2020@TOKYO

音楽、文学、映画、演劇、絵画、写真…、さまざまなアートシーンを駆けめぐるブログ。

家喜美子チェンバロ・リサイタル

2009-03-22 | ■芸術(音楽、美術、映画、演劇)
  
  レコード芸術の3月号に「オリジナル楽器」の至福の音響を求めて―「チェンバロ録音の現場」という記事が出ていました。

  チェンバロ奏者の家喜美子が演奏する歴史的名器を録音した峰尾昌男さんのリポートで、マイク・セッティングの図まで紹介されている興味深いものです。

  同じレコ芸誌上に件のCDの宣伝が出ており、その誌面の小さなスペースに、家喜さんのリサイタルが3月22日東京文化会館の小ホールで催される旨の告知がありました。

  何だか面白そうなので主催者に電話して当日券を予約すると、春の嵐が吹き荒れる日曜日、上野へ向かいました。

  これぞまさしく嵐!駅まで歩く15分の間に哀れな傘は強風に煽られ、ついに全身骨折となり果てました。あちこちで風のために電車がストップしているという情報が車内に流れています。よりによってこんな日にチェンバロのリサイタルは…。

  やっとの思いでたどりついた東京文化会館小ホール、外の嵐とは対照的に美しい佇まいのチェンバロが舞台に置かれ、そこに淡い明りが差していました。

  演奏曲目はバッハより100年も遡る作曲家の作品から始まります

  ヤン・ピータースゾーン・スウェーリンク:
   詩篇23番
   イングリッシュ・フォーチューン
   半音階的幻想曲
  J.S.バッハ:
   半音階的幻想曲 ニ短調 BWV903
   シンフォニア第5番 変ホ長調 BWV791
   シンフォニア第6番 ホ長調 BWV792
   前奏曲とフーガ イ短調 BWV894
   パルティータ第6番 ホ短調 BWV830

  それにしても、何と音の小さいこと!これがチェンバロの生の音です。自由席なので、私は開演1時間前から並び、最前列から5列目を確保しました。おそらく音が小さくて聞こえないと想像したからです。ところが、5列目ですらあまりに小さくしか聞こえない音響に驚きました。

  チェンバロという楽器には、東京文化会館の小ホールですら広すぎるのだ。この楽器には十分すぎる残響をもった小さなサロンが適している。ある意味、ハープのソロを聞くときと同じ音場設定が必要なのだと思いました。

  そういう耳で聞いていると、やはりチェンバロの時代に書かれた曲には過剰な装飾音が多いことに気づきます。音の減衰が早く、楽器の残響が極端に少ないため、楽曲そのもののフレーズを饒舌にしないと持たないという配慮でしょう。

  バッハの時代にはピアノは完成していなかったものの、私たちはバッハの鍵盤楽曲をピアノの演奏で聞きなれています。それらをチェンバロで聞くと、音楽を表現するためのダイナミックレンジの幅が狭く、特にパルティータなどでは物足りなさを感じました。世界的なチェンバリスト、グスタフ・レオンハルトなどの演奏はCDで聞いていますが、オーディオ装置のボリュームはかなり上げています。

  しかし、今日の演奏の本質はアンコールの「ゴルトベルク変奏曲」第1曲のアリアを聞いてすべて納得できました。ひとつひとつの音符が、ゆっくりと丁寧に演奏されるゴルトベルク、チェンバロ独特の響きが音と音の合間で微妙なバイブレーションを形作りながら静かに天上へ向けて昇っていく。繊細な弦にそっと触れたときに紡ぎだされるかすかな音こそが、この楽器の本領なのだと理解しました。

  一歩外へ出れば刺激的な喧噪に包まれる都会の中で、この静寂は人間に必要なものです。とりわけ日曜日の午後ともなれば…。

  ゴルトベルクは全曲が家喜美子さんの演奏によってCD化されているので、ぜひ聞いてみたいと思いました。
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河は眠らない

2009-03-21 | ■エッセイ
  
  亡くなってから20年も経つというのに、開高さん、まだ元気なんだ!と思わせるような新刊が最近店頭に並びました。。

  昨年の5月に集英社から出た「一言半句の戦場」の帯コピーは、文字どおり『文豪、最後の新刊!』というものでしたが、まだ新刊は出る余地があったのでした。

  「河は眠らない」、10年以上前に文藝春秋のNUMBERビデオ・シリーズでリリースされていたもので、2007年にはDVD化されています。そのタイトルと同じ「河は眠らない」という単行本が出ました。

  私は、テープの素材がヨレヨレになるほどこのビデオを見たので、ほとんど隅から隅まで開高さんのセリフを覚えています。今回、文藝春秋社から単行本として発行された「河は眠らない」は、そのセリフを活字化して、青柳陽一さんの写真と合わせたもので、こちらの帯コピーは『在りし日の姿、珠玉の言葉がフォトエッセイとして甦る!』というものです。

  この映像の出だしは次の言葉で始まりますが、なるほどこれを活字で読むとビデオとはまた違った趣があります。

  …川のなかの一本の杭と化したが、絶域の水の冷たさに声もだせない。芸術は忍耐を必要とする。

  映像の中で、この名言は開高さんの肉声としてではなく、いわゆるテロップで現れます。そのあと、ブラームスのバイオリン協奏曲の第二楽章が流れ、美しいアラスカの風景に開高さんのナレーションがオーバーラップしていきます。

  …現代は考えることのできる人にとっては喜劇。感ずることのできる人にとっては悲劇。

  クライマックスはアラスカ・キーナイ川でのルアーによるサーモン・フィッシングですが、大自然を背景に開高さんが語る言葉のひとつひとつが心に響きます。
一見、思いつくままに語られているような巨匠の数々の言葉、それが活字となり、美しい写真と一体化すると輝きはさらに増していく。そのとき、まさしく開高健は甦るのです。
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ベネズエラのオーケストラ

2009-03-20 | ■芸術(音楽、美術、映画、演劇)
  
  WBCの熱戦が連日のように放送されていますが、昨日のキューバ戦に続いて本日の韓国戦も完勝!とりあえずひと安心と言ったところです。

  とはいえ、本日1位通過した場合の次の対戦相手はアメリカ、2位通過の相手はベネズエラだから、何だか2位通過の方がよかったのではないかと考えてしまいます。先入観かもしれませんが、ベネズエラよりアメリカの方が手ごわそうに思えるのです。

  ベネズエラの野球選手といえばラミレスとかカブレラが親しみのあるところですが、大リーグでもたくさん活躍しているのでしょう。残念ながら、私は詳しくないので名前を挙げることはできません。

  さて、本日の朝日新聞朝刊、7ページの投稿欄に次のような記事が載っていました。転載します。

◆ベネズエラ青少年オーケストラへの楽器支援
子どもたちを犯罪や貧困から救うために無料のクラシック音楽教室を開設し、約30万人の子どもがオーケストラに参加しているベネズエラ。ピースボートが、4月に出航する船旅で同国を訪問し、ボランティアで子どもたちに届ける楽器を募集している。オーケストラで使用する弦、管、打楽器などで、新品、中古は問わない。故障がある場合は修理して、31日までにピースボート「UPA国際協力プロジェクト」(電話:03-3363-7561)に送る。送付先、送付方法など詳細はホームページ(http://www.peaceboat.org/project/aid)で。

  ベネズエラ青少年オーケストラについては、NHKがドキュメント番組を放送したのでご存じの方も多いと思います。ベネズエラ各地にあるユース・オーケストラの中でも最も有名なものが、シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ。昨年12月、ベネズエラ出身の指揮者、グスターボ・ドゥダメル、ピアニストのマルタ・アルゲリッチらと初来日を果たしました。以下の引用は来日時、e-プラスのウェブ上に掲載されていたオーケストラの紹介文です。

  『人口2600万人のベネズエラには、全国30カ所に、約130のユース・オーケストラ、約60の子供オーケストラがあり、25万人の子どもたちが、国家的プロジェクトである、クラシック音楽のトレーニング・システム「エル・システマ」に参加している。これは、ベネズエラ元文化大臣のホセ・アントニオ・アブレウ博士が提唱した、クラシック音楽を演奏させることによって、貧しい子供たちを善良な市民に育成し、麻薬や犯罪から守り、社会の発展に寄与させることができるというプロジェクトを「ベネズエラ青少年・児童オーケストラ全国制度財団」が推進。そのオーケストラの頂点がシモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラなのである。
  シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラは、1975年に設立され、ベネズエラの首都カラカスを拠点に活動。すでにザルツブルクやルツェルンなど欧米の著名な音楽祭にも出演しており、聴衆から圧倒的な賛辞を送られている。
  また、世界的な指揮者のアバドやラトル、ベルリン・フィルの団員たちが彼らの演奏に魅了され、定期的にベネズエラを訪れ、指揮や演奏指導を行なっている。  犯罪が多発するこの国で「音楽は社会を変える力となる」という信念のもと、多くの子供たちを犯罪から守り、貧困層の子供たちに夢を与える存在となっている』。(原文は段落なし)

  放送されたドキュメントでも、子供たちが嬉々として音楽に熱中する様が活写されていました。子供たちを犯罪から守り、貧困層の子供たちに夢を与えるという仕事が、国家的プロジェクトとして推進されている国ベネズエラ。クラシック音楽が人間の生活と深い関わりをもっています。私はテレビで見たベネズエラの子どもたちの表情を思い出すと、対戦相手がどの国であれ、WBCの試合では、何だかこの国を応援したくなってきてしまうのです。
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アース・ソーダ更新!

2009-03-18 | ■エッセイ
  
  アース・ソーダが更新されました!ピープルのコーナーは三枝成彰さんから湯川れい子さんへ!読みごたえ充分なインタビューです。浅井慎平さんの写真も相変わらず素晴らしいです。

  さらにチャッピイこと山本さゆりさんのア・ソング・フォー・ユーのコーナーも更新、今回はナット・キング・コールの「アンフォゲッタブル」です。

  山本さんの解説によると、この歌は1951年にヒットしたそうで、その頃生まれた人がぼちぼち還暦を迎えるという時の流れにびっくりしました。

  50年経っても60年経っても残っている歌はやはり本物です。そんな歌の数々がア・ソング・フォー・ユーのコーナーに溢れています。ぜひ、1日に3回はアース・ソーダのページをめくりましょう!

  アース・ソーダ  http://www.earth-soda.jp/
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■EARTH SODA MAGAZINE

2009-03-13 | ■エッセイ
  
  EARTH SODA MAGAZINE というウェブ・マガジンがあります。タケナミ・カンパニーの武南恩さんが主宰するもので、スーパー・エディターの原田英子さんが編集長をつとめています。

  このウェブ・マガジンの目玉コーナーは何といっても「EARTH SODA PEOPLE=アース・ソーダ・ピープル」。アラウンド50~70の大物へのインタビューが載っていて、出版界の大物、大歌手、大名優…みな「大」がつく人ばかりが登場します。

  創刊から現在までのラインアップをご紹介しましょう。第1回が幻冬舎の見城徹さん、2回目から順にロック歌手で俳優の鮎川誠さん、写真家の浅井慎平さん、歌手の布施明さん、俳優の宍戸錠さん、フォークの神様・岡林信康さん、ショーケンこと萩原健一さん、作曲家の三枝成彰さん…じつにそうそうたる顔ぶれです。番外編としては、スーパー・バイリンガル音楽評論家の山本さゆりさんによる、超イケメングループ、イル・ディーヴォへのインタビューという豪華さ!極秘情報ですが、三枝さんの次は、ついにあの音楽評論家界の大物、湯川れい子さんが登場します!

  何よりも驚いたのは、神様・岡林信康さんがインタビューに応じていること。私たちにとっての岡林信康は「山谷ブルース」「チューリップのアップリケ」「友よ」「私たちの望むものは」などなど、60年代後半から70年代にかけて数々の名曲を残しつつパッタリと姿を消してしまった、いわば伝説のひとです。ところが、アース・ソーダのインタビューを見ると、隠遁から現在までの間、作詞家、作曲家、歌手・岡林信康としてしっかりと音楽と向き合っていた姿が浮かんできます。40年前の「山谷ブルース」から現在の「えんやとっと」に至る系譜は、神様と呼ばれた音楽家の軌跡としてじつに読みごたえがあります。

  アース・ソーダのアドレスは、http://www.earth-soda.jp/ で、三枝成彰さんと湯川れい子さんは私がインタビューを担当しております。
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