2020@TOKYO

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トリカブト

2011-08-01 | ■エッセイ

  今年の2月後半くらいから左腕に痛みを感じていました。どうせ下手なゴルフのせいだとやり過ごしていたのですが、ここ一・二カ月痛みで眠れない日が続くようになりました。整骨院、鍼灸院などを経て整形外科を二つほど回り、この人なら!と信じることのできる先生の診断により、いよいよ漢方を調合して服用する段となりました。

  二朮湯(にじゅつとう)という古来からの漢方に調合するのはトリカブト。以前、殺人事件の小道具にもなった猛毒の薬草です。薬剤師は「とにかく不味いです。量も多いです。あまりの不味さに頭痛がするようなら服用をやめてください」と真剣な顔で言いました。私はもともと粉薬が大嫌いな上に漢方などの世話になったこともありません。

  帰宅した後、妻に向かって『私はこのようにすり潰して調合した大量の不味い薬草など飲めぬ』と告げたところ、「何とだらしのない、私が一口にて潔く飲んで見せよう」と言い放つや、宣言どおり茶色い泥の粉末のようなものをひと息で飲み干しました。『あいや、お見事。我もそれに倣い、毅然として服用してみよう。ただし、今はいけない。心が未だ整っておらぬ。明日の朝、日が昇った後に心頭滅却して飲むとしよう』と告げました。

  やがて夜が明けました。いつもは私の方が早いのに、この日ばかりは妻が先に起床していました。そうなのです、妻は生きておりました。どうやらトリカブトの猛毒は調合元のツムラによって上手く取り除かれていたようです。私は心から安心して件の薬を一気に飲み干したものでした。

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