磯野鱧男Blog [平和・読書日記・創作・etc.]

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51.タコ焼き計画

2005年08月02日 | 【作成中】小説・メリー!地蔵盆



六、メリー! 地蔵盆

51.タコ焼き計画





 大文字の送り火が過ぎれば、子どもたちの興味は地蔵盆にうつる。

 子どもたちのお祭りである地蔵盆は、毎年8月23、4日に行われるか、または前後の土・日曜日に行なわれる町内も多い。

 これが、終わると夏休みの宿題との格闘がはじまる。それまでの楽しみなのである。


 お菓子係の雄二は何か、おもろいことはないかと思った。みんなを楽しませる何かがあったらいいと思った。

 そして雄二は思い起こす。そうだ。三年になってタコ焼きを焼けるようになった。

 雄二の家にタコ焼きの道具があった。小さなもので、10個くらいしか焼けないけど、商売にするのじゃないから、それでもよかった。

 タコ焼きと呼んではいるが、タコは高いので魚肉ソーセージを細かく切ってつくっていた。それは、友達の家でも同じだった。

 雄二は今年の地蔵盆のお菓子はタコ焼きにしようと思った。

 ところが幸江は、
「そらー、家族やったら、それでいいけど、子どもの数は10人くらいおるんやで。それだけのタコ焼きをつくるのは、たいへんや」
 と、この計画は無理だと話した。

 池山は
「そうや、小さな子は、待っているのは辛いものや、ごちゃごちゃごねられたら、たまらんで。それにや、お金だしたらタコ焼きくらい買えるやないか」
 と批判した。 

 それで、雄二はタコ焼きをするのはあきらめた。でも、何か面白い、皆を楽しませるものをしたいと思った。

「ところでジョンさん。大文字さんの歴史はきいたけど、地蔵盆はどうなっているの」
 幸江はジョンさんにたずねた。

「お地蔵様は外国生まれです。でも、地蔵盆は日本で、この京都で生まれただろうと書かれてあります」
 しかし、正確なところは誰もわからない。

「お地蔵さんはジョンさんといっしょで外国人かあ」
 池山は両手をくんで頭の上においていた。

「七福神の神様も、ほとんどが外国の神様や。なあ、幸江」

「そうや、曽我のおばあさんがいうてたわ」

七福神のうちで日本の神様は恵比寿(えびす)さまだけや」

「あんまし、外国人とか考えなくってええのんやなあー。日本の伝統で考えると」

「八百万(やおよろず)の神様やからなあー」

 ジョンさんは屈託のない子どもたちを見ていて楽しくって笑っていた。

「いつごろはじまったの」
「地蔵盆は江戸時代に生まれたといいます。この京都、そして大阪も江戸と同じように幕府の直轄領だったので、お侍さんがいばることはできませんでした。町衆の文化が生きづいているのです。その町衆の文化から地蔵盆は生まれたと私は思っています」

「幕府の直轄地だとなぜ侍はいばらないの」
「直轄地ということは、町人たちは幕府の財産だからです」

「ほかは大名のものだよね」
「そうです。幕府の財産だから、好き勝手にはできなかったし、それぞれ町人が力をもっていました。そして町衆の文化をつくりあげていったのです」

「地蔵盆について教えてえーなあー」
 幸江はジョンさんにもとめた。

「地蔵盆には大きくわけて宗教的なものと、このアパートでおこなわれているような子ども会行事の二つがあります」

「子ども会行事のが知りたいなあ」

 宗教の地蔵盆は愛宕(あたご)信仰とともに発展していったという文献がある。

 ジョンさんはにっこり笑った。
「六地蔵詣(まい)りという行事が江戸時代にはやっていたそうです。六地蔵詣りにいけない子どもたちが、大人たちのまねをしたそうです。ごっこ遊びから地蔵盆ははじまったという説があります」

「遊びからはじまったってことか。ほれで、おもろいんやねえ」

「ええ、そうでしょうね。子どもたちの遊びからはじまったので、楽しいのでしょう。最初は石に絵をかいて、お地蔵様にして遊んでいたそうです。石を白く塗り、目や口をかいていたそうです」

「ふーん、それはおもしろいなあー。ごっこ遊びからはじまったんかあー」
「みんなで楽しんだのやろうねえ」
「楽しいから、続いたんだよ」

「京都の町々にはこのアパートの子ども会のように大小の提灯が飾られていますね。町中がお盆です」

 自然発生的に生まれたきただろう地蔵盆は、その地区地区での人たちが考えて生まれてきたようでもある。だから、地蔵盆と盆をわけて考える地区もあれば、地蔵盆も盆のひとつと考える地区もあるのであろう。

 それは町衆の文化が息づいている京都らしいともいえる。官製ではないのである。権力者が『痴呆症』ということばを『認知症』にかえるといえば、すぐに変更されるようなシステムではないのである。

 提灯も子どもたちがかいた行灯もあれば、市販の提灯もある。自由な遊びにできる部分が、提灯ひとつをとってもあるのだ。

 京都の街のあっちこっちに小さな祠(ほこら)にまつられた名もない地蔵様が目にとまる。どうしてこんなにお地蔵様があるのだろうと思うくらい、お地蔵様がある。

 お地蔵様をおまつりする家には近所中の子どもがみんな集う。吉田山を少しおりたところでは、お地蔵様の前にテントははられて、その前で子どもたちは好き好きにもう遊んでいる。

 子ども会行事としての地蔵盆は、それぞれの地区でそれぞれ楽しみとして、行事がおこなわれるのである。宗教儀式のようにきちんと決められたものではないという説は納得できるものではある。




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