
眠れない夜を歌った曲は多い。深夜は解放区、音のない闇の時間にこそ心が目覚めて想像力がはばたくからだ、きっと。とはいっても、さあ寝るぞと床についたのに、ちっとも眠くならない夜は困る。以前だったら歯ぎしりしながら布団の上をごろごろ転げてうつぶせになり、仰向けになり、膝を立てたり抱えたり、とムダに力を使っていた。
昨夜。風邪の回復途中だし、今日も早寝をと思って、バーボンをグラスになみなみと注いでオンザロックであおってから床についたのだけれど、ちっとも眠くならない。最近は、目安で1時間くらいは我慢することにしている。でも時間切れ。これも体調のせいだろうか。
仕方がないから起き上がって服を着た。パソコンを起動する気分でもないし、それならば朝のお散歩の前倒しをしておこうと外に出る。雨上がりの路面は黒く濡れているけれど寒くはない。時刻はそれこそ「草木も眠る丑三つ時」なのだった。腕時計の針は2時半を指している。だから厳密に言うと丑二つ時だ。
まず丑(うし)の刻がある。午前1時から3時までだ。この2時間分を4つにわけて、最初の2時から2時半を丑一つ、2時半から3時までを丑二つ、と数えることは時代小説の解説で知った。
ジャケットをはおり、ラジオのイヤホンを耳にさして多摩川の土手に向かう。爆笑問題のラジオ番組がそろそろ終わる頃だから3時前、多摩川にかかる橋を渡り土手の散歩道に出る。誰も歩いていない。土手の草村から聞こえる虫の音も弱弱しい初秋の真夜中。雲の切れ間に星がまたたく。
車窓を斜めに濡らす雨の最初の粒のように、夜空を星が流れた。見た。木々のシルエットが黒く浮かび、遠くの山がかすんで見える多摩川土手の散歩道を独り占めしてゆっくり歩いた。帰ってからお茶を飲み、もう一度床について、気づいたら朝。すぐに眠れたということだ。しめしめ。この方法が効くのなら眠れない夜もこわくないのだ。
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