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教科書に書かれなかった戦争Part4 生きて再び逢ふ日のありや-私の「昭和百人一首」-

2009年01月20日 | 読書日記など
『教科書に書かれなかった戦争Part4 生きて再び逢ふ日のありや-私の「昭和百人一首」-』
   高崎隆治・撰/梨の木舎1987年

作品の解説が素晴らしい。
--その時代をきちんと把握されている感じがする。
イデオロギーなどに左右されない文学者の高潔さを感じる……。



右ページには解説、左に作品が掲載されている。


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Index

発売禁止になった作品もあるという。下「」引用。

「「風花」(*各務由紀・作)は、戦時下に発売禁止になった作者のすぐれた歌集である。この人の生れ育った環境(満鉄総裁を父をもつ)からは考えられないことだが、社会主義思想を信じる女子大在学時代の親友を肯定する作品が当局の弾圧を受けたのである。作者はマルクス主義ではないが、リベラルな立場から世の中にはさまざまな思想があって当然だし、それによって社会は進歩するという信念をもっていたようである。したがって、一方的に押しつけてくる権力のイデオロギーをそのまま容認できかなったのである。-略-」

もくじ

「しみつく」……。下「」引用。

「戦場に永くいた兵士は、表面上はごく普通の人のように見えても、その内面や性格は以前とはがらりと変わってしまうようである。当人は、自分は前と少しも変ってはいないと思っていても、周囲の眼からはまったく変わったと思われる場合が少なくない。
 戦争に行って人間が変わったという言葉は、当時、巷間(こうかん)でいくらも聞かれたことだが、今日でも戦中世代にふたことみこと言葉を交わせば、戦場に永かった者との区別は簡単につけられる。その特徴をあげると、第一は言い逃れが巧みで証拠をつきつけられても非を認めないこと。第二は利に対して動物的に敏感であること。第三は弱者に冷酷だということである。
 「掠奪(りゃくだつ)・強姦勝手次第(ごうかんかってしだい)」とは、南京戦当時の合言葉のようなものだが、その「しみつきしもの」が戦後世代に受けつがれなかったという保証はない。

                        坂井春枝
 戦ひにありし月日の長ければしみつきしものひそかにあらむ
      歌誌 ポトナム 昭和16(一九四一)年12月号」

今も、「しみついた」人たちが、政治家や文化人、企業家、官僚、マスコミにいるのではないか?

科学雑誌で、原爆の情報をえて詠んだ作品。下「」引用。

「作者はどうやら原爆に関する情報を知っていたようである。
 原爆といっても、国民の大部分は無関心なるがゆえに無知であったわけで、科学雑誌には日中全面戦争段階ですでに予告されていた。青少年向けの雑誌でも、たとえば『フレッシュマン』(英語通信社発行)は、太平洋戦争開始前に、科学記事として記されていた。それによると、TNT火薬の何万倍かの威力をもつその爆弾は、一発でニューヨークやロンドンといった大都市が潰滅するするとあり、いまやその列強はその開発に必死になっていて、いずれの国が先にそれを完成させるかで第二次大戦の結末がつけられるかと書かれていた。
 原爆などというものは広島・長崎に落ちて初めて知ったという者が大多数であるどうしようもな情況の中で、作者は女性でそれを警告した唯一の存在である。

                        今井邦子
科学戦きはまりゆかば勝ち負けのけじめも知らに殺しあはむか
          「鏡光」昭和18(一九四三)年7月刊」

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「奪い取る」を基本としている政策……。下「」引用。

「「陸奥」「長門」という戦艦は、公称三万三千八百トンの世界最大の戦艦であった。アメリカ・イギリスをはじめ、世界の国々が「脅威」を感じ、敵対的になったり疑惑の目を向けたのも当然であった。
 欧米に追いつき追い越せというこの国の近代化政策は軍事力の面で突出しながら、国民の生活水準は依然として前近代のままの状態に置かれていた。比喩は適当でないかもしれないが、三畳一間に住む者のメシを一度に減らしてもローンを払い切れない。
 国民からは絞れるだけ絞って、足りない部分を外国から奪い取る。
 「大日本帝国」は最初からそのつもりでいたのである。
 作者の眼には、皮肉より怒りが込められているが、貧しい国民は、その軍事力によるおこぼれを期待していたのかもしれない。

                   渡辺周一
列強の脅威となれる艦をもて日本の民は貧乏しをり
   歌誌 国民文学 昭和5(一九三○)3月号」

そこにはもちろん、いつものことが……。

そして、戦後も続き、今も続く……。


慰安婦は「満州事変」でも……。下「」引用。

「「従軍慰安婦」と称される女性たちが日中全面戦争以後の存在と思うのはたいへんな錯誤で、この作品からもわかるように、いわゆる「満州事変」当時に「兵糧を絶えざるごとく」戦線に送られていたのである。
 全面戦争期の「従軍慰安婦」については、戦後にいくつかの貴重な研究がなされて、その輪郭がほぼ浮び上がってきたが、「満州事変」や「シベリア出兵」時のそれは現在でもほとんどなにもわかってはいない。おそらく大部分は朝鮮の女性で、彼女たちを言葉巧みに欺いたり、あるいは強制的に連行したのだろう。
 「兵糧を絶たざるごとく」というのは、弾薬や食糧と同じようにという意味の皮肉な表現だが、兵士以外の日本人一般がそれを知らなかったわけではなかろう。「娼婦の群」を引き連れた軍隊は、「聖戦」というキレイごとのイメージとかけはなれた侵略軍のそれである。

                           田中義美
兵糧(ひょうろう)を絶たざるこどく戦線に娼婦の群は送られにけり
        歌誌 アララギ 昭和11(一九三六)年11月号」

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小学生たちは教師から洗脳された……。下「」引用。

「小学生たちが戦場の兵士に送ってよこす慰問文は、いずれも紋切り型のものばかりで、しかも手紙の一節には敵をみな殺しにして下さいという言葉が必ず書き込まれていた。
 日中戦争時代には、慰問文の書き方などというキワものめいた本が何種類も刊行されていたし、学校でも作文の時間に教師がそういうものを書かせた。子どもたちには中国兵がよほど悪者に思えたのだろうが、むろんそれは子どもたちの責任ではなく、「正義」とか「愛国」とか「膺懲(ようちょう)」などという言葉を四六時中叩き込む教育の結果である。さくしゃは、そういうけわしい殺伐とした時代に生まれ育った子どもたちの行く末を心配しているわけで、明日知れぬ兵士が逆に内地の子どもたちを憂うという、慰問文が慰問になっていないありさまが歌われている。戦場または兵士の現実と銃後の心情の矛盾は、戦争の本質によって噴出するといえる。

                             玉尾延忠
兵士等に殺せ殺せと書き寄越す学童等(こら)はけはしき時に生(お)ひ立つ
           歌誌 国民文学 昭和13(一九三八)年2月号」

しかし、愛情ある教師もいただろう……。
そして貧しい庶民……。下「」引用。

「当時の貧しさというのは現代と比較にならないほどで、大都会の下町の小学校へ行けば、弁当を持たない、いわゆる欠食児童は何人どころか何十人もいた。弁当はなくても朝晩は食べていたろうと思うのはとんでもない見当ちがいで、量だけを問題にしても、日に一食分ぐらいしか食べていないのである。しかも、欠食児童とそうでない子との差は紙一重で、一学級の過半数は貧しいとしえ言いようのない子どもたちによって占められていた。したがって、働き手の父親や兄が召集されれば、家族はたちまち貧窮のどん底に落ちてしまう。むろん、軍事扶助料という名の生活保護は支給されるが、それはいままでの貧しすぎる生計費のその半分にも満たない額でしかない。作者は小学校の教師だったから、そのことをよく知っていた。
 病気になったら死ぬ以外にない。それは医療費の問題以前で、栄養不良の子どもたちにほとんど抵抗力がないのである。

                           筏井嘉一
かつがつも軍事扶助料に家族(うから)生き子が病めば子のたちまち死にき
       「新風十人」昭和15(一九四○)年7月号刊行」

もくじ

「南京大虐殺」の時のこともわかりやすい。下「」引用。

「新聞報道でもラジオの戦況ニュースでも、「我軍堂々の入城、敵は遺棄死体数千を残して潰走」などと発表する。遺棄死体が多ければ多いほど大勝利ということで、感状が授与されたり、国民に賞賛されたりする。それゆえに、相手は兵士であろうが市民であろうと、数さえ多ければいいということになる。つまり、軍服を着ていなくても便衣隊(中国人のゲリラ)だといえば通るし、女でも女兵だと勝手にきめることもできる。「帝国軍隊」には「員数」という悪弊があったから、人間であろうと物品であろうと、すべて「員数」が合えばいい。老人でも子どもでも数さえ合えば問題はないのである。有名な南京事件はその延長線上に引き起こされたとみられる面もある。
 作者の、命を二つもっている者はいないという悲痛な叫びは、歌われた対象が「敵」であることで、その理性と勇気は日本人として第一級のものといえる。

                        土岐善麿
遺棄死体数百といひ数千といふいのちをふたつもちしものなし
          「六月」昭和15(一九四○)年6月刊」

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