昭和三丁目の真空管ラジオ カフェ

昭和30年代の真空管ラジオを紹介。
アンティークなラジオを中心とした、自由でお洒落な、なんちゃってワールド♪

松下電器産業(National) AL-520

2006-07-24 | ナショナル 真空管ラジオ

              

 真空管ラジオの魅力のひとつに、バラエティにとんだ多彩なデザイン性があげられる。ブログでこれまでに紹介してきた40~50年前の真空ラジオは、いずれも特長あるデザインに魅了され、購入・修復したものだ。

 mt管トランスレス式ラジオの標準的なサイズは、横幅30~35cm、奥行15cm前後。そのため保管場所を取らず、取扱いが楽であり、補修パーツは手軽に入手できる。安っぽいプラスチック製キャビネットも洗浄し、丁寧に磨くことにより独特の光沢を放つ。
 昭和30年代の高度経済成長とともに量産された真空管ラジオは、機能や性能の向上を競うことなく、「意匠・デザイン」という一点のみに工夫を凝らし、消費者の心を掴むことが当時のマーケティングだった。そうした当時の時代背景が、21世紀のこんにちでは「時代の趣(おもむき)」として蘇える。

              

 ナショナル AL-520は、mt管トランスレス式ラジオのジャンルではきわめて珍しい木製合板キャビネットを、フロントには曲面加工を施したプラスチック製パネルを採用している。
上面は緩やかな曲線処理がなされボトムで絞り込まれた木製キャビネット、横幅29cm×高さ18cmの小型だがボリューム感のあるサイズ・バランス、大型丸窓タイプの周波数表示グリル、バンド切替スライドスイッチのノブ、アイボリーのフロント・パネル・・・・上品で温かい、ふくよかな優しさを醸しだす秀逸なデザインだ。
 木とプラスチックという異なるマテリアルを組み合わせることにより、それぞれの質感を融合し、新たな魅力を醸出させるデザイン手法には高度な造型センスも不可欠である。

 そんなAL-520をオークションで最初に見かけた半年前、入札価格はすでに¥10,000を超えており、最後には¥20,000近い価格で落札され、溜息をついたものである。その後、何度かオークションに出品されたAL-520を見かけたが、部品欠品のジャンク品でも¥10,000~¥20,000の値段で取引され、指をくわえて入札の成り行きを眺めるしかなかった。

              

 ところが先日、「中波のみ受信するが接触不良あり」とコメントのついたAL-520を発見。思わず入札したところ、他に競合入札の相手がいなかったため、開始価格のままあっさり手に入れることができた。こうした幸運に恵まれることもあるから、オークションは止められない♪

 メーカー:松下電器産業(NATIONAL)『AL-520』

 サイズ : 高さ(約18cm)×幅(約29cm)×奥行き(約14cm)

 受信周波数 : 中波 530KC~1650KC/短波 3.9MC~12MC

 使用真空管 :12BE6(周波数変換)、12BA6(中間周波数増幅)、12AV6(検波&低周波増幅)
          35C5(電力増幅)、35W4(整流)

 電気的出力 : 最大1.5W  電源 : 50~60c/s 100V  消費電力 : 23VA

              

 宅配便で届いた荷物を開梱し、いつものように外観の目視点検を行なった。木製(合板)キャビネットは、プラスチックと異なり、天然素材ならではの高い質感がある。天板に1箇所と脚に小傷がある以外は、塗装もしっかりしている。プラスチック製フロントパネルは数十年の間に付着した汚れ、擦り傷があるものの、パーツの欠品も無く全体的には美品の部類である。裏蓋を取外すと、年代相応の埃が溜まっているが、修理された形跡も無いようだ。
 
              

 慎重にキャビネットからシャーシを取外し、堆積した埃をエアーで除去しながら、ヒューズの有無、切れをチェック。AC電源プラグにテスターを当て、チェックしたところ、導通がない。輸送中に真空管とソケットが接触不良でもおこしたのかも知れないので、後でチェックしてみよう。

              

 シャーシー内部を目視点検したところ、ACコードにビニールテープを巻かれた箇所がある。
「接触不良はここかよ・・・」 ビニールテープを剥離してみると、一旦断裁したACコードをハンダ付けにて再接続し、平行に並ぶ二本の線の間にプラスチック片を挟み込んで絶縁し、ビニールテープを巻いているという、世にも恐ろしい処理が行なわれていた。少しでも電気の知識のある人は絶対に行なわない危険極まりない処理である。

              

 すぐACコードの交換を行なったわけだが、ACプラグはオリジナルを使うために分解したところ、プラグ内で銅線が見事に断裂していた。・・・これでは導通がないはずである。まったく・・・意味不明な恐怖のACコードを交換し、導通・内部抵抗値を計測すると問題なし。
ACプラグをコンセントに挿しこみ、勇気を出して電源を入れてみた。修復作業を何度経験しても、恐怖に身の縮まる瞬間である。

 真空管のヒーターが点灯し、少し遅れてパイロットランプも灯った。
しかしウンともスンとも音が鳴らない・・・ スピーカー周りを確認すると、アウトプットトランスからスピーカーへの接続コードのハンダ付けが外れている。OPTからスピーカーへの接続コード、パイロットランプへの配線の劣化の点検は、真空管ラジオ修復の定番チェック項目である。

              

これらの配線を交換し、再度電源スイッチ、ON!!

 しばらくの沈黙の後、浮き出すようにスピーカーから5球スーパー特有の雑音が聞こえ始めた。
この程度の整備でも、今まで鳴らなかったラジオから音の出る瞬間の何とも言えぬ昂揚感、この気持ちがたまらない。

              

 アンテナ線を延ばし、BC(中波)バンドのチューニングを行ってみる。選局ダイヤルを回すと、市内にある民放中継局と10km離れたNHK中継局(共に1kW)が入感する。
 BC(中波)/SW(短波)切替えスライドスイッチをSW(短波)の位置に切替えてみた。
49m、42m、31m、25mの各放送バンドで世界各国からの海外放送が強力に入感してくる。短波に関して言えば、今までレストアした真空管ラジオの中で最も感度のよい部類である。
そう言えば周波数表示グリルは、外径の透明部分に金色で大きくSW(短波)の周波数を表示しているのは、短波放送の受信性能をアピールするためなのかもしれない。

              

 木製キャビネットの前面に真鍮ネジで留めてあるプラスチック製フロントパネルを取外し、塗装が剥げないようマジックリン洗浄後、いつものようにコンパウンドとプラスチッククリーナーを使い丹念に研磨すると、艶のある表情へと見事に変身した。

              

 木製キャビネットの影響なのか、今まで修復した真空管ラジオの中でも音質もマイルドなきめの細かい、いい音がする。
机の片隅に置き、日常的に使いたくなる気分になってくる。

昭和レトロ心と男のロマンをくすぐる、逸品である。