磯野鱧男Blog [平和・読書日記・創作・etc.]

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D108.風でチラシが

2006年01月04日 | 【小説】 レインボー...
VIII.黄色の部屋(虹の世界)

D108.風でチラシが





 誰もかれも忙しそうだった。
 無理矢理でも、渡してやろうと思って、体の真ん前にチラシを突き出した。

 けれど、村人はさっとユリカをかわして、通りすぎていった。

 それは、遠くで見ていると、ドッチボールのとき、もう人数は後わずかで、追いつめられて、もう少しでボールにぶつかりそうだけれど、よけた人に似ていた。

 カールは、ユリカが一所懸命になっているのに、上手くいかないので、
「今日は一年で一度のお祭り、おめかしをしたり、おいしいごちそうを作ったり、忙しいんだろうな」
 と励ましの言葉を送った。

 ユリカは、
「そうみたいね」
 と口びるをかんだ。

「カール、わたし、踊るからね、このチラシの見張りしていてね」
 誰かの家の柵の前にカールとチラシをおいた。

 簡単な踊りと言っても、みんなの前でするのは大変な勇気が必要だとユリカは思った。カールの大きな声がきこえた。

「おー、おー!」
 カールは、チラシの上に乗っていたが、チラシは魔法の絨毯(じゅうたん)のように空中に浮いていた。

「たいへーん」
 ユリカは言いながらカールの所へ駆け寄った。

 ユリカが右手をのばしてたおれこんだ時、カールを乗せたチラシはチラシ二枚分、ほかのチラシから浮いていた。

 ユリカは、カールの乗ったチラシを右手でおさえて、ほっとした。その時、風がふいてきて、他のチラシの束が風でいきよいよく飛んで行こうとしていた。

 ユリカは、右手でカールの乗ったチラシをおさえながら、左手で他のチラシを押さえた。

 が、ばらばらになっていたチラシは、左手で押さえただけでは間にあわなくって、ユリカは、左足で、右足でチラシの山を押さえつけた。

 そんな動作に合わせて鐘がなっていた。どこに鐘があるのかユリカやカールにはわからなかった。ゲームの時に得点をあげたような音だった。

 ユリカはこんなゲームがあったような気がするなと思っていると、ぱちぱちと拍手の音がきこえた。ユリカのまわりは人だかりができていた。

 杖をもったストライプのスリーピースを着た白髪の紳士が、
「みごとなパフォーマンスだ!」
 と手を叩いていた。

「ベスト、ファイブに入りました」
 と声が聞こえた。何のことかしらと、ユリカは思ったけれど、そんなことは気にしている暇はなかった。

 ユリカは、そうか、こんなピエロの恰好でこんなことをしていたら、大道芸と勘違いしているんだわと思った。

 カールは、ここはチャンスだと思い、ユリカの帽子の上にのった。
「今晩、大サーカスがあります。皆さん、ぜひお誘いあわせの上、おいでください」
 できるだけ大きな声で説明した。

「ほほー! サーカスか」
 おじいさんは、口髭が大きく動いていた。

「そうです。大ダコのセールもはりきって皆様をお待ちしております」
 ユリカは精一杯、大きな声ではっきりと、みんなの前で話した。

 こんな経験、ユリカにとっては、初めてのことだった。恥ずかしくって仕方がないと、いつもなら思ったことだろうに、ピエロの恰好をしているユリカは、もういつものユリカではなかった。

 どうにかして、サーカスがあるということを、皆に伝えたかったのだ。

「チラシもお受け取りください」
 カールは、これは宣伝といっても、チラシを配る仕事だから、チラシを配ってこそ価値があると思ったのだ。

「どこから、声が出ているのでしよう」
 やせた女の人が不思議そうな顔をしていた。

「そりゃ、サーカスの人だもんな」
 その横の男の人が、腕組みをして感心していた。

「それより、お祭りの用意をしないとね」
 女の人は忙しそうであった。

「けど、用意が終わったら、サーカスを見に行くよ」
「私も行くわよ」
「ありがとうございます」

 ユリカは感謝した。感謝したけれど、誰もチラシを受け取ってくれなかった。
 白髪の紳士は、
「みなさん、出し物はもうお終いみたいですな」
 と言って、ステッキをくるくる回して、去っていった。




閑話休題

風でチラシが飛んでゆく。

ぼくは新聞奨学生をしながら、

大学に通っていました。

そのとき、風で自転車が倒れて、

みごとに飛んでいったことがありました。

それを見ていたご婦人が、

「まるでチャップリンの映画みたい」

と笑っておらました。

こちらは、あせりまくりました。

でも、多くの人が助けてくださいました。

新聞の二十五部ぐらい足らなくって、

近隣の新聞販売店などに電話してもらって、

余っている新聞をかきあつめてもらいました。

でも、今となっては、自分でも笑えます。(^^)







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2 コメント

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当時は大変でしたでしょうが・・・ (みっちゃん)
2006-01-04 22:59:55
過ぎてみれば・・いい思い出でしょうか??

そういえば、一時、従兄弟も「漫画家になるっ!」と新聞店で住み込みしていたような・・



それが今では立派な3人の子持ち・・・仕事は福祉関係です。 笑



サーカスと聞くと、どうしても物悲しいイメージが・・・

でも、サーカスって言葉自体も今では遠い昔なのかしら・・・(^^;)





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今もサーカスはあるみたいです(^^) (鱧男)
2006-01-04 23:17:46
>過ぎてみれば・・いい思い出でしょうか??

いい思い出というより、客観的になれるので、

笑えますね。でも、そういう状況の人がいても、

笑えないと思えますが……。

チャップリンも笑えないことでも、

からりと笑わせて悩ませない。

これは喜劇としていいものだと思います。

悩んでも仕方がないこともあると思います。



サーカスあるのかなあと話していたら、

年配の女性が

「サルティンバンコもサーカスみたいなものよ」

と、教えてもらいました。



でも、動物はいないようですね。

サーカスと呼んでいいかは僕にはわかりません……。

http://www.asahi-net.or.jp/~BC5Y-FJWR/HMG/report/20001208.html



僕の子供時代はサーカスは楽しみでしたね。

木下サーカスがよくやってきました。

今でもあるようですよ。

http://www.kinoshita-circus.co.jp/htmls/toptop.htm



エレファントマンも見世物小屋に売られるのですが、

イメージは暗くても、一番幸せだった時代を、

彼は見世物小屋時代と話していたと思いますよ。

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