インド映画の平和力

ジャーナリストさこう ますみの NEVER-ENDING JOURNEY

テルグ語映画『RRR』について、そろそろ「本当の話」をしよう② ヒンドゥ右翼の影 ☆追記あり

2022年11月12日 | インドの政治と司法
 先に紹介したヒンディ語映画『Sardar Udham』〈殉士ウッダム、2021〉もそうだが、英国植民地支配と闘うフリーダムファイター(独立運動の闘士)を描くインド映画は、過去にたくさんつくられてきた。ここで念頭に置くのは商業娯楽映画をもちろん含めた劇映画で、便宜的に「独立運動映画」と呼ぶ。

 それらを熱心に追ってきた立場からすると、テルグ語映画『RRR』は、凡庸で退屈な作品である。というより、「独立運動映画」に加えることさえ、そもそも間違いであろう。

 私が考えるに、「独立運動映画」の質を左右する決定的なファクターのひとつは、植民地支配者たる英国人の描き方である。

『RRR』の場合、主人公2人が対峙する英国人総督夫妻が、究極の「敵役」だ。
 この総督夫妻であるが、気まぐれで我儘な子どもがそのままおとなになって、嗜虐性のみ肥大させたような酷い造形である。その言動ときたら、終始、出来の悪いまんがだ。
 一例としてビームが総督邸を襲撃した罰として、公開鞭打ちされるシーン。通常の鞭では生ぬるいのでこちらを使えと、総督夫人が茨のようなトゲ付きの鞭を取り出す。震撼どころか失笑させられる。

 こんな幼稚な連中に200年も支配されたのか、支配されるほうもどうかしていたのではないのかと、インドに馴染みのない観客の印象を、あらぬ方向へもっていきかねないと心配されるぐらいに。

 一般に、善悪の対決をテーマにする物語では、「悪」にそれなりの正当化や合理化、存在感がないと「善」も引き立たない。「善」が闘う理由の必然性や説得力が脆弱になってしまい、見る者は感情移入しようにもしにくい。

 過去の「独立運動映画」においても、しばしば残虐描写は挿入された。ただしそれらは、『RRR』のように、英国人に対する稚拙な反感を、いたずらに観客に促そうとするものではない。
 たとえば、獄に繫がれたフリーダムファイターの拷問を目にするとき、独立のために払われたおびただしい代償と、それらを超越したかれらの覚悟と決意を考えさせられる。そういう効果を生むように描かれている。

「独立運動映画」の「敵役」の描き方がまずいということは、つまるところフリーダムファイター、ひいては独立運動そのものを矮小化し侮辱することになる。
 
 それ以上に気になるのは、『RRR』全体にヒンドゥ右翼の影がちらつくことだ。
 とくに目立つところを、いくつか挙げる。

 まず、インド人だが英国植民地政府に仕える警察官ラーが、反英運動の集会に潜入しているシーン。
 演壇に掲げられた画像を見た瞬間、RSS(民族奉仕団)の集会かと思った。RSS は、何度も書いてきたように、現在の政権与党であるインド人民党(BJP)の母体、傘下に多数の関連団体を擁するヒンドゥ右翼の総元締である。
 なお、RSS 設立は1925年なので『RRR』の設定1920年には存在していないといった厳密な時代考証は、後述するように無意味だ。

 画像とは、「バーラト・マーター」(Bharat Mata;「母なるインド」の意)。英領インドの領土範囲を示すイラストに重ねられた女神像である。
 祖国インドの大地を「母神」にたとえるバーラト・マーターは、19世紀末に生まれた独立運動の概念で、RSS の創作ではない。しかしながら、バーラト・マーターと聞いたとき、こんにち直ちに連想するのは RSS のシンボルとしてのそれである(絵柄はこれに限らない)。

『RRR』は、一種のサブリミナル効果でも狙うかのように、前後3回ほどバーラト・マーターを映す。
 もっとも、この時点では RSS をはじめとしたヒンドゥ右翼の影はおぼろだ。物語が進むにつれて明らかになるラーの正体と真の目的、締めくくりのソング&ダンスシーンの裏メッセージなどを考え合わせて初めて、影の全容が浮かびあがる。

☆追記☆
すでに気づいた読者も多いと思うが、本記事をアップしてから24時間経たないうちに、RSS フェイスブックのバーラト・マーターページへのリンクがいきなり阻害されている。英文の詳しい解説付きで、あれだけ堂々と公開していたのに。

あまりにもわかりやすい反応といおうか、「ご指摘のとおり『RRR』には RSS の息がかかっています」と自ら認めるようなものだが、阻害者の頭はそういうふうにはまわらないらしい。

だいたい Google で素朴に検索するだけでも、バーラト・マーターの画像など、いくらでも出てくる。
とはいえ阻害されたままというのもどうかと思うので、Amazon India の画像商品ページにリンクしておく。

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