湯・つれづれ雑記録(旧20世紀ウラ・クラシック!)

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ウォルトン:歌劇「トロイラスとクレシダ」(初稿)

2018年10月23日 | Weblog
サージェント指揮コヴェントガーデン歌劇場管弦楽団&合唱団、リチャード・ルイス(トロイラス)マグダ・ラズロ(クレシダ)ピアース(パンダラス)他(PASC)1954/12/21live放送

初演ではない模様。モノラルの放送録音で音質はノイジーなモノラル、音場が狭いがほどほどにレストアされている。3幕からなる長大なオペラでウォルトンでは知られた作品だろう。平易な音楽に美しい歌、ペレアス以降のフランス近代音楽(あるいはサンサンやラヴェルの明晰な音楽)、マーラー以降中欧音楽の影響は感じられ、部分的には意図的に模倣しているのではないかと思わせるものもある。ウォルトン特有の書法の癖(自作有名曲すべてからいいところどりしたような、というか詰め込みすぎて息の詰まる作風をとても聴きやすいレベルに引き伸ばしならしたような)、同時代イギリス音楽の上品で透明な音楽との共時性は横溢しているものの、第1幕は比較的ウォルトン以外を思わせる個性の薄まりがあるように思う。第2幕でもマーラー「大地の歌」告別冒頭を思わせる重苦しいパセージやシェーンベルクの浄夜か室内交響曲かというような下降音形はそれぞれ醸し出す雰囲気を引用したかったのか。3幕は2幕ほどの清新さはないが、筋書きに沿っているので構成上意図したものかもしれない。何より、これはベルシャザールの祭典ほど過剰なゴージャスさを煽ることはなく、歌の一つ一つが丁寧に書かれており、伴奏との組み合わせも必要最低限の絡みでしっかり聴かせるように組みあがっているし、映画音楽のようにキャッチーすぎることはなく、さすがに何時間も聴くには単調すぎてこたえるが、すくなくとも1,2幕は引き込まれて聴ける。描写的表現がじつに上手く、それも過去の自作をふくむ音楽を換骨奪胎したようなニヤリとさせる部分も多く、音楽好きなほど聴けると思う。キャッチーでないかのように書いてしまったが、ウォルトンでもわかりやすさはピカ一である。歌唱はライヴとしては皆とてもきれいで引っ掛かりはない。言語の問題もあるかもしれないが。オケは歌劇場オケらしく少しハスッパで開放的なところもあるけれど、ウォルトンをここまでちゃんと弾きこなすのは腕がある証拠だ。サージェントの鋭い指揮によるところも大きいと思う。弛緩なく緊張した演奏でもある。pristineによる復刻(PASC138)。幕間に拍手と放送ナレーションが入る。拍手は普通。終わり方があっけないのもあるかも。
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