私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「硫黄島からの手紙」

2006-12-11 22:18:21 | 映画(あ行)


2006年度作品。アメリカ映画。
「硫黄島からの手紙」に続く「硫黄島」2部作第2弾。5日で落ちると思われていた硫黄島を36日間守り抜いた日本兵、彼ら日本の側から見た硫黄島を描く。
監督は「ミリオンダラー・ベイビー」「ミスティック・リバー」のクリント・イーストウッド。
出演は「ラスト・サムライ」「明日の記憶」の渡辺謙。「青の炎」の二宮和也 ら。


すばらしい作品である。本作はその一言に尽きるだろう。

本作では戦争が抱え持つ矛盾や不条理が頻繁に描かれている。それに関して印象に残っているシーンが二つある。

一つ目は「天皇陛下万歳」と兵士たちが叫ぶシーンだ。
そのシーンでは、アメリカで暮らしアメリカの実体をよく知っている栗林も、単純に生きていたいと願う一兵士たちも、全員がその言葉を口にし、万歳のポーズを取っている。
しかしほとんどの人間はその言葉は本当に心から言ったものではないことが画面を通じてよく伝わってくる。完全に心は別のところにあるのだ。
しかし戦場の、そして時代の空気はその言葉を言うことをひたすらに強要する。たとえ心は別のところにあり、それに疑問をもっていても万歳と口にするほかにない。
それだけにそのシーンには恐ろしいくらいの虚しさがただよっているのだ。そしてそのシーンを描くことで、全体主義に対する恐怖が奥底から浮かび上がってくるように感じられる。
さすがイーストウッドだと、こういったシーンを見てると思う。こんな映像は邦画では絶対撮れないだろう。

二つ目は手榴弾を使った自決のシーンだ。
これは本当にこわい。誰だってこんなところで自決するくらいなら生きたいと思うだろう。どう考えても逃げた西郷の行動が一番正しい。
しかし戦場の雰囲気は「葉隠」の精神を要求している。家族を思い生を願う者に、死を強制する。マインドコントロールが国家的に行なわれていた時代とはいえ、その不条理は見ていても悲しくつらいものがある。
全体主義が抱え持つ恐怖。そしてそれこそが日本人が行なった戦争で見られたシーンなのだ。

他にも戦争の矛盾や不条理がよく描かれている。
米兵を集団でリンチする日本兵。逃げる者を殺そうとする上官。捕虜を殺すアメリカ兵。そして善人だけが生き延びるわけではないという理不尽な現実。そこにはどちらが善悪だとか断言できない生身の戦争の姿が捕らえられている。
その様の描き方が実にクールで、理知的で、それゆえに深く僕の心に訴えかけてくる。
戦争は悲惨だと声高に叫ぶわけでもなく、戦争で兵士たちは勇敢に戦ったんだとたたえるわけではない。淡々と描くことで浮かび上がってくる深い悲しみ。それを確実にすくいとっているのが見事だ。

前作と合わせて見ることで、本作はさらなる深みを増してくる。硫黄島二部作を併せて見たとき、この二部作はまぎれもない傑作だと気付くだろう。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・クリント・イーストウッド監督作
 「父親たちの星条旗」
・渡辺謙出演作
 「SAYURI」
・加瀬亮出演作
 「好きだ、」
 「ストロベリーショートケイクス」
 「ハチミツとクローバー」
 「花よりもなほ」
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 「男たちの大和/YAMATO」
 「SPIRIT」
 「DEATH NOTE デスノート 前編」
 「DEATH NOTE デスノート the Last name」
 「ハチミツとクローバー」

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