胸元に汗かいて散歩の帰り道。やれやれと家の近くまでたどり着いたら声をかけられた。米屋の若だんなだ。
「入りましたよ。10個おさえてあります」「おお、やっときましたか」
怪しげな会話だけれど、手に入ったブツはピースの(両切り)レギュラーサイズ。震災以降、長いこと入手できなかったフィルターなしのショートピースだ。ようやく回ってきたから取っておいたというピースの20個入りカートンから、貴重な10個を取り出してビニール袋に入れておいてくれた。礼を言いながらも頬がゆるむ。
10個分の代金、2,200円を支払い、次の入荷見込みなどを聞き込む。JTの予告通りに6日から、ほとんどの主力銘柄が出荷されたけれど、まだやはり数量制限がきつく、回復するのは8月の予定だという。缶ピースも頼まれたから営業に問い合せてみたんですが、と小柄な若だんなは遠慮がちに続ける。店の実績がとぼしいから今回は入荷が難しいと。
ピースの中でも「缶ピー」は特別な存在だ。通常の両切りピースを50本缶詰にしたものだけれど、缶を開けた瞬間の香りはなんとも言えない。ちょっと上等なブランデーに似ているかもしれない。上等なブランデーはあまり飲んだことがないけれど。
一昔前のタバコ屋なら、ショーケースの棚の下あたりに常備してあった自慢のブランドだが、今はほとんど目にしない。一部の根強いファンがいるからしぶしぶ製造している、というふしもある。ともあれ、久しぶりのピース。ていねいにコーヒーをいれてから、「ピース紺」の小箱の封を切った。
ふーぅっ。部屋に紫煙が立ちのぼる。戦時中。慢性物資不足だし、嗜好品のコーヒーはめったに手に入らないから、たんぽぽの根っこを煎じて代用したと聞いたことがある。ピースを待つ間に吸っていた「わかば」は、こういってはなんだけれど、そのたんぽぽコーヒーに相当するのだ。一見するとコーヒーだけれど、味も香りもまったく別の大用品。ピースをくゆらしながらたんぽぽの根っこのことを想った。
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缶ピースの、あの香り、知ってます。
ふぅ~、と息を抜くときの感覚は格別でした。
でも、断煙して約2年経ちました。もう煙は要らないです。