■小中学校
◆道徳
◇生徒の感動呼ぶ魅力ある教材で
道徳教育は学校の教育活動全体で行う。あいさつや社会の規律など、発達段階に応じて指導の重点化を図る。「道徳教育推進教師」を中心に全教師が指導に協力。先人の生き方や自然、スポーツなど生徒が感動する魅力的な教材を活用し、道徳性の育成につながる体験活動を推進。
▽小学校
※自立心や生命を尊重する心を育てる
※人間としてしてはならないことをしないこと(低学年)
※集団や社会の決まり(中学年)
※規範の意義を理解(高学年)
▽中学校
※社会への主体的参画
※道徳的価値に基づく生き方への考えを深める
◆特別活動
◇小学校…集団宿泊
◇中学校…職場体験
児童生徒の発達の段階に応じて、自然の中での集団宿泊(小学校)や職場体験活動(中学校)を推進する。
※より良い人間関係を築こうとする自主的、実践的な態度の育成
▽学級活動
※集団の一員としてより良い学校作りに参画
※清掃など当番活動の役割と働くことの意義の理解(小学校)
※異年齢集団による交流(小学校のクラブ活動や中学校の生徒会活動)
※意見をまとめるなどの話し合いや自分たちの決まりを作って守る活動、人間関係を形成する力を養う活動(小中学の児童会、生徒会の活動)
※集団への連帯感、公共の精神(学校行事)
◆総合学習
◇総則から独立「探究的に」
教育課程の位置づけを明確にし、指導を充実するため、総則から取り出して新たに独立した章立てにする。教科の枠を超えた横断的・総合的な学習、探究的な学習を行うことをより明確化し、目標に「探究的な学習」を明示。各学校は社会や日常生活とのかかわりを重視して目標と内容を設定。
▽小学校
※学習活動の例示に、「地域の人々の暮らし」「伝統と文化」を追加
※外国語活動の目標、内容との違いに留意し、適切な学習活動を行う
▽中学校
※学習活動の例示に、「職業や自己の将来」を追加
■幼稚園
◇幼児と児童の交流図る
幼稚園と小学校を円滑に接続するため、幼児と児童の交流の機会を設けたり、教師の意見交換や合同の研究の機会を作ったりして、連携を図る。規範意識や思考力の芽生えなどに関する指導も充実させる。
幼稚園と家庭の連続性を確保するため、家庭での生活に配慮した指導を幼児に行い、保護者が幼児期の教育の理解を深める活動を充実させる。
1日の教育課程が終わった後に、保護者の要請で実施する預かり保育については、幼児の心身の負担に配慮する。言語力の育成を重視し、話すことに加え聞くことも大切にして、伝えあいができるようにする。
※幼稚園が義務教育とその後の教育の基礎を培うことを明確化
※和やかな雰囲気で教師や他の幼児と食べる楽しさを味わう。食べ物への興味を持ち、進んで食べる気持ちを育てる
※遊びを楽しみながら物事をやり遂げようとする気持ちを持つ
※幼児が自ら行動する力を育て、他の幼児との共通の目的が実現する喜びを味わうようにする
※集団生活を通して、幼児が決まりの必要性に気付くようにする
※幼児が自分の思いを伝え、教師の話も聞いて、言葉による伝えあいができるようにする
※幼児が多様な体験をし心身の調和のとれた発達を促すよう援助する
※預かり保育の計画をたて、指導体制を整備する
※園は保護者同士の交流の機会を設けたり、情報を提供したりして、地域や保護者に機能や施設を開放する
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◇科学的論述力、理数の弱点改善--筑波大大学院教授・大高泉氏
理数教科は小中ともに学習内容が増加した。大高泉・筑波大大学院教授(理科教育学)に学習指導要領改定案での理科教育のポイントを聞いた。
--理数教科の学習内容が復活し、国際水準に戻ったとも言われる。
◆ドイツでは小4まで日本の「生活科」のような社会、理科、家庭科などが一緒になった教科を学ぶ。その後は、物理や生物など各科目に分かれてしまう。ほかの国とも一概に比較できないが、先進国としては普通のレベルだと思う。
--過去の指導要領の内容と比較するとどうか。
◆68年改定(中学校は69年改定)の指導要領が一番難しい内容だった。この年の改定は、世界中に波及した米国のカリキュラム改革運動の影響を受けた内容になっており、新指導要領はその水準ほどではなく89年版にほぼ戻ったと言える。
--新指導要領での理科のポイントは?
◆実験・観察後に考察したり、表現したりすることが新しく強調された。英国の子どものノートの付け方を見ると、文章での長い記述になっている。日本はキーワードだけを書く。ここが思考力や論述力の差を生む。日本の子どもたちは国際学力テストでも科学的論述力が弱い。弱点を改善するための改定にもなった。
--実験・観察の重要性も指摘された。
◆実験・観察の重要性は理科教育が始まった明治以来、ずっと言われてきた。英国の高校の場合、実験活動やリポートが評価され、大学入試の得点の約2割を占めている。日本で実験・観察が充実しないのは試験に出ないからだという現実的な問題がある。入試が学校の授業のあり方をコントロールするわけで、この構造にもメスを入れなければ根本的には変わらないのではないか。
--学習内容も増え、詰め込み教育の復活の懸念はないか。
◆授業時間も増えており、詰め込み教育の復活にはならないと思う。ただ、実際に子どもたちが受けている授業によるのではないか。学習内容が増えた一方で、今までと同じようにキーワード主義で教えていると、詰め込み教育を助長することにもなるでしょう。【聞き手・高山純二】
◇言語力低下、いじめにも影響--京都市教委指導主事・直山木綿子(なおやま・ゆうこ)氏
各教科にわたって言語活動に関する項目が新設された。文部科学省の言語力育成協力者会議委員を務めた京都市教育委員会の直山木綿子指導主事に言語活動の重要性などを聞いた。
--なぜ言語活動が重要なのか。
◆10年前に比べると、人付き合いが下手な子どもが増えている。自分の思いを伝えられなくて孤独になったり、攻撃的になってしまう。言語力の低下はいじめ問題にも影響していると思う。お互いに意思疎通が下手だから小さい誤解が生まれ、大きなことにつながっていく。まずは言葉の力がないとダメだと思う。
--言語力低下の原因は。
◆言葉で人とかかわり合う場面が少なくなった。「便利」な社会になり、何も話さずに生活できる。当然、使わなければ低下する。家の中でも携帯電話のメールでやりとりする家庭もある。「ご飯よー」って、メールを送るんですよ。それを聞いた時は背筋が寒くなった。大人もコミュニケーションが下手になったと思う。
--学力低下の原因に言語力の低下も挙げられる。
◆国語の力がなかったら、理科や社会の問題も読み取れない。読解力の低下が学力低下の一因にもなっていると思う。
--学習指導要領改定案は各教科で言語活動に力点を置いた。
◆当然だと思う。ただ、算数には算数の目標があり、社会には社会の目標がある。算数の目標を達成するために言語活動が入るべきで、言語活動のための算数になったらいけない。各教科の目標のために授業を進めていけば、本当は言語力もつくはずだ。今は百マス計算やドリルで点数をつけ、知識偏重になりすぎた。指導要領案は各教科の原点(目標)に戻ろうというメッセージなんだと思う。
--原点を忘れた教員がいる?
◆それはいますよ。教師の仕事も多様化・多忙化し、子どもと向き合っている時間が少なくなった。その中で、子どもに計算力や英単語を身につけさせることに終始して、原点を忘れてしまった。ただし、言語力は学校だけが頑張っても向上しない。子どもは家庭や地域で育ち、言語力を培っていく。学校と地域、家庭の連携が必要だと思う。【聞き手・高山純二】
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◇歯止め規定を原則撤廃 「指導禁止」と誤解招き
新指導要領案では、いわゆる「歯止め規定」を原則撤廃した。
歯止め規定とは「……を扱わないものとする」などと定めた規定で、例えば「乾電池の数は2個までにする」(小学校理科)や「イオンについては扱わないこと」(中学校理科)と表現されている。
歯止め規定の本来の趣旨は、児童・生徒全員に教える学習内容の範囲を明確に示すためのもので、最低基準を理解した児童・生徒に発展的な学習内容の指導を禁止するものではなかった。
しかし、学校現場では、歯止め規定を「指導の禁止」を示した規定だと誤解しているケースもあり、新学習指導要領では小学校家庭科の「調理に用いる食品は、生の魚や肉は扱わない」など一部を除いて原則撤廃した。
また、中学校の新学習指導要領には部活動に関する規定を総則に新たに規定し、「スポーツや文化および科学などに親しませ、学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養(かんよう)などに資するものであり、学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意すること」と明示した。
このほか、文部科学省は学習指導要領に定められた範囲外の学習内容を指導できる従来の「教育特区」制度に加え、4月から手続きを簡素化した制度を導入する方針。従来は内閣総理大臣の認定が必要だったが、新制度では文科相の認定で、自治体独自の教育が可能になる。地域の自主性や創意工夫などを生かすことが狙いだ。
◇災害時の備え/裁判員制度/浴衣の着付け
◇現代社会を反映 改正基本法、「愛国心」も随所に
浴衣の着付け、裁判員制度、家族との触れ合い--。小中学校の学習指導要領案では、改正教育基本法の理念を反映するとともに、現代社会を映し出す学習内容も新たに規定された。
●民謡、長唄も
改正教育基本法で、いわゆる「愛国心」表記が新設されたことから、各教科で日本の伝統と文化を重視する指導項目が新設・充実された。小学校算数では、今まで小3で指導していた「そろばん」を「我が国の伝統的な計算器具」(文部科学省)として小4でも指導することになった。
中学校技術・家庭では「和服の基本的な着方を扱う」として浴衣の着付けを学び、中学校音楽では「民謡・長唄」が歌唱の指導に導入される。具体的には「ソーラン節や勧進帳」(文科省)などを想定。10年後にはソーラン節を口ずさむ子どもも出てくるかも。
●ネット社会に対応
中越沖地震(07年7月)など自然災害が相次ぐ中、中学校保健体育(2年)では「2次災害によって生じる傷害」を学んで自然災害に備える。登下校中の事故や事件も多いため、小学校体育(5年)では「身の回りの生活」の危険を教える。校内の事故だけでなく、犯罪の起こりやすい場所などを指導することになりそうだ。
いじめの温床にもなっている学校裏サイトなどインターネット社会の問題に対応するため、小中の総則と道徳に「情報モラル」に関する記述を新設。中学校技術・家庭でも個人情報保護など情報モラルの充実を図る。また、来春始まる「裁判員制度」についても、初めて中学校社会の公民分野に盛り込まれた。
●家族との触れ合い
出生率が低下し、一人っ子家庭も少なくない。この少子高齢化社会を受け、中学校技術・家庭では「幼児との触れ合い」が必修化される。文科省は「一緒に遊ぶ」「読み聞かせをする」ことなどを想定。小学校特別活動のクラブ活動などでは「異年齢集団による交流」を図って、人間関係の構築に役立ててもらう。
また、小中学校の特別活動では、小学校が自然の中での集団宿泊活動、中学校が職場体験活動が充実された。さらに、小学校では「勤労を重視する観点」(文科省)から「清掃」を初めて明示。規律を重視して、規範意識を高めるよう求める内容になっている。
◇渡海文科相「期待してほしい」 学力向上に自信
公表された新学習指導要領案について、渡海紀三朗文部科学相は「学力を再生させることも(改定の)大きな目的。今の状況をしっかりと分析して、学力が向上するような学習指導要領を作ったので、期待してほしい」と述べ、学力低下への懸念払しょくに自信を示した。
渡海文科相は「指導要領が機能しなければ結果が出ない。実施体制も含め、指導要領が機能するようさらなる努力をしたい。先生がやる気になることも大事。心を一つにして頑張らないといけない」と教員の奮起を促し、文科省としては条件整備などをより一層図る考えを示した。
また、今回の指導要領案の特徴に改正教育基本法の理念を反映させたことを挙げる一方で、道徳の教科化を見送った理由について「教科化すれば教科書を作らなければいけない。道徳教科書の検定は難しい」と説明した。
毎日新聞 2008年2月16日 東京朝刊
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