松下電器産業(National)「CX-430」
オークションを何気に眺めていると、一見、学校の教室にあるスピーカーを思わせる小型真空管ラジオに目がとまった。
四角いシンプルなキャビネットとシンメトリーなデザイン・レイアウト。ベージュ色でまったく飾り気のない箱型キャビネットの下側に位置する周波数表示窓の周りはゴールドに塗装されている。周波数表示窓の両端に配置されているツマミの中心部には金色の金属プレートが輝き、落ち着いた品格を保ちながらも、アメリカンテイストに包まれたラジオだ。
昭和35年(1960年)頃に製造された、中波(MW)のみに対応したmT管トランスレス、5球スーパーヘテロダイン方式のオーソドックスでコンパクトな真空管ラジオだ。出力管に30C5を使った少し古いタイプだが、レストアの練習用にと思い購入した。
メーカー:松下電器産業(National)「CX-430」
受信周波数 : 中波 530KC~1650KC
使用真空管:12BE6(周波数変換)、12BA6(中間周波数増幅)、12AV6(検波&低周波増幅)、30C5(電力増幅)、35W4(整流)
幅250×高さ185×奥行130mm
★比較的小ぶりなこのラジオ、部下に慕われていた係長が課長に昇進、地方都市の支店から本社へ栄転する際に職場の人たちから贈られた記念品・・・という状況を空想してしまう。東京本社に転勤した課長、今までの地方都市でのアットホームな雰囲気とうって変わった環境に慣れるのに苦労され、自宅でのタバコの本数も増えたのだろうか・・・キャビネットはヤニで汚れ、天板には幾つものタバコの焦げ跡がある。
また透明フロントグリルにツヤは無く、このラジオが持つ上質なアメリカン・テイストのデザインも、完全に輝きを失っていた。
また店長の妄想癖が始まった! 壊れたラジオ一台でよくこれだけ空想の世界に浸れますね。感心します・・・。(ユー)
松下電器産業(National)「CX-430」 キャビネット内部
くたびれ果てたCX-430をひとしきり眺めた後、いつものようにキャビネットの裏蓋を開け、内部の点検を開始。
シャーシー表面には埃が溜まり、その埃が真空管の熱で炭化し、長年かけてキャビネット内側表面に黒くこびりついている。電源コード用ゴムブッシュは劣化して外れ、コード自体も硬化してしまい、整流管35W4は東芝製に替えられている。電源、パイロットランプまわりの部品も劣化・破損していそうな雰囲気が漂う。こんな場合、電源を入れることは厳禁です。
★日々の仕事や人間関係に振り回され、怪我や病気で体がボロボロになりながら、それでも一生働き続ける「疲れ果てた不器用な男」と「古い真空管ラジオ」をつい重ね合わせて哀愁に浸ってしまう。
いつの時代も嘘を上手につく小賢しい人間が『成功者』ともてはやされる。しかし真っ直ぐ前を向いて、汗を流した人間こそが明日を支えていることを、実はみんな知っている。閉塞感が満ち溢れる今、昭和の真空管ラジオに触れると、あの時代を一生懸命生きてきた人々を感じ、何だか励まされている気分になってくる・・・
あ~ぁ店長が、どんどん浸ってく・・・ポコポコ・・・ (ユー)
松下電器産業(National)「CX-430」 キャビネットから取り外したシャーシ
さっそくキャビネットからシャーシーを取り外してみた。キャビネットの内部と同様に、シャーシーも年代相応の汚れ、サビが浮いている。
本来ならシャーシまでキレイに清掃するところだが、今回は修理から開始することにした。
シャーシー上面の埃の状態から見ると、かなり昔に一度修理に出されているようだ。修理に出されたラジオが厄介なのは、対処療法的に「鳴らす」ことを目的として手が加えられており、部品の劣化や回路の問題に手をつけず、例えばヒューズが切れるから規定以上のモノに替えるといった処置が施され、正常な真空管やパーツに負荷がかかるケースである。
このラジオも誰かの手によって修理が加えられている可能性が大である・・・嫌な予感。
松下電器産業(National)「CX-430」 キャビネットから取り外したシャーシ内部
不安を抱えながらシャーシの内部を点検・・・パイロットランプにビニールテープを巻きつけ、絶縁処理をしている! ビニールテープを剥いで見ると、案の定、パイロットランプ用ゴムブッシュが溶解しランプのプラグ部分に固着しており、ゴムブッシュの役を果たしていない。特にナショナル機はパイロットランプ系の劣化が著しい。
多数のペーパーコンデンサが使われており、容量抜け等の不具合が予想される。安全のためにも全品交換したいところだが、どうしたものか迷ってしまう。真空管のグラツキも気になる。
ヒューズも二本挿したまま・・・違うじゃん、これ!
だって煙が出たり、火を吹いたらシャレになりませんから。(笑)
意を決して、恐る恐るコンセントに挿し込み、スイッチON!
何度経験しても、息を呑む瞬間だ。パイロットランプは点灯しているが、爆発や煙が出るどころか、何の変化も起こらない。ボリュームを回しても、変化なし。ガリさえ聞こえてこない。怪しさ120%のため修理歴100台オーバーのラジオの匠さんにお願いすることにしました。
診断の結果、出力トランスと音量調整のボリュームが交換されていることが判明。
何と出力トランスは10KΩに接続されている。出力管の35C5の出力インピーダンスは2.5KΩであるから、ずいぶんマッチングがずれている出力トランスもきちんとマッチングが取れる様に正しいインピーダンスの物に交換しておきます。
ケミコンの漏洩電流も測定の結果、不合格で交換。
バリコンを固定するゴムが溶融しているので、ゴムブッシュと水道のパッキンで固定した。バリコンの固定には、水道のパッキンが代用品として最適です。
ペーパーコンデンサ、電源コードも汚かったので安全のために交換します。
キャビネットを洗浄し、コンパウンドで磨くと見違えるようにキレイになり輝きをとり戻しました。ナショナルのエンブレも金色に再塗装してあります。
一見、学校の教室にあったスピーカーを思い出させるが、サイズは幅250×高さ185×奥行130mm と比較的小型であり、キャビネットのチープ感をシンプルなデザインと配色で補っている。
若干のチープ感も漂わせつつ、アメリカン・テイストのデザインを施されたこのラジオを机の片隅や窓辺に置き、AFN(American Forces Network :在日米軍ラジオ放送 旧FEN)を聞き流しながら過ごしていると、スティービー・ワンダーの名曲「A Place In The Sun」(1966年)が聞こえてきそうな雰囲気のラジオでもある。
アルバム「DOWN TO EARTH」
ちなみに「A Place In The Sun」が収録されている彼の初期の傑作アルバム「DOWN TO EARTH」。
この頃はシンプルでバックの演奏もモータウンの香りがプンプンしており、シンセの音なんか全く入ってないのがかえって新鮮です。
「A Place In The Sun」は2004年秋、テレビドラマ化された森村誠一原作「人間の証明」のエンディングテーマとして河口恭吾が歌ったカバー曲!と言えば、思い出された人もいるであろう。
だがボクとしては声を大にして言いたい!
実はスティービー・ワンダーの「A Place In The Sun」のカバーを、10年前に浜田省吾がアルバム ROAD OUT "TRACKS"で歌っている。
河口恭吾は、ちょい軟弱で軽い感じなのに比べ、浜田省吾の「A Place In The Sun」には大人の切なさが漂う。
Like a long lonely stream 一本の長くて孤独な川のように
I keep runnin' t'wards a dream 僕は夢に向かって走り続けている
Movin' on, movin' on もっと先へと あきらめないで
(訳詞:浜田省吾)
孤独を噛み締めながらも、「でもきっとある筈さ、陽の当たる場所が。行かなくちゃ・・・行くぜ、俺は!」っていう気持ちがとても凛々しく感じられる。
現代の軽さと積み重ねた自分の過去が同居しつつ、「陽の当たる場所」を求めて、危うく生きる男の様をつい自分と重ねてしまう。
店長(店主?)さんの実際聞いておられる短波のBCLの情報をもっと聞かせて欲しいです。
北に向けてロシアから中継して日本語放送を行っている話とか、ワライカワセミとかビッグベンの音だとか、その知識や体験を埋もれさせておくのは実にもったいないなと思ってましたヨ。
「校内放送用スピーカに無理やりラジオくっつけちゃいました!」的商品なのかも?って思いました。
スピーカー部分なんかそのまんまって感じですよね。今回のコメントまで思いもつかなかった・・・笑
ただ実寸は結構小さいですよ。横幅28cmくらいです。いま修理中です。調整をF氏に打診したら、案の定、断わられました。トホホっす。