった。つまり、妊娠していなかったということだ。
「あーあ……」
がっかりする私に、娘は何か言ってあげなければと思ったようだ。
「仕方ないよ。風邪ひいてたし」
「うん」
「咳してたし」
「うん」
「もう、その薬も飲まなくていいんだね」
「ああ、そうか」
何ともあっけない幕切れだったが、不思議なことに、「こんなもんかもなぁ」と気持ちはサバサバしていた。
運が悪かっただけで、やれるだけのことはやったのだ。また今度、がんばればいい。
明日は、短い間だったけれども、お世話になった夫のよそゆきスウェットを洗う。焼き魚のあとが残っていないか、もう一度チェックしておこう。

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