◎ 矛盾と強権の教育行政~都立高校校長が都教委の内実を告発
都教育委員会の「職員会議で教職員の意向を確認する挙手・採決禁止通知」(06年4月、一方的に発出した)の撤回を求め、公開討論を要求したが、拒否された都立三鷹高校の土肥信雄校長に、今まで都教委がやってきたことをすべて話してもらおうと、保護者・市民が「学校に言論の自由を求めて!」集会を9月27日夜、東京の武蔵野市で開き、約350人が参加した。この他、400人が会場に入れず、外で待機する盛況ぶり。
まず三鷹高校の保護者が、「土肥先生の遅刻指導は、他校に見られる『罰を与えたり校門を閉めたり』というのではなく、生徒一人一人の名前を覚え朝、校門に立ち呼び掛け、*生徒の自発性を高めている」、卒業した大学生が「3年生になって赴任した土肥先生はそれまでの校長と異なり、生徒と多く触れ合い、サッカー部の全試合を観戦に来てくれた」と、土肥校長の人柄を語った。
続いて土肥校長が、以下の通り都教委の違法行為や高圧姿勢、言論封殺の実態を報告した。
<1> ① ”君が代”強制を強化する都教委の10・23通達は違憲・違法とした06年9月の東京地裁判決の速報を職員室で教員から知らされ、「都教委はやり過ぎだ」と言った、②米長邦雄・都教育委員が天皇に”君が代”強制は「良くない」と言われても止めず、一層厳しく言うようになったことを飲み会で批判した――の2点を内部告発され、「校長たる者が都教委を批判するとは何事だ」と、度重なる事情聴取を受けた。
<2> 神津(こうず)高校の校長当時、都教委は卒業式で教員の起立をチェックさせるため、「5分前に指定された席に着席させろ」と指示して来たのに、監視役の指導主事2名中の1名が遅刻したのはおかしい、と校長会で言うと、賀澤敬二・指導課長(当時)は「そんな神津島の個人的なことを言うんじゃない」と述べた。
<3> 3年前の校長会で、都教委が「ある学校の文化祭に来た”一都民”が、偏った考えに基づく、生徒の掲示物があった、と指摘してきた。校長は十分注意し下さい」と発言した。内容が事実と違っていたり、差別的であったりしなければ、生徒の意見は尊重すべきで、「掲示物を外せというのは憲法で禁ずる検閲に当たらないか。裁判があったら負けるのでないか」と問うと、都教委は曖昧にした。だが、多くの校長は「こういう場合、貼り続けることはできない」と思っただろう。
<4> 定時制の教育研究会の報告書に教科指導のテーマで執筆した教員が、「他誌にリベラルな論文を書いている」という理由で、都教委に原稿を差し替えられた。
<5> 「10・23通達通り卒業式等の”君が代”時、教員に起立させる職務命令を、校長の権限と責任で、口頭と文書の両方で出せ」と、都教委が全都立学校の校長に強制している問題で、土肥校長が「文書では出さない」と言ったら、6回も都教委に呼ばれ、1対7や1対5で「出せ、出せ」と言われた。「校長の権限と責任」なんて、実際はない。
<6> 都教委は人事考課制度で、教職員の業績評価の実施要領に、「校長の権限による1次評価は、4段階(A~D)の絶対評価である」と明記しながら、07年から校長ヒアリングや地区別の校長連絡会の際、「C・D評価を20%付けろ。20%以下なら書類を受け取らない」と、実質「相対評価」を校長に強制している。この矛盾をマスコミに出したら、9月4日、「地方公務員法の守秘義務違反の疑い」で都教委に事情聴取された。しかし、「実施要領違反の都教委こそ法令順守義務違反だ。服務事故として調査を」と、公益通報者保護法に基づき告発した。
この後のパネルディスカッションで、教育評論家の尾木直樹さんは「”挙手・採決禁止通知”後、あちこちの教育長に会うと『東京はどうなっているの?』と言われる。都教委は全国的にも超異常で、民間企業ならとっくに倒産している。少しでも多くの都民に『税金で仕事をしている都教委がおかしくなっている』と事実を知らせることが大切だ」と語り、藤田英典・国際基督教大教授は「都教委の非常識が国の教育政策に反映され、全国に垂れ流される傾向がある。思想的に偏った教育方針が持ち込まれ、子どもたちの学びは豊かなものにならない。都教委は政治的圧力の下で従わされているのか、組織の仕組みそのものに問題ありか、『税金返せ』と言いたい」と述べた。
西原博史・早稲田大教授は、「76年の最高裁学テ判決で、『教育内容について、文部省(現文科省)は大綱的基準しか定めてはいけない』と判例が確定しているのに、都教委がマニュアルを作り命令するのは理論も合理性もない。能力のない都教委は時々暴れないと、やっていけないのではないか。ただ、都教委の横暴を許しているのは我々市民だという面もある」と指摘し、漫画家の石坂啓さんは「2年前に出た子どもの中学の卒業式は窮屈だった。3年ほど前から『君が代を大きな声で』という”指導”が強まっている。この次は『(町田市の一部の学校のように)指が3本入るくらい大きく口を開けて歌え』となってしまわないか」と危惧の念を表明。
都教委の「教職員の業績評価制度」については、『世界』編集長の岡本厚さんが「『労働経済白書』は、業績主義で特に50代の社員は意欲が低下している、と記述している」、藤田教授が「教員や看護師に燃え尽き症候群が増えているが、これらは共同してやらなければらない職種であり、業績評価はなじまない」と、指摘した。
永野厚男(教育ライター)
都教育委員会の「職員会議で教職員の意向を確認する挙手・採決禁止通知」(06年4月、一方的に発出した)の撤回を求め、公開討論を要求したが、拒否された都立三鷹高校の土肥信雄校長に、今まで都教委がやってきたことをすべて話してもらおうと、保護者・市民が「学校に言論の自由を求めて!」集会を9月27日夜、東京の武蔵野市で開き、約350人が参加した。この他、400人が会場に入れず、外で待機する盛況ぶり。
まず三鷹高校の保護者が、「土肥先生の遅刻指導は、他校に見られる『罰を与えたり校門を閉めたり』というのではなく、生徒一人一人の名前を覚え朝、校門に立ち呼び掛け、*生徒の自発性を高めている」、卒業した大学生が「3年生になって赴任した土肥先生はそれまでの校長と異なり、生徒と多く触れ合い、サッカー部の全試合を観戦に来てくれた」と、土肥校長の人柄を語った。
続いて土肥校長が、以下の通り都教委の違法行為や高圧姿勢、言論封殺の実態を報告した。
<1> ① ”君が代”強制を強化する都教委の10・23通達は違憲・違法とした06年9月の東京地裁判決の速報を職員室で教員から知らされ、「都教委はやり過ぎだ」と言った、②米長邦雄・都教育委員が天皇に”君が代”強制は「良くない」と言われても止めず、一層厳しく言うようになったことを飲み会で批判した――の2点を内部告発され、「校長たる者が都教委を批判するとは何事だ」と、度重なる事情聴取を受けた。
<2> 神津(こうず)高校の校長当時、都教委は卒業式で教員の起立をチェックさせるため、「5分前に指定された席に着席させろ」と指示して来たのに、監視役の指導主事2名中の1名が遅刻したのはおかしい、と校長会で言うと、賀澤敬二・指導課長(当時)は「そんな神津島の個人的なことを言うんじゃない」と述べた。
<3> 3年前の校長会で、都教委が「ある学校の文化祭に来た”一都民”が、偏った考えに基づく、生徒の掲示物があった、と指摘してきた。校長は十分注意し下さい」と発言した。内容が事実と違っていたり、差別的であったりしなければ、生徒の意見は尊重すべきで、「掲示物を外せというのは憲法で禁ずる検閲に当たらないか。裁判があったら負けるのでないか」と問うと、都教委は曖昧にした。だが、多くの校長は「こういう場合、貼り続けることはできない」と思っただろう。
<4> 定時制の教育研究会の報告書に教科指導のテーマで執筆した教員が、「他誌にリベラルな論文を書いている」という理由で、都教委に原稿を差し替えられた。
<5> 「10・23通達通り卒業式等の”君が代”時、教員に起立させる職務命令を、校長の権限と責任で、口頭と文書の両方で出せ」と、都教委が全都立学校の校長に強制している問題で、土肥校長が「文書では出さない」と言ったら、6回も都教委に呼ばれ、1対7や1対5で「出せ、出せ」と言われた。「校長の権限と責任」なんて、実際はない。
<6> 都教委は人事考課制度で、教職員の業績評価の実施要領に、「校長の権限による1次評価は、4段階(A~D)の絶対評価である」と明記しながら、07年から校長ヒアリングや地区別の校長連絡会の際、「C・D評価を20%付けろ。20%以下なら書類を受け取らない」と、実質「相対評価」を校長に強制している。この矛盾をマスコミに出したら、9月4日、「地方公務員法の守秘義務違反の疑い」で都教委に事情聴取された。しかし、「実施要領違反の都教委こそ法令順守義務違反だ。服務事故として調査を」と、公益通報者保護法に基づき告発した。
この後のパネルディスカッションで、教育評論家の尾木直樹さんは「”挙手・採決禁止通知”後、あちこちの教育長に会うと『東京はどうなっているの?』と言われる。都教委は全国的にも超異常で、民間企業ならとっくに倒産している。少しでも多くの都民に『税金で仕事をしている都教委がおかしくなっている』と事実を知らせることが大切だ」と語り、藤田英典・国際基督教大教授は「都教委の非常識が国の教育政策に反映され、全国に垂れ流される傾向がある。思想的に偏った教育方針が持ち込まれ、子どもたちの学びは豊かなものにならない。都教委は政治的圧力の下で従わされているのか、組織の仕組みそのものに問題ありか、『税金返せ』と言いたい」と述べた。
西原博史・早稲田大教授は、「76年の最高裁学テ判決で、『教育内容について、文部省(現文科省)は大綱的基準しか定めてはいけない』と判例が確定しているのに、都教委がマニュアルを作り命令するのは理論も合理性もない。能力のない都教委は時々暴れないと、やっていけないのではないか。ただ、都教委の横暴を許しているのは我々市民だという面もある」と指摘し、漫画家の石坂啓さんは「2年前に出た子どもの中学の卒業式は窮屈だった。3年ほど前から『君が代を大きな声で』という”指導”が強まっている。この次は『(町田市の一部の学校のように)指が3本入るくらい大きく口を開けて歌え』となってしまわないか」と危惧の念を表明。
都教委の「教職員の業績評価制度」については、『世界』編集長の岡本厚さんが「『労働経済白書』は、業績主義で特に50代の社員は意欲が低下している、と記述している」、藤田教授が「教員や看護師に燃え尽き症候群が増えているが、これらは共同してやらなければらない職種であり、業績評価はなじまない」と、指摘した。
校長先生の教育方針私は大賛成です、これからもがんばってください。