湯・つれづれ雑記録(旧20世紀ウラ・クラシック!)

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☆ストラヴィンスキー:3楽章の交響曲

2016年09月13日 | ストラヴィンスキー
○ベルグマン(P)作曲家指揮SWFバーデンバーデン放送交響楽団(music&arts)1954/5/21live・CD

世界の踊りのリズムのとりかたは様々である。西欧的記譜法は西欧音楽のみを視野に入れているため、国によってはそれをそのまま音にするだけでは表現しきれないものも出てくる。日本人が舞曲表現を苦手とすると一般に言われるのも、日本人の踊りに関するリズム感覚が西欧的な感覚と違っているからだ。勿論訓練や適性次第で克服できるもので今はそんなことも言われなくなったが、素人がやろうとするとどうしてもエンヤコラドッコイショになってしまう。後拍を取る、附点音符のリズムを取る、三拍子など奇数拍を取るのが比較的不得意というのは、日本人に限らないが、日本人に顕著なものである。西欧諸国においてもこの点には微妙な差異がある。三拍子は騎馬民族の乗馬時のリズムからきている、という話があり、ボロディンの楽曲では頻繁に使用されるが、指揮者によっては無骨に正確なリズムをとって舞踊性を無くしてしまっていたりする。意図的であればよいが無意識と感じられる場合もある。ウィーンの舞曲については言うまでもあるまい、これは逆に正確なリズムを取ることにより「まるで東京人が大阪弁をしゃべっているような」ノリの悪い不恰好さを避ける場合が多いように思う。国民性の色濃い微妙なズレを如何に表現するか、アメリカでいうところの「スウィングする」という感覚は譜面上にどう表記されるべきなのか(アイヴズは「スウィングできるなら何度でも繰り返せ」などと書いている)、このへんは私含め「聞くだけの人」は「ノリ」の一言で片付けるけれど、いざやる立場となると難しい面がある。ストラヴィンスキーの舞曲表現にも独特の「ノリ」がある。リズミカルに前ノリで面白くやればそれはそれで面白く聞けるのだが、そもそもあの複雑なリズム構造はアフロな諸国に顕著にみられる、リズムの絡み合いをメインとして楽曲を組み上げるたぐいのプリミティブなものを意識しているようだ。本当は旧来の五線譜上に書き記せるたぐいのものではない。ストラヴィンスキーはそこを敢えてぎっちり譜面に落としている。客観的で数学的な側面があるから極めて正確に演奏されることによって独特の魅力が見えてくる、このへんはブーレーズあたりを代表とする高度な分析技術によってのみ成しえた演奏様式だが、あくまでバレエのような「踊りの音楽」で使われることを想定した「ノリ」の部分は損なわれがちである。ストラヴィンスキーの自作自演の面白いところは、そういった「正確さ」と「ノリ」を、鋭利で無骨で激しい音表現によって同時に満たしているところである。それは逆に同時に失っていると言うこともできるし、じじつそのために面白くない、下手だなどと言われるのだが、昔も書いたことだけれども、ストラヴィンスキーの頭蓋の中には何らかの肉感的なリズムが存在し、それは西欧的な単調なリズムに無理やりあてはめたものとも、様式を崩した舞曲の面白さとも違う「正確な縦のリズムをとことん突き詰めていくことによる、地を一斉に縦に踏み鳴らすような土俗的なリズムにもとづく」ものであった。その源流は知れないが、このアメリカ時代の復活ののろしとなった名品においてもその流れは依然として存在し縦のリズムが重要な要素となっていて、この演奏では特に精緻で金属質な表現を得意とするオケをもってして、厳しい縦ノリの引き締めと粗野でアクセントの強い独特の発音の中から一種独特の舞踊の「ノリ」というものを感じることができる。

この演奏で更に特筆すべき部分としては二楽章中間部の抒情性の濃さで、ドビュッシーの「フルートとハープとヴィオラのためのソナタ」へのオマージュや瞬間的なヒンデミットなど、まるでバルトークのオケコンのような「遊び」が楽天的でシニカルな楽曲の中に、清澄で親密な雰囲気を持ち込み変化をつけている、そこが如実にわかる。

アメリカでは金銭的な理由から作曲を行うことが多かったストラヴィンスキーだが、プロフェッショナルな音楽家にとってその動機が何だろうが産物が素晴らしければそれでよいわけで、アメリカという未だ音楽の新興国とみられていた国において交響曲という権威的で「キャッチーな」ものを作るという意味、そういったものを依属者や出版社が求め続けた意味を鑑みたとしても、この作品の価値を貶めるものにはならない。録音はやや悪いがリマスターはいい。○。

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