NHKのスーパー・ピアノ・レッスンで素晴らしいレクチャーを披露してくれたマリオ・ジョアン・ピリスのコンサートが、すみだトリフォニーで行われました(4月22日)。
ショパンの3番のピアノ・ソナタを軸に、晩年に書かれた、いわゆる傑作の森と称される時代の作品が並びました。グラズノフがチェロとピアノの演奏版に編曲したエチュードの19番、マズルカ ト短調 作品67-2、イ短調 作品67-4、へ短調 作品68-4、そしてチェロとピアノのためのソナタと、フランツ・リストの悲しみのゴンドラ。
ショパン晩年の作品が並んでいるばかりでなく、リストがワグナーの死を予感して書いた悲しみのゴンドラまでが選曲されていると、演奏会全体が何か追悼の儀式のように見えてきます。
演奏がはじまる前の会場には、曲と曲の間の拍手はしないように…とのアナウンスが流れ、当日のパンフレットには次のように書かれたチラシがはさみ込まれていました。
マリア・ジョアン・ピリス・プロジェクト in Triphony Hall 2009 ご来場の皆様へ
第1夜:ショパン・プログラムについて
今晩マリア・ジョアン・ピリスとパヴエル・ゴムツィアコフは、フレデリック・ショパン(1810-1849)の亡くなる3年前に作られた作品を演奏いたします。プログラムの中では、作曲家の天性の楽器であったピアノのソロ作品と、ショパンが作曲した数少ないそして最後の室内楽作品チェロとピアノのソナタop.65などが交互に演奏されます。
プログラムの中には、ポーランドの作曲家ショパンの作品でないものが一曲だけあります。あの巨匠フランツ・リスト(1811-1886)の「悲しみのゴンドラ」S.134です。19世紀後半のピアニストとして、また典型的なロマン派の作曲家として有名です。マリア・ジョアン・ピリスとパヴェル・ゴムツィアコフは、特別にこの曲をショパンへの賞賛として選びました。そのような思いで作曲されたわけではありませんが、偉大なる芸術家の死に対する遺憾の思いが確かに伝わってきます。
今晩の最後の曲はマリア・ジョアン・ピリスの演奏で、ショパンが最後に書いたマズルカ op.68-4になります。この曲はまさにこの作曲家の最後の作品です。演奏家は演奏後、天才作曲家の見事な“声”に敬意を表して沈黙を致します。アンコールはありません。ショパンの音楽が私たちの記憶と心の中にいつまでも響きますように。
(つづく)