2020@TOKYO

音楽、文学、映画、演劇、絵画、写真…、さまざまなアートシーンを駆けめぐるブログ。

■時よ止まれ、君は美しい

2007-07-26 | ■芸術(音楽、美術、映画、演劇)
  
  サッカーのアジア・カップ、日本とサウジアラビアの試合が終わった。結果は残念だが、選手たちはよく戦ったと思う。とてつもない湿度のなか、全速力で疾走する選手たちは、日本もサウジアラビアも共に美しかった。

  ムービーであれ、スチールであれ、スポーツの映像は演出のない無垢な美しさを表すことが多い。とりわけそれを感じたのは、1973年ミュンヘン・オリンピックの記録映画、「時よ止まれ、君は美しい」だ。世界的な監督たちが、それぞれ一つのテーマでオリンピックを追った映像作品である。

  ご存知のとおり、このときのオリンピックでは、イスラエル選手たちを人質にとったパレスチナ・ゲリラとドイツの警察が銃撃戦を行い、人質全員が亡くなるという痛ましい事件が起きた。スティーブン・スピルバーグの映画「ミュンヘン」の主題である。

  「時よ止まれ、君は美しい」に登場した監督で記憶にあるのは、ミロシュ・フォアマン、アーサー・ペン、ジョン・シュレジンジャー、クロード・ルルーシュなどだが、とりわけ、ルルーシュの映像は忘れられない。彼の撮影テーマは「敗者」だった。勝者を寿ぎ、喜びに溢れる表情を追うよりも、うな垂れ、肩を落として去る敗者を描くことは難しい。

  映画を見てから30年以上経った今でも、ルルーシュの映像は覚えている。競技はたしか柔道だったと思う。敗者の表情は超望遠レンズでとらえられ、粒子の粗い映像として提示される。敗者と撮影者の間に横たわる圧倒的な距離。敗れた者に近づくことができず、言葉をかけることもできず、ただ遠くから見つめることしかできなかったルルーシュ。敗れ去る者に向けたルルーシュの視線は、あまりにも優しい。

  「時よ止まれ、君は美しい」は、ゲーテの「ファウスト」に出てくる台詞である。ファウストがこの言葉を発したときに、彼の魂は悪魔メフィストフェレスに奪われ命を落とすというもの。ゲーテは、脱稿した「ファウスト」に八重の封印をしたと伝えられている。そうでもしないと、どんどん新しく筆が入り、いつまでも終結しないと考えたらしい。なんという創作欲! 大ゲーテに比肩すべくもない凡人の私だが、それでも過去のブログを読み返し、気に入らない部分があると、こっそり筆を入れてしまう。現在も過去も、じつは私のブログ、少しづつ進化しているのです。

  (写真は、スピルバーグ監督の「ミュンヘン」)

  
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