○アンソニー・コリンズ指揮ロンドン交響楽団(BEULAH他)1955/6/2-3・CD
これほどの曲がなぜかこの序曲と組曲しか演奏されないというのはどういうわけだろう。ワグナーの子として、しかしワグナーが材をとった北欧神話の世界を、フィンランドの素材によってより神秘的かつ透明な音楽に昇華させてみせたシベリウスの、既にして円熟した技巧が示された傑作劇音楽である。序曲は組曲ほどはっきりした音楽ではないが、各主題の描き分けを明確にし構造的なものに配慮しながらも、旋律線や和声の変化に印象派的な微妙な揺らぎを加え、暗示や隠喩の存在を錯覚させる不思議さを持たせており、とても新鮮な印象をあたえる。アンソニー・コリンズはリズム処理が素晴らしく巧く水際立っており、茫洋感を抑え素直に聴き易い音楽を作る事に成功している。オケ(弦)も確信に満ちており清々しい。後期ロマン派様式、例えばグリーグから野暮を取り去り、ワグナーの拡大された型式論を採り入れた、初期シベリウスの完成期を示す作品の一つである。一聴損無し。
これほどの曲がなぜかこの序曲と組曲しか演奏されないというのはどういうわけだろう。ワグナーの子として、しかしワグナーが材をとった北欧神話の世界を、フィンランドの素材によってより神秘的かつ透明な音楽に昇華させてみせたシベリウスの、既にして円熟した技巧が示された傑作劇音楽である。序曲は組曲ほどはっきりした音楽ではないが、各主題の描き分けを明確にし構造的なものに配慮しながらも、旋律線や和声の変化に印象派的な微妙な揺らぎを加え、暗示や隠喩の存在を錯覚させる不思議さを持たせており、とても新鮮な印象をあたえる。アンソニー・コリンズはリズム処理が素晴らしく巧く水際立っており、茫洋感を抑え素直に聴き易い音楽を作る事に成功している。オケ(弦)も確信に満ちており清々しい。後期ロマン派様式、例えばグリーグから野暮を取り去り、ワグナーの拡大された型式論を採り入れた、初期シベリウスの完成期を示す作品の一つである。一聴損無し。