2020@TOKYO

音楽、文学、映画、演劇、絵画、写真…、さまざまなアートシーンを駆けめぐるブログ。

■南に帰る~ビクトル・ハラ~ガトー・バルビエリ (アンコール掲載)

2010-07-28 | ■芸術(音楽、美術、映画、演劇)
  
  仕事の忙しさにうんざりしている風な私を見かねて、友人が一枚のCDを推薦してくれた。「南に帰る つのだたかし(歌とギター)」というもので、リュート奏者のつのだたかし初の弾き語りということらしい。友人は“おじさんの鼻歌”と書いていたが、演奏者自身が素直に、『これは「鼻歌」の録音である』とライナーノートに書いている。ところが、その「鼻歌」がじつにいい。しばらくの間、思わず聞きほれてしまった。

  タイトル曲はピアソラ (Astor Piazzolla) の作、つづく「アルフォンシーナと海」という曲は、メルセデス・ソーサ (Mercedes Sosa) の歌で聞くのが良いとライナーに書いてある。ソーサ、じつに久しぶりに聞く名前だ。メジャー・リーグのサミー・ソーサも有名だが、メルセデス・ソーサはアルゼンチンの大歌手なのである。それで思い出すのが、1975年ソーサ初来日のとき、アタウアルパ・ユパンキ (Atahualpa Yupanqui) の名曲「トゥクマンの月」の名唱は心に深く残っている。私はこの歌をユパンキやソーサとは別の演奏で以前から知っていた。それはサックス奏者のガトー・バルビエリ (Gato Barbieri) のアルバム「アンダー・ファイアー」に収録されており、学生時代、私はこの演奏を憑かれたように聞きまくっていたものだ。

  ガトーの主要アルバムが次々にCD化される中、「アンダー・ファイアー」は長いことCDとしてリリースされず、レコードプレイヤーの廃棄と共に、「トゥクマンの月」も私の中で長いこと封印されてしまった(後に、何故か「アンダー・ファイアー」は、他のCDとセットになってガトー・バルビエリBOXのような形でリリースされた。たしか14,000円くらいしたので、買わず仕舞い)。

  「南に帰る」に帰ろう。3曲目は飛ばして4曲目、ここで私は戦慄を覚えたものだ。長いこと、すっかり忘れていた名前、そこには作曲者の名前として、ビクトル・ハラ (Victor Jara) と記されていた。「サンティアゴに雨が降る」という映画を覚えている人がいたら嬉しいのだが、1973年、チリで軍事クーデターが発生したときの状況を映し出した作品だ。ここで描かれているように、アジエンデ大統領 (Salvador Allende Gossens) は殺され、民主的な手続きを経て誕生した社会主義政権が軍人によって倒されてしまったのだ。以下は「南に帰る」のライナー・ノートにつのだたかしさんが書いていることの引用。⇒この社会主義政権を積極的に支持していたビクトル・ハラも逮捕され、チリ・スタジアムに連行された。彼は他の逮捕者を励ますためギターを鳴らし、連合の歌を歌い始めたという。軍人たちはそのギターを取り上げる。それでも彼らは手拍子で歌い続ける。軍人たちは怒り狂ってついにはビクトルの手を砕き、そして無数の銃弾を彼に浴びせたという。

  このクーデターの最中、海外で演奏旅行を行っていたチリのグループ、キラパジュンは母国に帰ることができなくなってしまう。しかし、それがかえって世界中の人々に当時のチリ軍事政権の暴虐を知らせる結果となった。私自身も彼らが来日したときに、神奈川県民ホールでの演奏会に足を運び、多くの聴衆と “El Pueblo Unido Jamassera Vencido =アジエンデと共に”を合唱し、心の中で彼らの活動を応援したのである。キラパジュンとビクトル・ハラの共演はCDで聞くことができる。

  「南に帰る」を聞きながら、いろいろな事を思い出してしまったので、ついでにiTunesで調べてみると、フランセスカ・ソルヴィル (Francesca Solleville) というシャンソン歌手の歌で、Chanson pour Victor Jara というのが見つかった。すかさずipodに収めたものの、何を歌っているのかはよくわからないまま。驚いたことに、ガトー・バルビエリの「アンダー・ファイアー」もiTunesに提供されていて、私はおよそ30年ぶりに彼の「トゥクマンの月=Yo Le Canto a La Luna」を聞くことができた。

  あまりに長くなってしまったので、フランセスカ・ソルヴィルとシャンソン・リテレールの話は次の機会にします。

  (写真はビクトール・ハラ) 初出:2007年7月1日
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■夏の歌

2010-07-26 | ■芸術(音楽、美術、映画、演劇)
昨日は虫の声に誘われて、ついつい秋の話を書いてしまったが、今日はまた何という暑さ! 「九月の雨」「枯葉」などという詩情に思いを寄せている余裕はなくなった。

  夏休みに入る前のコラムで、中田喜直の「夏の思い出」について書いた。今日は、イギリスの作曲家の話。

  西洋音楽の世界では、ドイツ、オーストリア、イタリア、フランスなどの国が有名な作曲家を輩出しているが、イギリス生まれの作曲家となると、なかなか名前が浮かんでこないだろう。とりあえずは「青少年のための管弦楽入門」のブリテン、「威風堂々」で有名なエルガーあたりだろうか。他にはティペット、ウォルトンなどという作曲家もいるが、日本で有名とは言いがたい。もっとも、イギリスには、ポール・マッカートニーとジョン・レノンという稀代の旋律作家(メロディー・メーカー)がいるのも事実。モーツァルトやベートーベンに比肩できる大作曲家たちである。

  フレデリック・ディーリアスという作曲家をご存知だろうか? 1862年イギリスはヨークシャー州、ブラッドフォードの生まれ。裕福な羊毛業者の子でありながら、父に反発して音楽の道を志し、ドイツ・ライプツィヒに渡る。1897年、パリで女流画家と結婚したのち、近郊の村、グレ=シュール=ロワンに移り、広い庭園つきの家で隠遁生活を送った。

  この人の作品には何故か夏をテーマにしたものが多い。狂詩曲「夏の庭園にて」、「川の上の夏の夜」「夏の歌」…。これらの音楽は、それぞれが一幅の絵画を思わせる色彩感にとんだ仕上がりで、とりわけ同じイギリスの画家、ターナーの作品を連想させる。

  私はとくに「夏の歌」が好きだ。ディーリアスの作品の多くは、グレ=シュール=ロワンで書かれている。グレ=シュール=ロワンとはロワン河畔のグレという意味。行ったことも見たこともない場所ながら、その辺りの大気の香りまでがはっきりと感じとれるような楽曲である。

  おそらく、それほどに音楽が自然に包まれた、たおやかな時の流れに寄り添って書かれているのだろう。やがて、行ったことも見たこともないロワン河畔への連想は、彼の国イギリスの、われわれがよく知る田園風景へと変化していく。

  「夏の歌」を書いたころ、ディーリアスはすでに失明と四肢の麻痺に襲われていた。絶望に沈む作曲家の目となり手となって作品を完成させたのは、イギリスの音楽青年エリック・フェンビーだった。

  フェンビーに対して、ディーリアスは「夏の歌」が描く映像の世界を次のように説明したのだという。

  「われわれは、ヒースの生い茂る断崖の上に腰を下ろして、海を遠望するとしよう。高弦が持続している和音は、青く澄んだ空とその情景を暗示している…曲が活気を帯びてくると、君はバイオリン群に現れる、あの音型を思い出すだろう。わたしは、波のおだやかな起伏を表すため、その音型を導入しておいたのだから。フルートが、滑るように海の上を飛んでゆくカモメを暗示する…冒頭のテーマは、曲の最後にも現れて、やがて静謐のうちに終結に向かってゆく」(三浦淳史さん訳=一部改ざん)

  ディーリアスには他に、「春初めてのカッコウを聞いて」という美しい題名をもつ曲もある。機会があったら、ぜひディーリアスに親しんでみてください。

  (写真はロワン河畔) 初出・2007年8月21日

  

  
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■ブログ・アンコール

2010-07-26 | ■芸術(音楽、美術、映画、演劇)
  本日より、過去に書いたブログの中から季節にちなみつつ、気に入ったものをリバイバル掲載します。第一回は「夏の歌」。イギリスの作曲家、フレデリック・ディーリアスの話です。初出は2007年8月21日です。
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■LUMIX DMC LC-1 が写したLONDON 2010-8

2010-07-07 | ■LONDON 2010
(C)Ryo

  本日でロンドンの写真は一段落ということになります。

  ナショナル・ギャラリーの外観です。数々の名画が展示されていますが、建物そのものがアートという感じです。
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■LUMIX DMC LC-1 が写したLONDON 2010-7

2010-07-06 | ■LONDON 2010
(C)Ryo

  ホテルの部屋から写したロンドンの家並み。よく見ると、チムチムチェリーでおなじみの煙突が見えます。素晴らしい晴天!
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■LUMIX DMC LC-1 が写したLONDON 2010-6

2010-07-05 | ■LONDON 2010
(Ryo)

  セント・マーチン・インザ・フィールドの内観です。音響効果に優れていて、チェンバロの繊細なディティールも明瞭に伝わってきます。
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■LUMIX DMC LC-1 が写したLONDON 2010-5

2010-07-02 | ■LONDON 2010
(C)Ryo

  セント・マーチン・イン・ザ・フィールドのステージ風景。ここは教会の内部ですから、ステージと言ってももちろん仮設です。

  
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■LUMIX DMC LC-1 が写したLONDON 2010-4

2010-07-01 | ■LONDON 2010
(C)Ryo

  セント・マーチン・イン・ザ・フィールドでバッハの「フーガの技法」を聴きました。

  この教会の地下はカフェになっていて、多くのロンドン市民がお茶を飲んだり軽食をつまんだりして話に興じています。

  こういう雰囲気が日本にもあるといいなといつも思っています。
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