
ブーレーズ指揮
ウィーン・フィル(DG)1994/○BBC交響楽団(ARTISTS)1973LIVE・CD
それにしてもウィーン・フィルの音は随分変わった。同じDG盤のバーンスタイン/ウィーン・フィルと立て続けに聞いたが、音は隅々まで無個性なほど全く同じ。機能性は格段にアップしているからそれはそれでいいのだが、冷たい印象を与えてしまうのはいかにも残念だ。ブーレーズのDG盤はかつてのライヴとは全く異なり、非常にまろやかだ。言ってしまえば常識的な演奏に落ち着いてしまった。でも聞き心地は悪くない。1楽章のアルマの主題の展開がバーンスタインのテンポ設定と似ており、面白いと思った。緩徐部での響きの感覚はさすが鋭敏な耳を持つブーレーズならではの繊細さで、印象派的。3楽章の美しさも特筆すべきだろう(旧盤とは全く解釈が異なっているが)。終楽章、思わぬところでハープが響いたりして、そういうところは(少ないのだが)個性的な部分を遺している。個性的、と書いた。旧盤、イタリア盤のライヴは素晴らしく個性的で、一期一会の迫力を持っている。事故も多いが、震幅が大きく、しかもその付け方が特徴的で(以前書いたようにバルビローリをちょっと思わせる)、冷徹な印象のあったブーレーズの「熱気」が、ふんぷんと伝わってきた。録音は悪いものの、ここでは円熟したがゆえ「薄く」なった新録より、お勧めとしておく。終演後のブラヴォーも凄い。昔ブーレーズのマラ6ライヴが聞きたくてたまらなかった折、「ブーレーズ・フェスティバル」で同曲が取り上げられると聞いて飛び上がって喜んだものだが、じっさいはティルソン・トーマスが振ったのだった。まあそれはそれで興味深かったのだが(面白かったとはいわない)。ちなみにHMVでブーレーズの「大地の歌」(DG)が990円で投げ売りされていた。果たして今現在のブーレーズ・マーラーの評価はいかがなものなのだろうか。関係ないが秋葉原石丸電気でALTUSのコンドラシン・ライヴシリーズが1枚950円で同じく投げ売りされていてショックだった(私は全て原価で買っていたし、悲愴にいたっては間違って2枚買ってしまっていた)。たまにレコード屋めぐりをするとこんな発見もあったりして。(2003/1記)
(BBC交響楽団盤 追記)
ブーレーズ、ドイツグラモフォン盤でないライヴ録音です。私は偏見もあって、最近のブーレーズは指揮者として巧くなった替わりに閃きや鋭さがなくなったと思い込んでいるのでご容赦を。CDが出た7年くらい前に書き留めておいた文章をそのまま載せます。
ブーレーズの悲劇的を聞いた。ブルーノ・マデルナ張りの珍妙な表現も多かったが、何より驚いたのが対照的とも思われるバルビローリのライブ盤との近似性。3楽章(バルビローリは2楽章)終盤の急激なアッチェランドなどはこの二人をおいて他に見られないものだ。通常ブーレーズとバルビローリにとって、ライヴとは別の意味を持つものであったろう。おおむねスタジオ録音に近い精度の演奏を求めるブーレーズに対して、バルビローリはスタジオの入念で神経質なものとは異質の、一期一会の激しい演奏を行う。スタジオはバルビローリにとって余り重要な存在ではなかったのかもしれないとさえ思う。ニューヨークフィル時代のチャイコフスキー5番の録音はその最たるものだが、悲劇的のベルリン・フィル定期の記録もそれに迫るものがある。チェロ奏者から始めやがて徹底したプロ指揮者として生涯を尽くした演奏家バルビローリと、アグレッシヴな活動家として音楽界を席捲したあとに指揮に手を染めた作曲家ブーレーズが、ここでこんな近似性を見せるのは面白い。尤も4楽章でブーレーズはおおむね一般的表現に落ち着くのに対し、バルビローリは益々度を越してきている。このへん乖離してきてはいる。
○グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラ(EN LARMES:CD-R)2003/4/13LIVE
1楽章繰り返し有りで73分というのは速い部類に入るだろう。さっさと進む乾いた解釈はブーレーズらしいが、いかんせんオケが弱い。あちこちで事故が起きているしリズムに鋭さがなく雑然としている場所も少なくない。1楽章などテンポがたどたどしく感じる。また奏者の技術にもばらつきがあるようで、弦は薄く一部奏者が突出してきこえる。ソロをかなでるコンマスも固い。オーボエなど妙に巧い奏者もいるが管楽器もまとまりがいいとは言い難い。ただ、3楽章アンダンテから4楽章へむかって流れが良くなってきているのは確かで、4楽章などなかなか聞きごたえがある。余り揺れない解釈であるがゆえに揺れたときのインパクトは凄いし、また響きが完全にマーラー的になっているのはすばらしい。粘らないあっさりしたテンポにも関わらずとてもロマンティックに聞こえるのはそれゆえだ。豊穣なひびきが確かな聞きごたえを感じさせる。最後のハンマーの打音はかなりリアルに捉えられており、腹の底にズシンとくる。日本でもこれをやったブーレーズだが、かつての解釈と微妙に変わってきているようであり、一流オケでやったらどうなっていただろうか、と思わせるところがある。若いオケということで多少大目に見て○。
※2004年以前の記事です