YouTube にアップされた『India’s Got Color〈はだいろ いろいろ〉』。
ナンディタ・ダース監督(『マントー〈Manto〉』2018)の企画制作会社 Nandita Das Initiative のプロデュースで、マへーシュ・マタイ(Mahesh Mathai、注)と共同監督したメッセージビデオだ。英語字幕つき。
ナンディタが力を入れてきた活動に、「Dark is Beautiful(浅黒い肌は美しい)」というキャンペーンがある。
2006年、カヴィタ・エマヌエルという女性弁護士が、南インド・タミルナードゥ州都チェンナイに、「Women of Worth(すべての女性に価値がある)」という NGO を興した。その NGO が、10年前に始めたキャンペーンだ。
公民権運動に揺れた、1960年代米国に始まる黒人の社会運動「Black is Beautiful(黒は美しい)」に倣ったのだろうということはすぐわかる。
『週刊金曜日』に書いたインタビューの際も、TUFS Cinema での『マントー』上映に伴う講演会でも、ナンディタは語っていた。
長年携わってきた映画制作の現場でも、「顔の造作は悪くないけれど、いかんせん肌が黒すぎる」と何度言われたかわからないと。
私は、彼女がデビューしたころからリアルタイムで見てきて、演技力と出演作のセレクションに感服するとともに、「クラシックなインド美人だなあ」と感じてきた。
だから、ナンディタに関する記事を読んでいて、よく引っかかったのは「dusky actress(浅黒い肌の女優)」といった形容である。むろん、肌の色と、出演作のテーマや役柄とは何も関係しない場合の話だ。
インド亜大陸で根強い色白への執着、オブセッション。
色白(fair)であれば、それだけで美しい。色黒(dark/dusky)はそれだけで醜い。
後者は醜いだけではない、存在自体が不吉だとか、出自や階級やカーストが卑しい、あるいはとくに女性の場合、良い結婚相手が見つからない、良い就職ができないなど、ことごとくネガティブなレッテル貼りがされる。
そう見なされるだけでなく、現実の社会生活で不利益を被ることがしばしばあるのだ。
私も、何気ない雑談をしているときなどに「え!?」と驚いたことは、ときどきある。
高学歴専門職でリベラルな人びとでも、だれか親族の女性に結婚が決まり、その女性が色黒だったりすると、「よかった、相手が見つかって。なにしろ色が黒いから」などと、ぽろっと本音を出したりするのだ。
ちなみに、モンゴロイド系は色白に見なされるので、この種の差別の対象にはならない。しかし、ほかに問題がないわけではない。ただ、論旨から外れてしまうので、いずれ『Axone〈アクニ〉』(2019)のレビューをするときにでも書く。
ナンディタの YouTube アカウントには、状況がいかに深刻かを語っているインタビュー動画もある(自動生成なので拾えていない部分も少々あるが、英語字幕つき)。
いわく、白い肌への執着は、膣専用の美白クリームまでプロモーションされるほど異常だと。ほかにも具体的な問題がいろいろ挙げられている。
高校時代、たまたま妹が買ってきたフォトジャーナリスト・吉田ルイ子さんの『ハーレムの熱い日々』(講談社文庫 1979年)を読んだ。
たくさんの写真のインパクトと合わせて「Black is Beautiful」を初めて知ったのは、そのときだったと思う。「黒は美しい――か。なるほど!」と、子ども心にも見方が変わった。以後、吉田さんの一連の著作は、私が米国の黒人差別に関心を深めていくうえでの、最初のステップになった。
「Black is Beautiful」が象徴する歴史的な重みをふり返ると、「Dark is Beautiful」のキャンペーンは、むしろまだこれからの発展途上。
『India’s Got Color』は、そのひとつの推進力として広めたいビデオだ。
キャストは、甲乙つけがたい演技派女優の「てんこ盛り」なので、ボリウッドファンのなかでも玄人には垂涎モノである。
ラーディカー・アープテー(『パッドマン 5億人の女性を救った男〈Pad Man〉』2018)のような、上昇気流に乗るメジャー女優が、「この子は肌が黒すぎるので、スタジオ内まで陰鬱になる」と、ひどい言葉を投げられるグラビア撮影シーンに出ているのもよい。
注 1984年、インド中部マディヤプラデシュ州にあった米国企業ユニオンカーバイドの工場で、大規模なガス漏れ事故(ボパール化学工場事故)が起きた。マタイ監督は、その事故を描いた『Bhopal Express〈ボパール急行〉』(1999)で劇映画デビュー。今後の予定作に、シャー・ルク・カーン主演、インド初にして唯一の(インド系米国人を除くため)宇宙飛行士の伝記映画がある。
なお、『Bhopal Express』は、1回は見るよう勧めたい作品なのだが、いま米国や日本の Amazon を見たら DVD にずいぶんな高値がついている。私は15年前のリリース時に米国から購入したが、過去の経験からして、メーカーの Cinebella は量産しない会社なので、非常に入手困難になっているのだろう。動画サイトなどで視聴できる機会を見つけたら追記したい。
ナンディタ・ダース監督(『マントー〈Manto〉』2018)の企画制作会社 Nandita Das Initiative のプロデュースで、マへーシュ・マタイ(Mahesh Mathai、注)と共同監督したメッセージビデオだ。英語字幕つき。
ナンディタが力を入れてきた活動に、「Dark is Beautiful(浅黒い肌は美しい)」というキャンペーンがある。
2006年、カヴィタ・エマヌエルという女性弁護士が、南インド・タミルナードゥ州都チェンナイに、「Women of Worth(すべての女性に価値がある)」という NGO を興した。その NGO が、10年前に始めたキャンペーンだ。
公民権運動に揺れた、1960年代米国に始まる黒人の社会運動「Black is Beautiful(黒は美しい)」に倣ったのだろうということはすぐわかる。
『週刊金曜日』に書いたインタビューの際も、TUFS Cinema での『マントー』上映に伴う講演会でも、ナンディタは語っていた。
長年携わってきた映画制作の現場でも、「顔の造作は悪くないけれど、いかんせん肌が黒すぎる」と何度言われたかわからないと。
私は、彼女がデビューしたころからリアルタイムで見てきて、演技力と出演作のセレクションに感服するとともに、「クラシックなインド美人だなあ」と感じてきた。
だから、ナンディタに関する記事を読んでいて、よく引っかかったのは「dusky actress(浅黒い肌の女優)」といった形容である。むろん、肌の色と、出演作のテーマや役柄とは何も関係しない場合の話だ。
インド亜大陸で根強い色白への執着、オブセッション。
色白(fair)であれば、それだけで美しい。色黒(dark/dusky)はそれだけで醜い。
後者は醜いだけではない、存在自体が不吉だとか、出自や階級やカーストが卑しい、あるいはとくに女性の場合、良い結婚相手が見つからない、良い就職ができないなど、ことごとくネガティブなレッテル貼りがされる。
そう見なされるだけでなく、現実の社会生活で不利益を被ることがしばしばあるのだ。
私も、何気ない雑談をしているときなどに「え!?」と驚いたことは、ときどきある。
高学歴専門職でリベラルな人びとでも、だれか親族の女性に結婚が決まり、その女性が色黒だったりすると、「よかった、相手が見つかって。なにしろ色が黒いから」などと、ぽろっと本音を出したりするのだ。
ちなみに、モンゴロイド系は色白に見なされるので、この種の差別の対象にはならない。しかし、ほかに問題がないわけではない。ただ、論旨から外れてしまうので、いずれ『Axone〈アクニ〉』(2019)のレビューをするときにでも書く。
ナンディタの YouTube アカウントには、状況がいかに深刻かを語っているインタビュー動画もある(自動生成なので拾えていない部分も少々あるが、英語字幕つき)。
いわく、白い肌への執着は、膣専用の美白クリームまでプロモーションされるほど異常だと。ほかにも具体的な問題がいろいろ挙げられている。
高校時代、たまたま妹が買ってきたフォトジャーナリスト・吉田ルイ子さんの『ハーレムの熱い日々』(講談社文庫 1979年)を読んだ。
たくさんの写真のインパクトと合わせて「Black is Beautiful」を初めて知ったのは、そのときだったと思う。「黒は美しい――か。なるほど!」と、子ども心にも見方が変わった。以後、吉田さんの一連の著作は、私が米国の黒人差別に関心を深めていくうえでの、最初のステップになった。
「Black is Beautiful」が象徴する歴史的な重みをふり返ると、「Dark is Beautiful」のキャンペーンは、むしろまだこれからの発展途上。
『India’s Got Color』は、そのひとつの推進力として広めたいビデオだ。
キャストは、甲乙つけがたい演技派女優の「てんこ盛り」なので、ボリウッドファンのなかでも玄人には垂涎モノである。
ラーディカー・アープテー(『パッドマン 5億人の女性を救った男〈Pad Man〉』2018)のような、上昇気流に乗るメジャー女優が、「この子は肌が黒すぎるので、スタジオ内まで陰鬱になる」と、ひどい言葉を投げられるグラビア撮影シーンに出ているのもよい。
注 1984年、インド中部マディヤプラデシュ州にあった米国企業ユニオンカーバイドの工場で、大規模なガス漏れ事故(ボパール化学工場事故)が起きた。マタイ監督は、その事故を描いた『Bhopal Express〈ボパール急行〉』(1999)で劇映画デビュー。今後の予定作に、シャー・ルク・カーン主演、インド初にして唯一の(インド系米国人を除くため)宇宙飛行士の伝記映画がある。
なお、『Bhopal Express』は、1回は見るよう勧めたい作品なのだが、いま米国や日本の Amazon を見たら DVD にずいぶんな高値がついている。私は15年前のリリース時に米国から購入したが、過去の経験からして、メーカーの Cinebella は量産しない会社なので、非常に入手困難になっているのだろう。動画サイトなどで視聴できる機会を見つけたら追記したい。