ひろむしの知りたがり日記

好奇心の赴くまま
なんでも見たい!
知りたい!
考えたい!

ブルース・リーに功夫の魂を伝えた男 ─ イップ・マン <第1章>

2014年03月11日 | 日記
アクション映画史上に燦然と輝くスーパー・スターであると同時に、優れた技と思想を持った武術家でもあったブルース・リー。死後40年を経た今なお世界中に熱烈な崇拝者を持つその人気は、彼が初めて本格的に学んだ中国拳法である詠春拳と、師匠葉問<イップマン>の名をも高めることになりました。
近年巻き起こったイップ・マン旋風の火付け役となったドニー・イェン主演の「イップ・マン 序章」「イップ・マン 葉問」、デニス・トーを主演に青春時代を描いた「イップ・マン 誕生」、ウォン・カーウァイが監督し、トニー・レオンが葉問を演じた「グランド・マスター」、アンソニー・ウォンが晩年の彼に扮した「イップ・マン 最終章」など、次々と映画やTVドラマが製作されています。
以前、「ブルース・リーのドラゴン拳法 (1)」において、ブルースの詠春拳修業時代については簡単に述べましたが、葉問とブルースの師弟間には、まだまだ語るべきエピソードがあります。そこで、今回はそれらをいくつか紹介してみたいと思います。
まずはその前に、ブルースと出会う以前の葉問の人生から見ていくことにしましょう。

葉問は1893年10月1日、多数の武館(武術道場)が軒を連ねる広東省佛山<ファトサン>市で製糸工場などを経営する名家の次男として生まれました。1904年、11歳の時に陳華順<チェンワーソン>が葉家の土地を借りて武館を開いた縁で、彼に入門します。陳華順の師は、実戦に強いことで名を馳せ、「詠春拳王」と称された梁賛<リョンザン>です。葉問が弟子入りしたのは、陳華順が早70歳を過ぎた頃でした。最後の弟子であり、類いまれな才能を認められたこともあって、葉問は師のたいへんな寵愛を受けました。しかし、陳華順はすでに高齢であったため、葉問へ直接教授したのは重要な部分だけで、一般的な練習はすべて弟子たちに任せていました。
2年後、陳華順が脳卒中に倒れたので、葉問は兄弟子の中でも最も実力のあった呉仲素<ウーツォンソウ>から指導を受ける一方、呉仲素のはからいで広州派詠春拳の達人である阮奇山<ユインケイサン>からも教えを受けるようになりました。
16歳の時(18歳とも)、聖士提反書院(St.Stephen's College)に入学するために香港に渡った葉問は、翌年、友人の紹介で1人の拳法家と知り合い、試合をします。しかし、葉問は相手の妙技の前にまったく歯が立たず、逃げるようにその場を去りました。
数日後、拳法家から招待を受けた葉問は、恐怖心に駆られて誘いを拒みましたが、友人から彼が同門の人間で、しかも梁賛の息子梁璧<リョンピック>であると聞かされ、大いに喜んで出かけて行きました。そして、自分の拳技を完成させたいと入門を願い出たのです。こうして香港滞在中の数年間、葉問は再び詠春拳の修業に明け暮れることになります。その結果、彼の詠春拳には本流とされる佛山派嫡伝の技術に、広州派の優れた部分が加わりました。その後も研究と経験を重ね、彼は独自の体系を確立するに至ります。

 
ブルース・リーをこよなくリスペクトするドニー・イェンが、温厚篤実にして、闘う時には炎の激しさを発揮する達人を好演した「イップ・マン 葉問」(ウィルソン・イップ監督作品。日本公開2011年1月22日)

葉問は1941年には最初の弟子を取りますが、彼は佛山でも有名な大富豪の出であり、何不自由のない生活を送っていた上に、近郊では兄弟子や同門他派の者たちが詠春拳を教えていたので、当初自分の武館を持つつもりはありませんでした。彼が本格的に人に教授するようになったのは、第2次世界大戦で全財産を失い、1949年に香港に移り住んでからのことです。その実力は瞬く間に香港の拳法家たちの間で評判になり、後には「香港詠春拳宗師」とか「一代宗師」(グランド・マスター)などと称されました。

ストリート・ファイトに勝つために、強くなることしか頭になかったブルース・リー少年が、葉問のもとに入門したのは1955年の夏、14歳の時でした(13歳とも)。その時葉問は、すでに62歳になっていました。
半世紀近くも年齢が離れたこの師弟は、後に詠春拳の運命を大きく変えることになります。そして、出会いから20年を待たずして、わずか半年の間をおいて相次いで波乱に富んだ生涯を閉じることになるのです。
第2章では、そんなブルースと詠春拳の、ちょっと微妙な関係について見ていくことにしましょう。


【参考文献】
川村祐三著『詠春拳入門【増補改訂版】』BABジャパン、1998年
四方田犬彦著『ブルース・リー 李小龍の栄光と孤独』晶文社、2005年
浦川留著「「イップ・マン 葉問」 ブルース・リーの師匠を演じた後継者ドニー・イェン」
  『キネマ旬報』2月上旬号 No.1574 キネマ旬報社、2012年

最新の画像もっと見る

コメントを投稿