私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「ハチミツとクローバー」

2006-07-23 18:43:42 | 映画(は行)


2006年度作品。日本映画。
羽海野チカの人気コミックを映画化。美大生5人の全員片思いという切なく甘酸っぱい恋模様を描く。
監督は高田雅博。
出演は嵐の櫻井翔、「花とアリス」の蒼井優 ら。


ある一つの作品があって、それを映画化しようとする。そのとき往々にして聞かれるのは原作のファンからの否定的な意見だ。
原作に思い入れがあるほどの人だったら自分の頭の中に自分が作り上げたイメージというものがある。それが映像化したことで、頭の中のイメージが大きく損なわれるということはそんなに珍しいことではないだろう。

僕個人の考えで言うと、原作と映画はまったく別物だと考えている。なぜなら作り手が違うからであり、作り手が異なれば感性も異なる。あくまで映画は原作という入れ物を借りているだけでしかないわけで、そこに同一性を求めること自体に無理が生じるのは必然というほかないだろう。
しかしあくまでそれは理性の話でしかない。感情として納得できるかと問われれば、そう簡単に割り切れるものではなかったりする。

何か前置きが長くなった。こんなことを書いたのは映画を見終わって、映画館を出ようとしたとき、原作ファンと思しき女性客から否定的な意見が聞こえてきたからだ。
僕は原作既読だし、「ハチクロ」はおもしろいマンガだとも思うけれど、本作のファンというほど思い入れがあるわけではない。
その程度の認識ではあるのだけど、その女性客の否定的な意見には多少納得せざるを得なかった。なぜならキャラのつくりが原作と幾分異なっていて、若干の違和感を感じたからだ。
たとえば森田は根本的に違っているし、真山もオリジナルとは少しずれているような気がしてならない。ストーリーも改変がなされていたことも大きいだろう。そのためもあり、見ながら僕はもどかしい気分を抱いたのは事実だ。

しかし僕個人はこの作品を青春映画として優れていると感じた。原作とは違うけれど、原作とは異なる映画独自の世界観をしっかり打ち出せていたように思う。

はっきり言って僕は原作では感じられた切なさを映画では見出すことができなかった。しかしこの映画の中では青春期のもやもや感が描かれていて、それがこちらによく伝わってきたように思う。
例えば主人公の竹本は日本建築が好きで、美大に来ている程度でしかないような学生だ。言うなればどこにでもいる平凡タイプである。そんな彼が二人の天才に囲まれたとき、感じる焦慮、そして自分が好きな人に何もできないという無力感の様子に、画面を通して彼の苦悩が伝わってきて、それが心に響く。
他のキャラとしても絵が描けなくて苦しむはぐみ、失敗作がビジネスになることに苛立つを募らせる森田、行き場をなくしてどうしていいかわからない恋愛を抱え込む真山とあゆ、といったようにそれぞれがもやもやとした心を抱えている様子が存分に伝わってくる。
その悩んでいる姿が青春群像劇として心に届くものがあるのだ。このもやもやとした鬱屈と恋に人生に葛藤する様は一級の青春劇として優れていると評してもかまわないと思う。

若干音楽が邪魔な気もしたが、これも一つの愛敬だろうか。とにかく最近の邦画の勢いを改めて感じさせられた良作であった。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『失はれる物語』 乙一 | トップ | 「日本沈没」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

映画(は行)」カテゴリの最新記事