甲斐善光寺に鳩はいるの?

2022-06-11 15:27:38 | 紹介
信玄公没後450年カウントダウンの企画展「甲斐国領主と善光寺」も
いよいよ最後のテーマ展示に入りました。
そして、善光寺御開帳も今月29日までということで、こちらもカウントダウンが
始まったところです。

これまで善光寺のことも、いろいろとご紹介もしてきましたが、
ず〜っと不思議に思っていました。
どうして信州善光寺に鳩文字があって、甲斐善光寺に鳩文字がないのか。

鳩文字といえば、八幡さま。
鳩は八幡神のお使いですから、八幡神のご神意を伝えたり、道案内も鳩のお役目。

甲府の金手駅そばの「山八幡宮」の扁額(へんがく)

それじゃあ、どうして八幡さまのお使いが善光寺に?

それは、八幡さま=阿弥陀如来の化身だから(゜o゜;です。
つまり、善光寺に阿弥陀如来がいらっしゃるということは、八幡神もいらっしゃるということ。
八幡神がいらっしゃるということは、鳩もいるということ、になります。

・・・
古来より、日本人は自然や土地に神さまを見出してきました。
そうした「八百万の神々」を信仰する国に、仏教が伝えられます。
仏教は経典もさることながら美しい仏像などで貴族たちを魅了する一方で、
土地に根ざした神道と調和しながら、教えを広めていきます。

ただ、「神道」と「仏教」が何事もなく、平和的に融合していったわけではありません。

大分県宇佐に総本宮を置く八幡神は、
応神天皇のご神霊として、地方から中央に華々しくデビューした神さまですが、
神々の中でも、早い段階で、仏教との調和・融合が進められた神さまでもあります。
隼人の乱鎮圧(720年)、東大寺大仏建立の援助(749年)、宇佐八幡宮神託事件(769年)・・・
中央とともにあった八幡神は、仏教普及路線と鎮護国家路線との争いなどに巻き込まれ、
天災も続く中で、宝亀18年(777)、八幡神は出家(!)、
4年後には、仏教の守護神として「八幡大菩薩」と称せられます。

こうした神仏の調和と習合の理論は、天台宗などの密教系宗派が中心となって深めていきましたが、
「本地垂迹説」もそのひとつ。
神々は、人々を救うために現世に現れた、仏や菩薩の化身(!)という考えで、
それに基づき、八幡神は、阿弥陀如来が垂迹した仮のお姿とされたのです。
(ちなみに、日蓮は阿弥陀如来説を否定、釈迦牟尼仏だと主張。)

そんなワケで、一光三尊阿弥陀如来さまをご本尊とする善光寺に、
八幡神のご存在が、鳩文字という形で示されていても不思議ではないのです。

でも、どうして甲斐善光寺には鳩文字がないの?

特に記録もなく、本当のところはわかりません。もともとなかったのかもしれません。
あるいは、かつてはあったのかもしれないけれど、
火災など、ある時を境に、鳩文字が踏襲されなくなったのかもしれませんし、
八幡神との関係に、何かしらの変化があったのかもしれません。

でも、甲斐善光寺にも、八幡神はどうやらいらっしゃる。

それは、お正月の伝統行事でもあり、秘儀ともされている「堂童子」の時。
明治初期に途絶えたと言われますが、今でもそのエッセンスは口伝で継承されているとか。

どんな儀式かといいますと・・・
毎年12月27日に行われる、ご本尊の1年の汚れをぬぐう「御身拭(おみぬぐ)いの儀式」で、
清められた三尊は、綿入りの着物のようなものと頭巾を身につけられます。
そして、1月7日の七草法要まで、ご本尊の扉は堅く閉ざされ、決して開かれない・・・。

この間、扉の奥で、阿弥陀さまは、八幡三所(※)に変身されるのです。
仏さまから神さまになられますので、その前には御幣が置かれます。
そして、七草法要の日、再び扉が開かれた時には、
八幡三所はもとの阿弥陀如来のお姿に戻っていらっしゃる・・・。
ふしぎなふしぎな儀式・・です。

(※)八幡宮にお祀りされている三神。応神天皇、神功皇后、比売神(ひめがみ)または仲哀天皇のこと。


🍭おまけ

「衣川柵(ころもがわのさく)」対幅 土佐光起、光成作と伝わる
前九年の役(1051〜1062)の一場面。若武者・源義家(左)に追われる安倍貞任(右)
(旧堀田古城園、広間)

源氏も八幡神を軍神として、氏神として信仰しました。
戦の場で、吉兆の象徴として現れるのも、やっぱり鳩。
平安時代後期、後に源頼朝、足利尊氏を輩出する河内源氏の祖、
源頼義(988または994−1075または1082)が、
平安時代後期、陸奥守(東北地方)として、土着の有力豪族・安倍氏と戦い、破った「前九年の役」でも、
鳩が、八幡神のご神意の現れとばかりに、頼義の陣営の上を飛翔したと伝承されています。
この戦いに勝利したことで、頼義・義家の河内源氏は「武家の棟梁」の地位を確立。
「鎌倉殿」が、力を持つ前から棟梁然としていた根拠も、この戦いの勝利にありました。
コメント
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