三洋電機 サンヨー SS-60 アールデコ調のシンプルなデザイン
真空管ラジオにおける真空管の種類は、ST管→GT管→mT管へと変遷するが、一家に一台から1人に一台の時代になるにつれ、キャビネットが木製からプレスチック製へ、また電源供給方式もトランス式から小型・軽量・安価なトランスレス式ラジオが主流になってくる。
軽量なmT管トランスレス式へ移行する過渡期、比較的小型なプラスチック製キャビネットにオートトランスを使った機種が存在する。サンヨーSS-60は昭和29年(1954年)頃に製造された、中波(MW)のみに対応したmT管オートトランス式、5球スーパーヘテロダイン真空管ラジオだ。
象牙色のキャビネットとゴールドのカラー・コンビネーション、アールデコ調のシンプルなデザインが気に入り、出品者のコメントに「通電はしておりますが受信ができません。以前は受信していたのですが(半年ほど前です)」と書かれているものの、オークションで衝動的に購入してしまった。
キャビネット、裏蓋に大きな破損はないが・・・
キャビネット内側に貼り付けてある「定格表」には、下記の表記がある。
型式 サンヨー SS-60
5球スーパーヘテロダイン
製造者:三洋電機(株)
受信周波数:中波 535~1605kc
中間周波数:455kc/s
使用真空管:6BE6, 6BD6, 6AV6, 6AR5, 5MK9
感度:80μV/(極微電界級)
電気的出力:最大1.5W 無歪 1W
電源:85V~100V(ヒューズ切換式) 50~60c/s
消費電力:38VA
スピーカ:サンヨーSPD~50 5吋パーマネント ダイナミック
サイズ:横約30cm×高さ約16cm×奥行約14cm
デザインの面白さからつい入札してしまったこのラジオ、オートトランス式のため比較的小型だがトランスレス式に比べれば一回り大きく、持ち上げるとズッシリと重い。厚目のプラスチック製キャビネットは、カッチリした作りだ。
底板にあるネジを外してシャーシーを取り出すと、中央にオートトランスが鎮座し、ダイヤル指針、スピーカーまで取り付けられた一体型。バリコン、IFTはサンヨー製、電源トランス・ケミコン・ペーパコン・抵抗の一部も自社銘柄を使用している。シャーシーやIFTなど金属製パーツは前オーナーにより丁寧に清掃・研磨されている。しかし電源周りの配線をはじめ、ハンダ付け不良やパーツの欠落などかなりマズイことは素人目にもわかるほど。
今回はいつもお世話になっている友人が「ラジオ病」に感染しかかってるため、このラジオをプレゼントし、より重症のラジオ病患者になっていただくことにしました!(笑)
・・・と言っても彼は若い頃から真空管アンプの自作に手を染め、音響スタジオでPAをされたり、カーオーディオのコンサル&メンテナンス、チューニングをされるコンサルタントエンジニア。ありがた迷惑を承知で、到着した荷物をさっそく彼の事務所に運び込み、無理矢理プレゼントして帰りました。
診断した結果、次の不具合が判明した。
①プレート電圧がかかっていない。
アウトプット・トランスが断線しています。電源トランスは生きていました。
②バリコン不良
バリコンを取外し清掃後、再度取付けた時に壊したのか、配線が3箇所もショートしていた。(まったく・・・)
③電解コンデンサー不良
ブロックコンデンサをはじめ、爆発寸前?のコンデンサー類は要交換です。
電源周りのチェックを終え、B電圧、ヒーター電圧はOKになった。
断線しているアウトプット・トランスの2次側のオーム数が今まで聞いたこともない2.6Ω・・・。とりあえず手持ちの4Ωタイプと交換し、急場をしのいでいますが、問題ないであろうとのこと。
劣化している不良コンデンサの交換、配線の手直しをすすめ問題箇所はとりあえずクリアし、無事に鳴りだしました。
断線していた2.6Ωのアウトプットトランスと交換したコンデンサー類
レストアしたサンヨー SS-60
何とか無事に修復を終えたサンヨーSS-60を一旦持ち帰り、テストを兼ねて毎晩深夜、今開催中のトリノ冬季オリンピックの中継を聴いている。
しっかりした作りのキャビネットとダイナミックスピーカーとあいまって、トランスレス式真空管ラジオと比べ音に厚みと臨場感がある。またアールデコ調のシンプルで落ち着いたデザインはどこへ置いても違和感がなく、すんなりと馴染む。
今大会の日本人選手は惜しくもメダルを逃しているが、手に汗握ることなく、各国の代表選手たちの健闘を悠々とした気持ちで聞ける「大人のラジオ」だ。