2020@TOKYO

音楽、文学、映画、演劇、絵画、写真…、さまざまなアートシーンを駆けめぐるブログ。

グリーン

2007-09-30 | ■芸術(音楽、美術、映画、演劇)
  
  長雨がつづいたあとに大気が冷たくなり、街路樹の色が変わる。

  思い出すのは、ヴェルレーヌの秋の歌=落ち葉である。

  秋の日の ヴィオロンの ためいきの 身にしみて うら悲し
  鐘のおとに 胸ふたぎ 色かえて 涙ぐむ 過ぎし日の おもひでや
  げにわれは うらぶれて ここかしこ さだめなく とび散らふ 落ち葉かな

  青春時代、幾度も幾度も暗唱したこの詩の訳は上田敏。「海潮音」という詩集の中に収められている。

  一見、すでに充分に年老いた詩人の作と思いきや、これはヴェルレーヌ20歳のときの作品である。何と言う感性!

  ヴェルレーヌの処女詩集「サルチュルニアン」が出版されたのは1866年、ロシアではドストエフスキーの「罪と罰」が世に出た年。フランスにサティが生まれ、ドイツでは、ワグナーが19世紀ロマン派オペラの完成に向けて筆をふるっていた時代のことである。

  ヴィオロンとはヴァイオリンのこと。ヴェルレーヌが心に聞いた秋の日のヴァイオリンのため息とは…。

  無駄な想像はやめよう。彼ほどの大詩人ともなれば、すでに世にある音楽に触発されなくとも、彼の心の中に、彼自身の音楽を聞くことができるのだろう。それどころか、彼の言葉そのものが、ドビュッシーやフォーレなど、作曲家たちの感性を激しく揺さぶったのだ。

  「水彩画」の中にある「グリーン」という詩。ドビュッシーもフォーレもこの詩に曲を書いた。そしてもうひとり、武満徹は「ノヴェンバー・ステップス第2番」に「グリーン」というサブタイトルをつけた。

  このレコードがRCAから発売されたとき、秋山邦晴氏はライナー・ノートにヴェルレーヌの詩を引用していた。この一節も、いまだに私の頭から離れない。「グリーン」、これは春の歌だと思う。

  受け給え、ここに果物と花と葉と枝こそあれ…。

(写真は、レイモン・ペイネの「秋の日のヴィオロン」)
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私の好きな歌-3 「イッツ・トゥー・レイト」

2007-09-24 | ■私の好きな歌
  
  キャロル・キングが来日する。17年ぶりだそうだ。17年前といえば平成2年、福田康夫新総理が国会議員になった年のことだ。

  18から22歳にかけて、聞いていた音楽の多くは、当時のCBSソニーからレコードがリリースされているものだった。ポップスでは、キャロル・キング、サイモンとガーファンクル、サンタナ…、クラシックはレナード・バーンスタイン、ジョージ・セル、グレン・グールド…そして、何よりジャズのマイルス・デイビスなど。

  あの頃、CBSソニーは、コロムビア、キング、クラウンなどという、いわゆる民族資本系のレコード会社とは明らかに一線を画する独自の存在だった。通常、LPレコードの表Ⅰに対して縦にかけていた帯(宣伝コピーなどが入っている)を、表Ⅰの天の位置にかぶせた。これによって、レコード店の餌箱(当時は、レコード店の陳列棚をこう呼んだ)では格別にレコードを選別しやすくなった。ジャケットに使われる紙は一様に厚手のボール紙で、パッケージソフトに対する毅然とした主張を感じたものだ。

  18から22歳にかけて、キャロル・キングの「つづれおり」は本当によく聞いた。下北沢のロックやジャズ喫茶に隠遁していた私は、このアルバムに収められている "So Far Away" "It's Too Late" "You've Got A Friend" などを好んで聞いたり歌ったりしていた。

  とりわけ、"It's Too Late" は、失恋の経験もないのに、妙に心にしみた。
  
  And it's too late, baby now it's too late
  Though we really did try to make it
  Something inside has died and I can't hide
  And I just can't fake it

  もう、遅すぎる、遅すぎるのよ
  ふたりは努力したけれど
  心の炎が消えたのを、私はそれをかくせない
  私はそれをだませない
  とても、とても、だませない…

  下北沢にあった友だちのボロアパートで、畳の上に寝転がりながら、ポータブル・レコードプレーヤーから流れる雑音だらけのこの歌を聞いていた頃、まだ20歳の身でありながら、「遅すぎる、遅すぎる」というフレーズばかりが心に刺さっていた。

  このまま何もしないで、何者にもならないで、一生を終えてしまうのだろうか?という漠然とした不安が、「遅すぎる」という言葉から聞こえたのだ。

  青年が成熟する過程で味わう将来へ向けての恐れのような感情を、失恋の歌の中に聞いていた時代があった。

  
  

  
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東京の光と影ー16

2007-09-20 | ■東京の光と影
■Kirie in the evening air...by LEICA V-LUX 1 (c)Ryo

  東京あきる野市に、養沢川が流れている。その渓流を約4キロメートルにわたってフライ・フィッシング用のフィールドに仕立てたのが、養沢管理釣り場だ。ここでは、3月から10月まで、虹鱒や山女を中心とした渓流魚の毛鉤釣りが楽しめる。
  初夏、遠雷の轟きに慌てて竿を納め、ふと山並みを見上げると、そこには切り絵の世界が広がっていた。造化=造り出された天地(広辞苑)。
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東京の光と影ー15

2007-09-18 | ■東京の光と影
■The Fisherman and The Airplane...by PENTAX K10D (c)Ryo

  休日の午後3時、東京国際空港(羽田)には、ひっきりなしに最新鋭のジェット機が着陸してくる。まるで山手線の過密ダイヤのようだ。空港の脇にある東京湾の浅瀬には釣り人の姿が。 ハイテクとローテク、奇妙な光景である。
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東京の光と影ー14

2007-09-17 | ■東京の光と影
■September Wind...by LEICA D-LUX3 (c)Ryo

  ドイツ人が考案したレンズの“超望遠”で切り取った暖簾を揺らす風。「人間のための街路」の著者、バーナード・ルドフスキーは、『暖簾は、たった一枚の布でプライバシーの確保を約束する日本人の発明』と書いた。暖簾には風が似合う。それも、冷たい木枯らしが…。やがて、いつの間にか、鍋の季節がやってくる。

  余談:学生時代、コペンハーゲンのデザイン・アカデミーに留学していた友人の建築家を訪ねたことがある。その折、バーナード・ルドフスキーの特別講義が行われた。私は、アンデルセンの人魚像を見に行くという理由で、聴講には参加しなかった。後悔先に立たず。私の人生の中の、「その時、歴史が動いた…かもしれない…」の代表格である。
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霧の中のサーカス

2007-09-16 | ■芸術(音楽、美術、映画、演劇)
  
  週末に読む本を見つけた。「午前4時、東京で会いますか?」(ポプラ社)。中国に生まれフランスで小説を書くシャンサと、フランスに生まれ日本で小説を書くリシャール・コラスの往復書簡。コラスはシャネルの日本法人社長で、書簡はフランス語で綴られている。

  まず、タイトルが素晴らしい。「午前4時、東京で会いますか?」、そして、装丁。表1は東京、表4はパリ、それぞれのカラー写真(たぶん東京は午前4時、パリは前日の夜8時の風景?)が載せられている。これに厚手のトレーシング・ペーパーが被さり、すべての風景は霧に包まれているように、あるいは夢の彼方に消えていくように見える。

  昨日手に入れたばかりなので、まだ内容については書けない。各章のタイトルは次のようになっている。

  第一章 ラスパイユ通りの彼方に
  第二章 赤い星が昇った夜
  第三章 火と雪の踊り
  第四章 孤独な流星の軌跡
  第五章 水の中の青い空
  第六章 まわる地球儀

  第一章の扉には、対話の始まりとして次の言葉が載せられている。

  □一緒に対話の本を書こうと二人を突き動かすものは、一体何なのでしょう。 Shan Sa
  □二人のあまりにかけ離れた、それでいてあまりに似通った子ども時代にさかのぼる、かすかな音楽が聞こえてきたのです。  Richard Collasse

  美しいトレーシング・ペーパーの装丁を見て、本文がトレーシング・ペーパーで出来ている絵本のことを思い出した。ブルーノ・ムナーリの「The Circus in the Mist=霧の中のサーカス」は、全編が3部構成になっていて、1部と3部のページは、すべてトレーシング・ペーパーである。トレーシング・ペーパーのページが重なることによって、深い霧に包まれた風景が重層的に描かれる。第1部で描かれるのは深い霧の中に浮かぶミラノの町の景色。読者はページをめくる度、次第に霧が晴れていく景色を感じることが出来る。第2部にたどり着くと、そこはすっかり霧が晴れて楽しいサーカスの場面。ムナーリ独特のデザイン感覚によるサーカスが、絶妙な色彩と造形で表される。そして3部、再びトレーシング・ペーパーのページが始まり、サーカスは霧の中に消えていく。しかも、帰路は何故かミラノの町ではなく、深い森の中。

  私が初めてこの絵本を見たのは25年くらい以前のことだったと思う。デザイナーの福田繁雄さんの授業で紹介されたのがきっかけだった。私の書棚には2冊の「The Circus in the Mist」が並んでいる。1冊は25年前、パリにいた友人が送ってくれたもの。2冊めは、その後、東京の洋書店で買ったシュリンク・パックが施されたままの、手付かずの保存版である。

(写真は「霧の中のサーカス」1ページ)

  
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東京の光と影-13

2007-09-15 | ■東京の光と影
■September Sunset...by PENTAX K10D (c)Ryo

  東京に空はない、と高村光太郎は書いたが、その後に開発された東京湾ウォーター・フロントには、イギリスの絵画に描かれるような空がある。

  海が雲をつくり、空が海を碧くする。自然の芸術運動を、人工的な運河で見ることができるのが東京の面白さだ。大自然の山や川よりも、東京を撮るほうが楽しい理由がそこにある。
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東京の光と影-12

2007-09-14 | ■東京の光と影
■Good bye Summer Season in Tokyo Water Front... by PENTAX K10D (c)Ryo

  春「芽生え」、夏「輝き」、秋「内省」、冬「晦日=つごもり」…これが、私の四季に寄せる連想である。しごく平凡な連想、とはいえ、いつの年も晩夏の季節を迎えるのは辛い。空や海の輝きが、次第に力を失っていく様を見るのは、何歳になっても辛い。

  毎年毎年、最後の夏の光は、私にとって、内省の扉を開かせる鍵になる。
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東京の光と影-11

2007-09-14 | ■東京の光と影
■Mitake Station after the rain...by CONTAX TVS-DIGITAL (c)Ryo

  友人と奥多摩の川で釣りをしていたとき、驟雨に襲われた。近くの蕎麦屋に駆け込み様子をみていると、雹も混じってひとしきり強く降ったあと、すぐに止んだ。奥多摩の豊かな緑、すべての枝と枝の間から聞こえてくるのではないかと思わせる蝉の声とともに、夏特有の光線が帰ってきた。

  しばらく歩いてから、ようやく御嶽(みたけ)の駅に立つと、冷たい風が吹いて爽やかな湿度を感じた。日没間近の山なみ、ここも東京である。

  
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東京の光と影ー10

2007-09-10 | ■東京の光と影
■Bagle Bagle Bagle... by PENTAX K10D (c)Ryo

  銀座通りのショー・ウィンドー。ディスプレイされているのは、生のベーグルである。この仕掛けを見て、私はふいにジャン・ヴァルジャンを連想した。深読みのしすぎだろうか? 
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■東京の光と影-9

2007-09-10 | ■東京の光と影
■LADY IN THE SKY WITH DIAMONDS... by PENTAX K10D (c)Ryo

  ビートルズの "Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Band" の中に、"LUCY IN THE SKY WITH DIAMONDS" という歌がある。それをモジッて "LADY IN THE SKY WITH DIAMONDS" というタイトルに。彼女のイヤリングがダイアモンドであればの話。発表当時、ビートルズのこの歌は、タイトルの頭文字を拾うとLSDになることで話題を呼んだ。もう、40年も昔のことである。

  
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■東京の光と影ー8

2007-09-08 | ■東京の光と影
■Working Time by FinePix F710 (c)Ryo
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■東京の光と影ー7

2007-09-08 | ■東京の光と影
■Soul+Seoul by FinePix F710 (c)Ryo
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■東京の光と影ー6

2007-09-08 | ■東京の光と影
■Twins by FinePix F710 (c)Ryo
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■東京の光と影ー5

2007-09-08 | ■東京の光と影
■Midnight Palace by FinePix F710 (c)Ryo
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