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国家資金を投入した国家的大リストラ

2014年01月20日 | 格差社会
  《労働情報【時評自評】から》
 ◆ 「追い出し部屋」から国家的大リストラへ
木下武男(昭和女子大学特任教授)

 昨年の流行語大賞に、ブラック企業、限定正社員とならんで、「追い出し部屋」がノミネートされた。
 「追い出し部屋」は、希望退職を拒否した者に対する「強制退職」の装置である。この「追い出し部屋」が多くの企業に置かれていることが、大々的に報道された。このことは現在、企業による大リストラが進行していることを示している。
 今回の大リストラの特徴はその対象者にある。40歳代が狙い撃ちにされている。課長になれる世代だ。これは、バブル世代を削減するねらいだとも言われている。しかし、進行している結果はもっと別のところにある。
 係長一課長一部長という日本特有の内部昇進制のルートが断ち切られることになる。それは、これまでの終身雇用慣行の廃棄を意味する。日本型雇用の解体が大リストラによってもたらされるだろう。
 ところで、昨年、打ちだされた安倍労働改革は、この大リストラを後押しするところにねらいがある。
 日本の解雇規制は、法的制度は極めて緩いが、労使のあいだの「慣行」は非常に強い。この「慣行」の破棄を、国家が背中を押すことで促進しようとするのが目的であろう。
 その手法が「雇用維持型から労働移動支援型への政策シフト」で示されている。これは、重大な意味をもつ。
 日本は、日本的雇用慣行のもと個別の企業に雇用を維持させる政策をとってきた。雇用調整助成金の制度は国がそれを支える政策だった。これをやめるということだ。個別企業の雇用維持から国家が手を引くことを意味する。
 その替わりに「労働移動支援」の政策をおこなうという。具体的には、
 ①就労支援を民間人材ビジネス会社に任せること、
 ②企業がビジネス会社を活用しやすくすること、
 ③ハローワークの情報を民間人材ビジネス会社に開放すること、
 これらが政策方向である。

 こういうイメージになる。
 企業が労働者をリストラするために希望退職を募る。
 希望退職者の再就職のあっせんを企業が人材ビジネス会社にまかせる。
 まかせるためにかかる費用を、国が助成する

 国家の資金が、リストラ企業をつうじて、民間人材ビジネス会社に流れることになる。人材ビジネス会社は、企業にリストラをさせれば、させるほど儲かることになる。
 これを「緊急構造改革期間」の5年間という期間を定めて、そして2015年までには1134億円を投入して敢行しようとしている。
 国家資金を投入した国家的大リストラである。

 安倍労働改革の本筋はここにある。
 何か巷には、解雇規制の緩和や限定正社員の導入によって解雇しやすくすることが、安倍労働改革のねらいだというような風潮がある。そんな悠長なことではない。
 現になされている企業による大リストラと、これから始まる国家的大リストラ、これをいかに迎え撃つのか。
 その有効な布陣を組むこと、それとの対抗構想を検討すること、これが労働運動の焦眉の課題である。
『労働情報 878・9号』(2014/1/1&1/15)

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