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Dr.北村 ただ今診察中:第135話 日本が『中絶天国』と呼ばれる理由

2007年08月23日 | スクラップ
 「北村君、隔世の感があるねえ」と語るのは婦人科医の大先輩(75歳)。「1955年には115万件を数えていた人工妊娠中絶が30万件を割ったのだからねえ」と。日本の産婦人科医の7割近くが中絶の減少を実感しています。

 『中絶天国』などと外国メディアから揶揄(やゆ)されている日本。あたかも簡単に中絶が行われているかのような表現に戸惑いを隠せません。

 中絶手術を規定している法律には母体保護法がありますが、ここには人工妊娠中絶を「胎児が母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に胎児及びその附属物を母体外に排出すること」(法第2条)と定義し、中絶時期の基準として妊娠満22週未満までとしています(1991年1月)。

 何でもかんでも中絶が許可されているわけでなく、「妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」「暴行若しくは脅迫によって又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの」に限られています(法第14条)。

 したがって、仮に胎児に異常が認められても中絶の適用にはなりません。

 今回、僕自身が主導している緊急避妊ネットワーク会員(産婦人科医)1300人に向けて次のような質問状を送りました。

 「1995年以降直線的に増加していた15歳から19歳の女子人口千対の人工妊娠中絶実施率は2001年(13.0)をピークに、02年度12.8、03年度11.9、04年度10.5、05年度9.4とここ4年ほど減少していますが、現場にいる医師としてそれを実感できますか」。

 813人(有効回答率62.5%)のうち72.2%の産婦人科医が「確かに減少した」と回答しています。その理由として「県内全高校での性教育の効果か」(栃木県)、「避妊教育及びインターネット等による情報」(神奈川県)、「妊娠だけは避けたいとの考えが一般化したため」(京都府)など多数の意見が寄せられました。この中でもっとも目立ったのは「低用量ピルや緊急避妊ピルの普及」という意見でした。

 低用量ピルの普及率は僕の調査でも僅か1.8%(ドイツでは58.6%)に過ぎませんが、それでも中絶を減少させる力になると確信したものです。緊急避妊ピルに至っては、わが国では未承認薬であるにもかかわらず、過去に約80万人の女性が「使用経験あり」と回答しており、中絶減少に幾ばくか貢献したであろうことは想像に難くありません。

 『中絶天国』という不愉快な言葉についてですが、わが国が他の先進諸国に比べて中絶実施率が決して高い国でないことからすればおかしな話です。しかも、母体保護法によって厳しく規制されていることをもってしてもこのような言葉が一人歩きをしていることは看過できません。ある時、僕のクリニックを訪れた外国メディアの女性記者の言葉は印象的でした。

 「低用量ピルや子宮内避妊具など避妊効果の高い方法があるにもかかわらず、避妊を男性に依存している日本の女性たち。外国から見ると妊娠したら中絶すればいいかのような風潮があるように思われます」

 『中絶天国』とは確実な避妊法選択に消極的な日本に対する痛烈な批判なのかも知れません。

 

 

毎日新聞 2007年8月23日


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