私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「ストロベリーショートケイクス」

2006-11-12 08:42:44 | 映画(さ行)


2006年度作品。日本映画。
魚喃キリコのコミックを映画化。フリーターの里子と、彼女が慕うデリヘル嬢の秋代。複雑な思いを抱えながら同居するOLのちひろとイラストレーターの塔子。それぞれの事情を抱えながら生きる4人の女性の物語が並行して描かれていく。
監督は「三月のライオン」の矢崎仁司。
出演は「ジョゼと虎と魚たち」の池脇千鶴。「四日間の奇蹟」の中越典子 ら。


実に感想が書きづらい作品だ。それは多分僕が男であるってことも、無縁ではないだろう。
女性4人を主人公にした映画なだけに、その女性陣の繊細な心の機微を理解しきるには男の僕では完全には無理かもしれない。つうか一番共感したのが女性陣ではなくて、加瀬亮という時点で、そうなるのも当然なのかもしれないけれど(しかしこの映画の男性陣は誠意が足りねえな)。

しかしもちろん、まったく彼女らの心理が理解できないわけではない。彼女たちに対する共感めいたものは覚えるし、彼女たちが抱えている状況に思いを馳せることができる。
総じて言えば実に優れた作品であったと言っても良いと思う。

ここに出てくるのは四人の女性だ。それぞれが個性的でタイプは違う。
ひとりは失恋を経験したあと、恋をしたいと願ういたって普通の女性、里子。もう一方は学生時代の男友達を思い続けるデリヘル嬢、秋代。そしてやや恋愛依存症気味なOL、ちひろ。仕事にプライドを持ちながら理解されない現実に苦しむイラストレーター塔子である。
そのどのキャラもが非常に等身大であり、それゆえに各人が抱えている現実が見ていても目の前に迫ってくるものがある。

この映画から伝わるのは、各人の「生きにくさ」だ。それぞれの悩みは当人にとってはあまりに深刻であり、それゆえに傷付くものがあまりに多い。
個人的には塔子の嘔吐の姿には、見ていても苦しいものがあった。
彼女はそれこそ身を削るようにして絵を描き続けているのだけど、他人からはその思いをどうでもいいといった感じに扱われてしまう。彼女の苦悩を気付き、省みてくれる人は皆無だ。その様があまりに悲しい。

その他の女性たちの苦しみもそれと同様に苦しい。
個人的には塔子の次には秋代にシンパシーを感じた。だが同時にこの人が僕にとっては最もわからない存在でもあった。
秋代は後半で妊娠をするのだけど、その行動原理がどうしても僕にはよくわからなかった。秋代が宿しているのは恐らく客の子なのだろうけれど(多分ミス・ディレクションではないと思う)、それならばなぜ彼女は堕胎を考えなかったのだろうっていうのが、僕の根本的な疑問だ。
それが菊地とのセックスの動機付けになっているのはわかる。だが、出産を考えることだけは僕にはどうしても理解できない。
いろいろ考えたが、多分それは棺桶で眠るというメタファーとリンクはしているとは思う。けれど、それでは「なぜ」の部分が充分に解明できないきらいがある。これは僕が男だからなのだろうか。よくわからない。
最後の最後でもどかしい感じになってしまって気持ち悪い限りだ。

ともあれ、この作品はなかなかの良作であることはまちがいない。
決して明るい希望が待ち受けているわけでもないが、暗すぎるわけでもない。一般受けはしそうにないけど、バランスの取れた作品という印象がある。
最近邦画が元気だが、本作もその元気さを示す作品だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

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