雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

信州紀行~古安曽

2008-10-29 | 旅行
 朝、ホテルをチェックアウトする際に、フロントマンに「上高地へ行かれるんですか?」とにこやかに訊ねられ、「いや、上田の方へ」と真逆の地域を言い放ち、フロントマンを戸惑わせた。
 どうやらこんな朝早くから松本を発つ旅行客は「上高地に向かう」のが定石のようだ。

 なので、何故私たちが上田方面の『古安曽』を目指すに至ったのかを、まずはお話しておこう。
 信州といえば「そば」、「そば」といえば・・・の件は今回の紀行文で多用してきたが、もうひとつ信州といえば!いえば?そう、『リンゴ』である。この時期、信州に足を踏み入れると、いたるところで紅々とした実をたずさえたリンゴの木にお目にかかる。そう、この時期、信州はリンゴ狩り真っ最中なのである。

 妻と今回の旅の計画を練っていて、私はとにかく「新そばだ。戸隠行って、新そばを喰う」を第一目的に挙げ、その次に「以前ゆっくり見られなかった松本城を見たい」を提案し、一日目の予定は概ねそんなところだろう、とした。
 それじゃあ二日目はどうする?妻に「どこか行きたいところはないか?」と訊ねると「リンゴ。無農薬のリンゴをその場で買って、食べたい」と言う。
 プチロハスな妻は『無農薬』だとか『有機栽培』『無添加』などの言語にことのほかハマっていて、添加物まみれのジャンクな食い物を嫌悪しているとてもめんどくさいヤツなのである。なので、「でも、ジャンクフードは美味いぜ」と言い切る私とは言い争いが絶えない・・・。いや、まぁ、それはとりあえず置いといて、せっかくの旅行計画、ここでまた仲違いしてもどうしようもないので、オトナな私は気前良く「ラジャー」と応対し、無農薬がウリの信州リンゴ農園を調べた。
 
 その結果、松本からわりと近いと思われる上田市古安曽にある『Sリンゴ農園』というところを見つけた。しかしそこはどうもリンゴ狩りとかはやっていない様子で、さらには直売もしていない様子。どうもネット販売だけのように見受けられるのだが、そこはそれ、大らかで臨機応変な性格『O型』の私である、「行けばなんとかなるだろ」ということで、その古安曽『Sリンゴ農園』に白羽の矢を立てたのであった。

 そんなワケで戸惑うフロントマンに「上田にはどうやって行けばいいんですかね」と訊ね、「ここからだと有料道路の三才山トンネルから行くのが一番近いですよ。一時間半か二時間くらいで着きますよ」と教えてもらった。
 
 そして朝の松本城、旧開智学校とハンパない冷え込みの中を見て歩きまわり、八時頃に松本を後にし、ご教授通り三才山トンネルへと向かった。

 朝の道路はとても空いていてスイスイと流れるように車を走らせられる。その有料道路は山々に囲まれた緩やかな峠道。周りには緑から黄色、黄色からうっすらと紅に変わる多様な葉を繁らせた木々が朝日を浴びて山々を彩っている。紅葉に染めつくされる前のその景観に、むしろ今のほうがカオスな自然の姿を感じられて良いようにも思えた。

 程なくしてトンネルに入り、そして抜け、地図と時折あらわれる道路標示に従っていくと、気付けば『古安曽』に入っていた。

 おおっ!ここだ、ここ。と、着いたのはいいのだが実はここからが問題で、目的の『Sリンゴ農園』がいったいどの辺りなのか、旅行者の私たちには見当もつかない。
 一応、その農園の住所は書き写してきたが、はてさてふふーん?

 などとバカみたいに探し回ってもしょうがないので、ちょうど見つけた交番で尋ねることにした。ちなみにここ、古安曽に入ってから、まだ住人はひとりも目にしていない。まわりにはとにかく、リンゴの木が乱立している。そんな、町(村?)だ。

 交番に入ると若い巡査が愛想よく対応してくれた。

「すいません、この『Sリンゴ農園』に行きたいんですけど・・・」
 おずおずと住所を書き写した紙を渡す私。

「えぇーっと・・・ちょっと待ってくださいねー」
 近隣地図とその住所を見比べる巡査。

「・・・・・・・・」
 どこがどこやら解からないくせに地図を眺めるバカ夫婦。

「あぁ、この住所だとこの辺なんですが・・・この『Sリンゴ農園』ってところは、出てないですねー。普通のお宅の畑なのかなぁ?」
 クルクルとその辺りを指でなぞる巡査。

 見るとその一帯、『S』姓の家がやたらはびこっている。どうも、その中のどれからしいのだが・・・・と、目を凝らしていた私はおもむろに、「あっ!これじゃないっすかね?」と指差した。そこには『S*** APPLE FARM』と銘うってある。

「ここですここ。きっとここでしょう」
 と、巡査も妻もたじろぐ勢いで独断的に確信の言を発した私は意気込んでそこまでの道すじを教えてもらい、巡査に礼を述べ交番を後にした。

 よし!目的地はもうすぐ、そこだ。いざ行かん!『S*** APPLE FARM』へ!

 それにしても、ネットだと『Sりんご農園』だったのに、地図では英語かよ!わかりづらいぢゃねーかよ、なぁ!

 などと、なんだかんだで笑顔のツッコミを入れつつ、私たちは美味しいリンゴを求めに向かったのであった。


 ・・・つづく・・・

 

  
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 暗色コメディ/連城 三紀彦 | トップ | ぜつぼう/本谷 有希子 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

旅行」カテゴリの最新記事