磯野鱧男Blog [平和・読書日記・創作・etc.]

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天国の朝露

2005年11月14日 | 短編など
天国の朝露

今から10年ほど前の話であります。
南の国のここは、楽園とはうって変わって戦争が続きました。
大きな国の二つが後ろだてになって、この国に戦争を起こしたのです。

人々は自分は生きるためにと、
同じ国の昨日までは共に何ら変わりなく暮らしていた人たちが、
銃口をむけあいました。

人々はそれでもやはり自分が生きるために、
他人のことなど考えもしないで殺し合いました。

食糧も。田んぼは荒らされ、豊かな実りは期待できません。

しかし、人々はそれでさえも、仕方がないと思いました。
自分一人の力で何ができるのだ。

人は皆もっといい手はないものだろうかということも、
だんだん考えなくなり、人々はただ口にするのは、
生き残る手段のほかにありませんでした。

みんなが戦いをやめれば戦争なんて終わるさというのは
甘い考えといわれていましたし、鼻から考えなくなってしまい、
そんな当たり前のことが頭のなかから消え去りました。

そして、人類が戦争をやめたことなどないという
嘘の考えに染まっていました。

小さな家々は魚を焼くよりも簡単に線香花火のように
兵器で燃やされていきました。

人々は手に手に、
必要な家財道具をできる限り持ち逃げまどいました。

みんなは、そして思いました。
これは戦争なんだ。戦争なんだと。
しかし、誰も、こんなことが起った理由が分りませんでした。

平和に暮らしている時、あんな事をあの人が、
と思うことでも戦争になれば大きく変わりました。
そして長い戦争は続きました。

人々はもう生活に困り、
明日食べる物もありませんでした。

多くの人たちは伝染病で死んでいきました。
でも本当はそれさえも伝染病で死んだのではなく戦争で死んだのです。
戦争がなければ、こんな伝染病ははやらなかったのです。

栄養も悪く、飢え、水はひどく、ハエも増え。
医療で働く人たちも銃を握っていました。
伝染病がはやり多くの人がばだばたと倒れ亡くなっていきました。

戦争はしかし続きました。
軍隊の人たちは、他の人よりはよい環境にあると言っても、
さしつかえないほど、軍人はいいものを食べていました。
それは戦争に勝つためだで仕方がないと彼らはそう説明していました。

小さな村ができました。木々を集めて小さな雨よけだけの家ができました。

そこを人は難民村と言いました。
しばらくはそこで、人々は飢えと戦いながらも暮らしました。

しかし、また軍隊が来て場所を移さなければなりませんでした。
その時にも、無理やり移動させられて、病人が死んでいきました。

移れば移るほど、難民村は悪い所に家をたてなければなりませんでした。

人々はやせ細り、下腹が子供たちには異様に膨れて出していました。


2.

「どうだ、メリッサは?」
と、ほろを取って、なかをのぞきました。

「ダメだ」
老人の声が物悲しく聞こえました。

ギラギラと輝いた夏の光は、夕日とうってかわり、
真っ赤に地を染め抜きました。

「うー」
と、そのメリサという少女は痛みに引きつりました。

しかし、その声はかすれ、弱々しく、蚊のなくようでした。
その横で、その少女の兄は少女にむらがるハエを払いのけていました。

「うー、水」
と、ため息なのか。
言葉なのか、わからないくらいに少女は話しました。

「ミズ」
と、少女の兄タイは大きな真っ黒な瞳を輝かせました。

「ダメだ」
と老人は答えました。
「水はない」
干ばつでした。自然までもが、
彼らを死に追いやろうとしました。
戦争はこの国を廃虚にかえました。


3.

天使が天国でその様子を見ていました。
どうにかしてやりたい。したいと天使は思いました。

少年は妹に水を飲ませてやりたいと道を歩きました。
川はみごとにひえ上がっていました。

少年も食事も水も不自由な生活をしていました。
少年は倒れこみました。

少年の夢に天使があらわれました。
「まっすぐに行きなさい」
と、教えてくれました。

でも、それは幻でしかありませんでした。
ふらふらと歩きました。

無理をした少年も病の妹もなくなりました。


4.

天国には天使がいました。
天使は二人に水を飲ませたくって、
二人を抱えて天国に登っていきました。

天使は話しました。
「天国の朝露をあつめたような、すばらしい人生でしたね」
二人は驚きました。
そんなことが本当でしょうか。

二人は思いました。
「本当に天国はあるんですね。
牧師さまが話してくだされたように……」

天使は悲しそうな顔をしました。
「牧師さまは、あなたたちに天国の話しはしました。
しかし、彼は戦争を奨励して、ここには来られません」

「じゃ、どこに……」
「考えなくともいいのです。
それは全て神様がよくしてくださるのですから……」
「魂をいやすことが大切ですよ」

天使は聖書に書かれてあることさえ、
守らなかった牧師のために祈りました。

歴史上、人類は戦争を続けてきた。
戦争は終わらないといった牧師。
しかし歴史上でも、
終わらなかった戦争もまたないのです。



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2 コメント

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どうも(*- -)(*_ _)ペコリ (ぶどう)
2005-11-15 23:40:06
戦争で犠牲になるのはいつも弱い人達



戦争の意味とか



正義とか



悪 とか



正しいのか間違っているのか



でも常に犠牲になる人が居る



その苦しみや痛みを忘れてはいけない
返信する
ぼくもそう思います。 (鱧男)
2005-11-15 23:52:57
ぼくの高校のときの作品なんですが、

カンボジアか何かのドキュメントみたんでしょうね。



ぼくもぶどうさんがかかれたとおりだと思います。
返信する

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