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女子野球に未来あれ=編集制作センター・水津聡子

2009年04月15日 | スクラップ

 


◇特別扱い、もう不要

 第81回選抜高校野球大会は清峰(長崎)の初優勝で幕を閉じたが、時を同じくして今春、女子野球界はさらなる一歩を踏み出した。センバツ出場校の福知山成美(京都府福知山市)に、関西で初めて女子硬式野球部が誕生したのだ。部員は2人とチームづくりはこれからだが、女子球児の新たな受け皿として注目されている。

 


■「連合」で全国大会

 兵庫県丹波市で第10回全国高校女子硬式野球選抜大会が開幕したのは、関西独立リーグで吉田えり投手(神戸9クルーズ)がデビューした翌日の3月28日だった。野球部のある5校に加え、福知山成美の初代監督に就任した長野恵利子さん(34)が采配(さいはい)を振る丹波連合が出場。クラブチームなどの選手が集まったメンバーは、9人ぴったりだった。

 丹波連合は初戦で優勝経験のある神村学園に当たり、0-1で惜敗。大阪府内の高校2年生で男子に交じってプレーしてきた松川芽以投手が六回まで投げ切った。普段は練習試合のワンポイントしか出場機会はない。「気持ちいいです」。松川投手の笑顔がはじけた。

 全体練習もほとんどできないにもかかわらず、守りを中心に健闘した。試合中、メガホンを手に大声で指示を出し続けた長野さんは「女子高校生を指導するのに良い経験になりました」。確かな手応えを感じた様子だった。

 丹波市では、高校女子硬式野球の全国大会が春夏の年2回開かれている。だが「女子球児の甲子園」として知られながら、女子野球のある高校は関東4校(埼玉栄、花咲徳栄、駒沢学園女子、蒲田女子)と、九州1校(神村学園)の計5校だった。

 


■活躍の場が欲しい

 「空白地帯」の関西に、初の女子硬式野球部が誕生するきっかけをつくったのは、健康食品会社「わかさ生活」だ。今年1月、福知山成美OBの角谷建耀知(けんいち)社長が、同校を運営する学校法人の理事長に就任したことによる。同社はこれまでも女子野球界全体を支援するなど力を入れてきた。同高のある京都府福知山市と「女子球児の甲子園」の丹波市は隣接していることもあり、さっそく女子硬式野球部の創設が決まった。

 今年1月、昨夏の第3回女子野球ワールドカップ(W杯)主将だった長野さんの監督就任と、男子野球部と同じデザインのユニホームを発表した。すぐに選手募集を始めたが、反応は鈍かった。今月13日の初練習に参加したのは新入生と他校からの転校生の2人。部員となった系列の福知山女子の2人を加えても4人だけだ。長野さんは「今年は覚悟している」と語り、来年以降に「戦える」チームを目指す考えだ。

 国内で最も人気がある硬式野球でも、女子がプレーする場は限られてきた。競技人口は軟式を合わせて3000人程度。少年野球で活躍しても、年齢が上がるに従って、制限を受けてきた。高校野球では春夏の甲子園どころか、予選にさえ参加できない。ソフトボールなど別競技への転向が現実的な選択肢にも見えてしまう。「あくまで硬式」と意志を貫いても部のある高校は少なく、クラブチームも国内に12しかない。

 長野さんも苦労した一人だ。兵庫・淡路島出身で、ソフトボールの実業団を引退後、硬式野球に転向。00年から日本代表入りし、昨夏のW杯ではチームの世界一に貢献した。大阪のクラブチーム「Bless」でも選手、監督として引っ張ってきたが、私生活では「野球ができることを第1条件にしてきた」ため、何度も転職を経験した。

 他の選手たちも、野球ができる環境を必死に確保しているのが現状だ。丹波市に本拠地を置く「丹波ガールズ」は、少年野球のヤングリーグに所属する唯一の女子チーム。多くの選手が奈良や京都など遠方から週末ごとに通う。08年度の卒団生5人は、野球部のある学校を進学先に選び、九州や関東へと離れていった。

 


■思いが道を開く

 そんな中、福知山成美に女子硬式野球部が誕生したことは、まだチームにはなっていないとはいえ、未来の女子球児には希望を与える朗報だった。いち早く入学を決めた同校1年の油谷深幸さんは、東大阪市出身。小学1年で野球を始めたが、地元の高校には野球部がなく、進路を決めかねていた時に創部を知った。「最初に入ったから、みんなを引っ張れるようになりたい」と意欲を燃やす。

 京都市内から丹波ガールズに通う中学3年生の堀遥香さんも「うれしい。成美なら、野球が続けられる」。全国高校女子硬式野球連盟の堀秀政事務局長は「これで野球をあきらめていた子どもが続けられることにもなる」と期待する。

 取材を通じて感じたのは、野球では男性ならすぐに手に入る環境が、性別が違うだけで遠くにかすむ現実だ。進路を決めるたび「女の子なのに」と言われた自分と、未整備の環境にあらがう選手の姿が重なり、我がことのように悔しかった。でも、選手たちは現状を嘆いたりしない。口にするのは「野球ができてうれしい」という熱い思いだ。そのたくましさに幾度も感心させられ、救われた。

 3月上旬、ともに長野さんが監督を務めるBlessと丹波連合の合同練習を見に行った。参加者は小学生から大人まで、新入りも見学者も、1個のボールを通じてすぐにうち解けていた。吉田えり投手のように注目を集める先駆者が出ることは大きいが、いつまでも特別扱いでは、本当の広がりはないだろう。

 この日の練習のように、普通の女性が、普通にボールを握れたらと願っている。野球は純粋に楽しいものだから。



 

毎日新聞 2009年4月15日 大阪朝刊

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