▼ 福島大学と日本原子力研究開発機構(JAEA)の
協定への疑義:浦田賢治
Lawyer poses quesitons over academic agreement
between Fukushima University and Japan Atomic Energy Agency
7月21日の福島民報に次のような報道が流れた。福島大学構内に日本原子力研究開発機構(JAEA)が研究室を持ち、除染技術の共同研究などをするという。福島県は県として「脱原発」の方向性を確認した中、地元の大学に原子力を推進する研究機関が入って利害の葛藤が起こる恐れはないのかと、不審に思った。
■ 福大と原子力機構が協定 放射能の研究強化
http://www.minpo.jp/view.phppageId=4107&blockId=9868507&newsMode=article
福島大と日本原子力研究開発機構は20日、連携協力に関する協定書を締結した。大学構内に研究室を新設し、放射性物質除去の技術開発などを進める。
研究室にはゲルマニウム検出器を導入し、土壌に含まれる放射線量を計測し除染技術などを開発する。空間放射線量の常時モニタリングや放射能汚染の生態系への影響の調査研究も予定している。
そうしたら、早稲田大学名誉教授、国際反核法律家協会副会長の浦田賢治さんから、まさしくこの問題についての寄稿があった。以下、この協定に大きく疑義を呈す公開書簡を紹介する。(青字はブログ運営者が重要と思った部分である。)
▼ 原発の存続・拡散は人道に対する犯罪である
――福島大学役員会および同教育研究評議会に対する公開書簡
さる6月21日開催の福島大学教育研究評議会に対して、同大学役員会が行なった報告には、教員控室等の掲示によれば、日本原子力研究開発機構(JAEA)と福島大学が、次の5項目にわたる協定(以下、今回協定という)を締結することが含まれております。
1.双方が保有する研究施設・設備の共同利用等、
2.共同研究等の研究協力、
3.人材の交流
4.人材の育成、
5.双方が合意したその他の連携協力活動
これは、きわめて包括的な定めかたをしており、また双方が合意することは何でもできる定めであると読むことができます。したがって、各項目の内容は実施計画などに委ねられるものと思われますが、この文書が未だ明示されておりません。今回協定文書の調印に先立ってこれを作成し、少なくとも学内関係者に明示することが、事態の重大性に照らし必要であります。
今回協定の締結に先立ちJAEAは、5月6日付けをもって「福島支援本部」を新設して、福島第一原発事故の最終的な収束に向けた中長期的な技術的課題の解決に貢献する体制を構築することとした旨公表しました。他方でJAEAは5月8日、福島大学の協力を得て、学校等の校庭・園庭の空間線量低減のための当面の対策に関する検討を行いました。しかしながら、今回協定が構想する作業は、事故の最終的な収束にむけた作業にかかわることから広範かつ中長期的なものであり、こうした当面の対策活動とは次元を異にする性格をもつものとおもわれます。
そこで今回協定の意味と問題点について判断するためには、つぎの諸点の認識が前提となります。とりわけ東日本大震災後の緊急事態のなかにあっても、当契約の相手方であるJAEAは本来強力な原発推進機構であることを直視することが肝要であります。単なる調査・研究・教育機関ではありません。これまで、原子力基本法に定められた唯一の「原子力の開発機関」として活動してきました。しかも「日本原子力研究開発機構法」では、JAEAの目的および業務に、原子力の「安全」は明示的されていません。「安全」ではなく、きわめて危険な開発、すなわち「核燃料サイクルを確立するための高速増殖炉及びこれに必要な核燃料物質の開発並びに核燃料物質の再処理に関する技術及び高レベル放射性廃棄物の処分等に関する技術の開発を」行うのです。原発の副産物にはプルトニューム239がありますが、この半減期は実に2万4千100年にわたり、半永久的に環境を汚染します。これが体内に沈着すれば癌や遺伝的な影響を引き起こし、将来世代に深刻な結果をもたらします。ウランの採掘から高レベル放射性廃棄物の処分にいたる核燃料サイクルは、人類文明の数千年の歩みを振り返っただけでも、最も危険な存在であります。
しかも核燃料サイクルの運用について、一般に国も事業者も事故の隠蔽、その偽証、さらに過小評価をしてきたため、専門家と一般民衆から国も事業者も信頼されないという結果を生んでおります。また最近のJAEAについて例えば、次のように報道されております。JAEAは、いま、もっとも危険な「もんじゅ」の稼動にむけた作業をすすめています。もんじゅでは電気がなくても、高低差と温度差による対流でナトリウムを循環させて原子炉を冷やす仕組みになっています。にもかかわらず、さる4月20日JAEAは、運転停止中のため実際の訓練ができず、データ解析などによる確認だけで検査を済ませて、すべての電源喪失を想定した訓練を行ったなどとする報告書を経産相に提出しました。
JAEAとその「福島支援本部」の当該業務に、今回の連携協定によって福島大学が参加することは、地元はもとより、地域や地球上の全ての生命体と人類の生存にとってきわめて危険なJAEAの開発業務の一環に参加することです。
核兵器と核エネルギーはダモクレスの剣の2つの刃である。われらは、核兵器の研究と改良によってダモクレスの刃の鋭利なほうを研磨してそれをいっそう危険なものにしている。この剣の鈍い刃もまた、原子炉の拡散と維持によって危険なレベルにまで研磨されつつある。剣をつるす脅威の糸は、少しずつ切り刻まれつつある。なぜなら、核保有国が増加し、インターネットで核兵器製造知識の入手が可能になり、原子炉廃棄物に由来する核兵器物質の入手が可能になり、さらにテロ組織の活動が爆弾取得を念願しているからだ。ダモクレスの剣は日々危険なものになりつつある。
この言葉は、2011年6月18日日曜日、ポーランドのシュチェチン大学で、国際反核法律家協会(IALANA)会長で、元国際司法裁判所次長であるウィーラマントリー判事がおこなった講演のキーワードであります。翌日、私も出席した国際反核法律家協会(IALANA)総会は、「核兵器と核エネルギーのない世界を緊急に呼びかける」宣言を採択しました。そのなかに、つぎの項目がふくまれております。
5 IALANAは、フクシマの悲劇について日本のメンバーに対して弔意を表明し、日本のメンバーによる核兵器および核エネルギーの全廃の呼びかけを全面的に支持した。
6 IALANAは、核エネルギーの世界規模での廃絶を呼びけることを決定した。われわれに必要なことは、再生可能エネルギーとエネルギー生産の民主化とにむけた完全な転換である。
7 IALANAは、弁護士会と大学、法学生と青年法律家に対してメッセージを送る。
こうした法律家たちの実践の要請に応えて、わたくしも、貴台にこの文書をお届けするものであります。
ウィーラマントリー判事は、大震災発生の3日後、3月14日の時点で、つぎのように世界の環境相にあてて発信しました。
原発の恐るべき帰結は将来世代へ破局的な損害をあたえるだけではない。太陽光その他の再生可能エネルギー源は、世界が必要とするあらゆるエネルギーを供給できるのに、それらを無視することになっている。原子炉の存在がテロリストの標的になっている。原子炉からでる廃棄物の総量は計測不能であるが、これを安全に処理する方法はない。これらのことを知りながら、原発を存続し拡散するのは、信託されたことに違反し続け、子や孫への責任を放棄することになる。道徳と法のいかなる基準に照らしても、正当化できない。現存する国際法、環境法、及び持続的発展に関する国際法の、あらゆる原則に違反する。政府当局者が新しい原発の建設を止めるため直ちに行動しなければ、危険を自覚しつつ将来世代に対する犯罪をおかすことになる。
私は、この見解に賛同しています。そればかりか、次のように考えております。原発の存続と拡散は、現存世代に対しても人道に対する犯罪になると考えます。日本政府と東京電力によって、一般市民である地域住民の人間の尊厳に対する深刻な攻撃がなされ、生活の質を極端におとされるなど、非人道的行為がなされています。そういう意図はないと弁明するかもしれませんが、人道に対する犯罪では、意図に関する要件は問題になりません。
人間の尊厳が攻撃されている点で、原発の生存被曝者がうける苦しみの質はヒロシマ・ナガサキの被爆者のそれと共通するものがあります。しかも、この原発被曝者の数は桁違いに多く、いまなお定かでないほどです。チェルノブイリ事故では、事件発生後25年近く経過して初めて、死者の数はおよそ100万人にちかいという調査結果があきらかになりました。この原発被曝者が発生した地域は、北欧をふくむヨーロッパ全域におよびました。ご承知のとおり、フクシマで、内部被曝を含む低線量被曝が、現場労働者や子どもたち、地域住民の生命、健康と安全に現実的に脅威を及ぼしています。しかも排出放射性物質の悪影響は大気と海洋をふくむ地球環境に及び、生態系の破壊と繋がり人類の生存に関わっております。この認識を人類社会は共有し、脅威を減らす方策を日本政府と東京電力は実施しなければなりません。
原発の存続・拡散は将来世代への犯罪であり、かつ現存世代への人道に対する犯罪であります。この倫理的かつ法的な観点から、JAEA業務に参加することの意味と問題性を根源的に省察すること、このことが緊急かつ重大な課題であると考えるものであります。一般に福島大学役員会および同教育研究評議会は、研究主題と方法の探求・選択について学問の自由を尊重し、そのために教授会の自治をふくむ大学の自治を堅持することが憲法上要請されております。こうした憲法上の権利を侵害される事態に対して教職員は、内部告発行為を含めて正々堂々と批判し抗議し、かつこれがいれられない場合には抵抗権を行使することが必要になります。このことが、人類の歴史的経験に照らして憲法秩序を維持するために必要であると考えるものであります。どうか今回未曾有の危機状況において、学術の府で教育と研究の仕事をなさる専門職業人の組織として、役員会および教育研究評議会がその責務をまっとうされるように心から切望いたします。
以上の考察にもとづいて、事態の緊急かつ重大であることからして、さしあたり、つぎの諸点を提言いたします。
1 今回協定の手続きを中断すること(大学における適正手続の確保)
2 JAEAと福島大学が構想する今回協定の実施計画の、少なくとも骨子を公表すること。しかも今回協定の実施計画が、自主・民主・公開の精神で実施されることを確保する手立てをしめすこと(情報公開の徹底)。
3 本学の教職員集団に対し、今回協定等が、原発の存続・拡散とは無関係であることを確認すること、そのための厳格な判断基準を示し、今回協定等について疑義が生じないよう説明をつくすこと(今回協定実施の犯罪性の回避)。(終)
『Peace Philosophy Centre』(Thursday, July 21, 2011)
http://peacephilosophy.blogspot.com/2011/07/jaea-lawyer-poses-quesitons-over.html
協定への疑義:浦田賢治
Lawyer poses quesitons over academic agreement
between Fukushima University and Japan Atomic Energy Agency
7月21日の福島民報に次のような報道が流れた。福島大学構内に日本原子力研究開発機構(JAEA)が研究室を持ち、除染技術の共同研究などをするという。福島県は県として「脱原発」の方向性を確認した中、地元の大学に原子力を推進する研究機関が入って利害の葛藤が起こる恐れはないのかと、不審に思った。
■ 福大と原子力機構が協定 放射能の研究強化
http://www.minpo.jp/view.phppageId=4107&blockId=9868507&newsMode=article
福島大と日本原子力研究開発機構は20日、連携協力に関する協定書を締結した。大学構内に研究室を新設し、放射性物質除去の技術開発などを進める。
研究室にはゲルマニウム検出器を導入し、土壌に含まれる放射線量を計測し除染技術などを開発する。空間放射線量の常時モニタリングや放射能汚染の生態系への影響の調査研究も予定している。
そうしたら、早稲田大学名誉教授、国際反核法律家協会副会長の浦田賢治さんから、まさしくこの問題についての寄稿があった。以下、この協定に大きく疑義を呈す公開書簡を紹介する。(青字はブログ運営者が重要と思った部分である。)
▼ 原発の存続・拡散は人道に対する犯罪である
――福島大学役員会および同教育研究評議会に対する公開書簡
浦田賢治
早稲田大学名誉教授
国際反核法律家協会(IALANA)副会長
日本学術会議・元会員(13,14,15期)
2011年7月18日早稲田大学名誉教授
国際反核法律家協会(IALANA)副会長
日本学術会議・元会員(13,14,15期)
さる6月21日開催の福島大学教育研究評議会に対して、同大学役員会が行なった報告には、教員控室等の掲示によれば、日本原子力研究開発機構(JAEA)と福島大学が、次の5項目にわたる協定(以下、今回協定という)を締結することが含まれております。
1.双方が保有する研究施設・設備の共同利用等、
2.共同研究等の研究協力、
3.人材の交流
4.人材の育成、
5.双方が合意したその他の連携協力活動
これは、きわめて包括的な定めかたをしており、また双方が合意することは何でもできる定めであると読むことができます。したがって、各項目の内容は実施計画などに委ねられるものと思われますが、この文書が未だ明示されておりません。今回協定文書の調印に先立ってこれを作成し、少なくとも学内関係者に明示することが、事態の重大性に照らし必要であります。
今回協定の締結に先立ちJAEAは、5月6日付けをもって「福島支援本部」を新設して、福島第一原発事故の最終的な収束に向けた中長期的な技術的課題の解決に貢献する体制を構築することとした旨公表しました。他方でJAEAは5月8日、福島大学の協力を得て、学校等の校庭・園庭の空間線量低減のための当面の対策に関する検討を行いました。しかしながら、今回協定が構想する作業は、事故の最終的な収束にむけた作業にかかわることから広範かつ中長期的なものであり、こうした当面の対策活動とは次元を異にする性格をもつものとおもわれます。
そこで今回協定の意味と問題点について判断するためには、つぎの諸点の認識が前提となります。とりわけ東日本大震災後の緊急事態のなかにあっても、当契約の相手方であるJAEAは本来強力な原発推進機構であることを直視することが肝要であります。単なる調査・研究・教育機関ではありません。これまで、原子力基本法に定められた唯一の「原子力の開発機関」として活動してきました。しかも「日本原子力研究開発機構法」では、JAEAの目的および業務に、原子力の「安全」は明示的されていません。「安全」ではなく、きわめて危険な開発、すなわち「核燃料サイクルを確立するための高速増殖炉及びこれに必要な核燃料物質の開発並びに核燃料物質の再処理に関する技術及び高レベル放射性廃棄物の処分等に関する技術の開発を」行うのです。原発の副産物にはプルトニューム239がありますが、この半減期は実に2万4千100年にわたり、半永久的に環境を汚染します。これが体内に沈着すれば癌や遺伝的な影響を引き起こし、将来世代に深刻な結果をもたらします。ウランの採掘から高レベル放射性廃棄物の処分にいたる核燃料サイクルは、人類文明の数千年の歩みを振り返っただけでも、最も危険な存在であります。
しかも核燃料サイクルの運用について、一般に国も事業者も事故の隠蔽、その偽証、さらに過小評価をしてきたため、専門家と一般民衆から国も事業者も信頼されないという結果を生んでおります。また最近のJAEAについて例えば、次のように報道されております。JAEAは、いま、もっとも危険な「もんじゅ」の稼動にむけた作業をすすめています。もんじゅでは電気がなくても、高低差と温度差による対流でナトリウムを循環させて原子炉を冷やす仕組みになっています。にもかかわらず、さる4月20日JAEAは、運転停止中のため実際の訓練ができず、データ解析などによる確認だけで検査を済ませて、すべての電源喪失を想定した訓練を行ったなどとする報告書を経産相に提出しました。
JAEAとその「福島支援本部」の当該業務に、今回の連携協定によって福島大学が参加することは、地元はもとより、地域や地球上の全ての生命体と人類の生存にとってきわめて危険なJAEAの開発業務の一環に参加することです。
核兵器と核エネルギーはダモクレスの剣の2つの刃である。われらは、核兵器の研究と改良によってダモクレスの刃の鋭利なほうを研磨してそれをいっそう危険なものにしている。この剣の鈍い刃もまた、原子炉の拡散と維持によって危険なレベルにまで研磨されつつある。剣をつるす脅威の糸は、少しずつ切り刻まれつつある。なぜなら、核保有国が増加し、インターネットで核兵器製造知識の入手が可能になり、原子炉廃棄物に由来する核兵器物質の入手が可能になり、さらにテロ組織の活動が爆弾取得を念願しているからだ。ダモクレスの剣は日々危険なものになりつつある。
この言葉は、2011年6月18日日曜日、ポーランドのシュチェチン大学で、国際反核法律家協会(IALANA)会長で、元国際司法裁判所次長であるウィーラマントリー判事がおこなった講演のキーワードであります。翌日、私も出席した国際反核法律家協会(IALANA)総会は、「核兵器と核エネルギーのない世界を緊急に呼びかける」宣言を採択しました。そのなかに、つぎの項目がふくまれております。
5 IALANAは、フクシマの悲劇について日本のメンバーに対して弔意を表明し、日本のメンバーによる核兵器および核エネルギーの全廃の呼びかけを全面的に支持した。
6 IALANAは、核エネルギーの世界規模での廃絶を呼びけることを決定した。われわれに必要なことは、再生可能エネルギーとエネルギー生産の民主化とにむけた完全な転換である。
7 IALANAは、弁護士会と大学、法学生と青年法律家に対してメッセージを送る。
こうした法律家たちの実践の要請に応えて、わたくしも、貴台にこの文書をお届けするものであります。
ウィーラマントリー判事は、大震災発生の3日後、3月14日の時点で、つぎのように世界の環境相にあてて発信しました。
原発の恐るべき帰結は将来世代へ破局的な損害をあたえるだけではない。太陽光その他の再生可能エネルギー源は、世界が必要とするあらゆるエネルギーを供給できるのに、それらを無視することになっている。原子炉の存在がテロリストの標的になっている。原子炉からでる廃棄物の総量は計測不能であるが、これを安全に処理する方法はない。これらのことを知りながら、原発を存続し拡散するのは、信託されたことに違反し続け、子や孫への責任を放棄することになる。道徳と法のいかなる基準に照らしても、正当化できない。現存する国際法、環境法、及び持続的発展に関する国際法の、あらゆる原則に違反する。政府当局者が新しい原発の建設を止めるため直ちに行動しなければ、危険を自覚しつつ将来世代に対する犯罪をおかすことになる。
私は、この見解に賛同しています。そればかりか、次のように考えております。原発の存続と拡散は、現存世代に対しても人道に対する犯罪になると考えます。日本政府と東京電力によって、一般市民である地域住民の人間の尊厳に対する深刻な攻撃がなされ、生活の質を極端におとされるなど、非人道的行為がなされています。そういう意図はないと弁明するかもしれませんが、人道に対する犯罪では、意図に関する要件は問題になりません。
人間の尊厳が攻撃されている点で、原発の生存被曝者がうける苦しみの質はヒロシマ・ナガサキの被爆者のそれと共通するものがあります。しかも、この原発被曝者の数は桁違いに多く、いまなお定かでないほどです。チェルノブイリ事故では、事件発生後25年近く経過して初めて、死者の数はおよそ100万人にちかいという調査結果があきらかになりました。この原発被曝者が発生した地域は、北欧をふくむヨーロッパ全域におよびました。ご承知のとおり、フクシマで、内部被曝を含む低線量被曝が、現場労働者や子どもたち、地域住民の生命、健康と安全に現実的に脅威を及ぼしています。しかも排出放射性物質の悪影響は大気と海洋をふくむ地球環境に及び、生態系の破壊と繋がり人類の生存に関わっております。この認識を人類社会は共有し、脅威を減らす方策を日本政府と東京電力は実施しなければなりません。
原発の存続・拡散は将来世代への犯罪であり、かつ現存世代への人道に対する犯罪であります。この倫理的かつ法的な観点から、JAEA業務に参加することの意味と問題性を根源的に省察すること、このことが緊急かつ重大な課題であると考えるものであります。一般に福島大学役員会および同教育研究評議会は、研究主題と方法の探求・選択について学問の自由を尊重し、そのために教授会の自治をふくむ大学の自治を堅持することが憲法上要請されております。こうした憲法上の権利を侵害される事態に対して教職員は、内部告発行為を含めて正々堂々と批判し抗議し、かつこれがいれられない場合には抵抗権を行使することが必要になります。このことが、人類の歴史的経験に照らして憲法秩序を維持するために必要であると考えるものであります。どうか今回未曾有の危機状況において、学術の府で教育と研究の仕事をなさる専門職業人の組織として、役員会および教育研究評議会がその責務をまっとうされるように心から切望いたします。
以上の考察にもとづいて、事態の緊急かつ重大であることからして、さしあたり、つぎの諸点を提言いたします。
1 今回協定の手続きを中断すること(大学における適正手続の確保)
2 JAEAと福島大学が構想する今回協定の実施計画の、少なくとも骨子を公表すること。しかも今回協定の実施計画が、自主・民主・公開の精神で実施されることを確保する手立てをしめすこと(情報公開の徹底)。
3 本学の教職員集団に対し、今回協定等が、原発の存続・拡散とは無関係であることを確認すること、そのための厳格な判断基準を示し、今回協定等について疑義が生じないよう説明をつくすこと(今回協定実施の犯罪性の回避)。(終)
『Peace Philosophy Centre』(Thursday, July 21, 2011)
http://peacephilosophy.blogspot.com/2011/07/jaea-lawyer-poses-quesitons-over.html
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