先週、2018年度の世界幸福度ランキングが発表されました。
フィンランドが1位になった他、北欧の国々が上位を占めましたのは既報の通りで、全体的な傾向をみると大まかに、
・北欧の国々と一部ヨーロッパの国々
・オセアニアとカナダ
・その他ヨーロッパの国々とアメリカ+中東のお金持ち国
・南米の国々+台湾と一部ASEANの国々
・ロシア含む東欧の国々+日本と韓国
・中国、インド含むアジアの発展途上国
・紛争国とアフリカの国々
というグループ順になっています。
日本は昨年の51位から54位に順位を下げ、お隣の韓国57位、ロシア59位、中国86位と、東アジア地域は全体にふるいません。
シンガポールもやはり26位から34位に下落しましたが、台湾26位、マレーシア35位、タイ46位と、アジア地域でそれなりに経済発展している国は日本よりもかなり順位が高くなっています。
こちらの記事では、順位の基準になった下記の条件ごとのポイントを詳述しています。
(1)人口あたりGDP(対数)
(2)社会的支援(または困ったときに頼ることができる親戚や友人がいますか)
(3)健康寿命
(4)選択の自由度(あなたの人生において何らかの選択する自由に満足していますか)
(5)寛容さ(過去1か月の間に慈善団体に寄付をしたことがありますか)
(6)腐敗の認識(政府や仕事上で腐敗が蔓延していませんか)
日本とシンガポールを比べてみると、(1)はかなり日本が低いですが(シンガポールはアジア地域1位で、17位のルクセンブルグ、32位のカタールなどに続き世界トップクラス)、(2)と(3)はほぼ同じ。ヨーロッパの国々ほど高福祉ではないけれど、そこそこ社会的な支援を受けられて健康寿命も世界トップレベルなのがわかります。
反対に大きく差がついているのは、(4)から(6)の3項目。
(4)の選択の自由度はシンガポールは北欧の高順位国並み(タイもシンガポールとほとんど変わりません)なのに対し、日本はドイツやフランスなどその他の欧米諸国並みにとどまり、中国より低くなっています(韓国はこの項目が極端に低くフィンランドの半分程度にとどまっているのも目を引きます)。これは日本で拡大する貧困層の固定化や女性の地位が低いことなどが原因ではないかと思います。
(6)の腐敗の認識は、日本はタイはもちろん、韓国やイタリアと比べてもポイントが低く悪くないのですが、シンガポールはフィンランドを抜いて断トツの1位で、政府をはじめいかにクリーンな社会かがわかります。
そして、最も違いが際立ったのが、(5)の寛容さ。
シンガポールの指数が0.12に対して日本は-0.22(韓国は0.00、中国は‐0.19、インドは-0.05)と他国に比べて極端に低くなっており、寛容さに大きく欠ける社会が幸福感を押し下げていることがわかります。
シンガポールもイギリスの0.28やタイの0.2という指数と比べると、決して寛容さの項目がずば抜けて高いわけではありません。それどころか、もともとシンガポール人気質を表わす「Kiasu(キアス)」=自分だけが良ければ他は気にかけない、という言葉に代表されるような利己主義的な風潮が強いお国柄。
これに対して日本人といえば、震災のときの行動を見てもわかるように、上から命令されなくても困難なときには自然に助け合い支え合う国民性が印象的で、当時はシンガポール人も非常に感銘を受けていました。
しかしそれが仇となり、苦難の時期を通りすぎてしまうと、自然に自分や自分の身うちだけが良ければいい、という風潮に戻ってしまうようです。
少し前に小さいお子さんがいるシンガポール駐在日本人妻の方と話をしたのですが、「一人で外国で子育てするのって大変じゃないですか?」と聞いたら、「いや、こちらの人はみな赤ちゃん連れのお母さんに優しいですし、東京だとベビーカーで地下鉄に乗っただけで舌打ちされたりするので怖いです」とおっしゃっていたのが印象的でした。
この違いは何かといえば、やはり社会の寛容さであり、その基礎は教育や政策の違いによる、「意識された」寛容性の涵養にあるのではないかと思います。
その最たるものが、草の根運動。シンガポールでは市民ボランティアによるグラスルーツ・アクティビティ(草の根活動)は、役所の仕事に準じた評価を受けています。
例えば、学校のカリキュラムで休日の寄付集めなどのチャリティが義務化されていたり、コミュニティでのボランティア活動が点数制になっていて報奨制度があったりと(外国人がシンガポール永住権や国籍をとりたい場合、ボランティア実績は評価の対象になります)、政府の生活保障、国民の自助努力、そして国民同士の互助努力が3つの柱として社会を支えているのです。
シンガポールは1人あたりGDPベースで見るとアジアで最も豊かな国ではありますが、反面、日本と違い最低時給やキャピタルゲイン課税、相続税がなく所得税も低いため、貧富の差は拡大傾向にあります。また、移民政策によって自国民だけでなく外国人との競争プレッシャーにも晒されています。
そんな厳しい日常の中でも他人への寛容さや思いやりを忘れないよう、政府も国民も協力して活動するというコンセンサスがあるために、シンガポール人の幸福度は高水準にとどまっているのだと感じます。
日本人が本来もち続けてきた寛容さへの社会的な回帰こそ、日本人として生まれて良かった、という幸福感を感じる近道ではないでしょうか。