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世界の終わりとハードボイルドワンダーランド 読了

2023-05-29 15:19:20 | 日記

世界の終わりとハードボイルドワンダーランド

村上春樹の初めての長編小説を読んだ。
本当に難しいが引き込まれた。2つの話が同時に進行して行く。私はいつ一つのストーリーに合致するのかと思いながら読んだ。ところが最後まで別々の物語であった。そうか同じ主題を別々に書き同時進行させる。
読了後、2つの話を思い出す。なんとなく似た空気のなかでそれぞれの話の印象的な場面が頭の中を動き回る。
この作品は1980代に書かれたのだが、興味深いのはこの作品の主人公である記号士はいわゆるデータサイエンティストである。当時のITはCADやCAEなどのソフトウェアが先端技術でツールではエクセル、ワードの時代であった。統計解析は数理技術とともに様々なデータ解析を行うレベルであった。
その時代に人々の心の思いをデータ化して収集し、マイニングし分析するという、データサイエンティストの仕事を予見する発想に驚いた。作中では夢読みの仕事である。
現在のデータサイエンティストは現状ではディレクター兼プレイヤーとしてIT社会の花形であるがこの作品ではもくもくと働く機械工のような立場でしかない。そして主人公は自分の主体性を取られてしまった脳回路加工の被験者である。
この作品から思うのはAIが高度化すればデータサイエンティストが黙々とAIに機械的に働かされる時代になるかもしれないという予見である。
村上春樹が、未来を予見するかのように創作した。それもSFの味わいのストーリーで、あまりSFに興味のない私にとっては村上春樹的SFに引き込まれた自分に驚く
ワンダーランドでは心をなくした街の住人達のことの描き方も多くの示唆が読み取れる。心をなくした人々には煩悩がない、いわば大人しい人々しか存在しないその街は平和なのである。野心も妬みも無だからないのである。平穏であるには心を無にする鍛錬よりも心ここにあらずのほうがいいのかもしれないとついつい生きることの労苦に疲れを感じるときに思うのである。
もう一つの世界の終わりは、異界から現実の社会に戻る情景が面白い。必死で闇の世界から脱出する緊張感、やみくろの不気味な追跡、逃れでたところが神宮から青山という馴染みの町。いわゆるおしゃれな町にてほっとしながらも終わりを待つ。そして我々の「心」この動静が醸し出すドラマ、私にとっての村上春樹はそこが面白い。 

 


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