六、メリー!地蔵盆
52.提灯係ジョンさん
幸江は人形をつくった。
みんなの前で動かして幸江は満面に笑みを浮かべていた。
「ジョンさんに似とるな」
池山が笑った。
「ほんまやなー」
雄二も笑ってしまった。
「提灯係の私は鼻から提灯をだして寝てられません」
幸江は人形を動かしていた。
「笑うやんか~」
池山はお腹をおさえて笑っている。雄二もお腹をおさえて笑った。
共同炊事場の上のベランダは、使用禁止になっている。それは地蔵盆の会場となるからだ。今は準備をしている。新館の人たちが多くはベランダを使用するのだが、新館の窓にも物を干せるようにはなっている。
夏はベランダを使う必要もない。洗濯物はよく乾くのである。どうしても使用したい人は、犬のジョンの小屋の北側にある管理人さんの物干し、曽我のおばあさんが使っている本館の離れの東側の物干しなどを使ってもらうことになっている。
ジョンさんは材料や道具を用意していた。ジョンさんはノートを見ながら、ぶつぶつと独り言をいっている。
そして、雄二らにむかって
「これで準備いいですか」
とジョンさんはきいてきた。
「うん。ジョンさんやるなー」
池山が嬉しそうだ。
「オウ、これだけじゃたりません。小さい子どもたち来ます。冷やし飴とお菓子。子どもたち喜びます。それを見て、わたし喜びます」
ジョンさんは、根っからの子ども好きみたいだ。
小さな子どもたちが集まってくる。ジョンさんはそわそわしている。恭子が吉坊を連れてやって来た。吉坊は池山のところへ走ってきた。
「ええか、あの人、鬼やあらへん」
池山は吉坊にいってきかせた。
「わかっとるよ」
と、吉坊は怒っている。
「そうです。わたし、鬼じゃありません。ただの人間です」
声色を使った幸江は人形を動かし吉坊に見せていた。
「ジョンさんに似とる」
恭子もうれしそうだ。
「わかった? これジョンさんがモデルなのよ」
幸江はさらに、うれしそうである。
ジョンさんは提灯の枠を組み立てている。雄二らがジョンさんを見ていると、ジョンさんは額の汗をタオルでふいて
「わたし、提灯だいすきよ。子ども時代、ハロウィンのお祭りでカボチャの提灯つくりました」
と話し、これ以上は笑えないだろうという表情をした。
「ほんなら、兄ちゃんは、地蔵盆の買い物に行ってくるわな」
池山と雄二らはアパートの下に降りて行った。管理人さんちのパブリカという自動車に乗って、問屋街にお菓子と福引の景品を買いに行った。あれこれと買っているうちに、思っていたより時間がかかった。それは幸江が何か探し物をしていたからである。
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