私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「花よりもなほ」

2006-06-05 20:39:24 | 映画(は行)
2006年度作品。日本映画。
元禄時代、父の仇を討つべく江戸に出てきた侍と、彼の住む貧乏長屋の住人とで繰り広げられるコメディタッチの人情ドラマ。
監督は「誰も知らない」の是枝裕和。
出演は「東京タワー」「フライ,ダディ,フライ」の岡田准一。「たそがれ清兵衛」の宮沢りえ ら。


個人的にはツボである。
いくつか余分なエピソードがあったり、人物が多すぎるせいもあり、やや散漫な印象を受けるけれど、そういった部分も含めて、この作品にはまってしまった。

一応、仇討ちが主眼として取り上げられているけれど、この中で刀を使ったチャンバラは登場しない。その姿勢は仇討ちに対する向き合い方という本作のメインテーマにも繋がってくるものだ。
これを見ていて思ったのだが、是枝監督という人は基本的にいい人なのだろう。人間に向ける視線は優しいし、人を傷つけるという行為に対して基本的に否という態度をこの作品を通して示している。そして当たり前のことを誠実に伝えようとする姿勢をこの中に見出す。

人間は人間との付き合いの中で大事な何かを受け取っているのだろう。
何かが起きたとき、怒りという行為に全てを転化するのではなく、もっと根本的なパーソナルなつながりの部分に目を向けるべきだということを謳っているように僕は受け取った。
基本的に僕はこの意見に対して賛成だ。そしてそれこそが故人に対して真摯に向き合うことになるのだ、と僕自身も思う。

テーマ以外の部分に目を向けると、何と言っても登場人物がいい味を出している。実に濃い面々を集めたものだ。
例えば、古田新太の飄々とした存在感、キム兄のちょっと抜けているような味わい、へっぴりで変にあくの強い香川照之、怒っている姿がキュートな田畑智子、その他の出演陣もどれも存在感抜群。
彼らの楽しい雰囲気が見ているこっちの側にまで伝わり、楽しい気分になってくる。何度も笑えるシーンがあっていい意味で力が抜けていた。

加えてセットもすばらしい。
あのいかにも崩れそうな貧乏長屋が冒頭に登場した途端に、僕はこの映画の世界観に引き込まれてしまった。あれだけでこの映画の主要なテーストを表現できていたのではないか、と思う。

何か散漫になったけれど、とにかく楽しく、少し心が温かくなれる作品だ。一見の価値はあり。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

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